【毎日コラム】妊娠中の腰痛に、骨盤ベルトは効くのか。研究で分かっていること・いないこと

「妊娠してから、腰が痛くて寝返りがつらい」「歩くと恥骨のあたりがズキッとする」「骨盤ベルトは、つけたほうがいいですか」。
妊娠中の腰や骨盤の痛みは、妊婦さんの困りごとの中でも、とりわけ多いもののひとつです。「妊娠中だから仕方ない」と我慢している方も少なくありません。
今日は、妊娠中の腰痛・骨盤の痛みについて、どんな対処にどのくらいの根拠があるのかを整理します。骨盤ベルトについても、研究の結論をそのままお伝えします。
1|妊婦さんの約半数に起こり、産後にも残る
妊娠に関連した腰・骨盤の痛みについての系統的レビュー(Wu ら、Eur Spine J 2004年)によると、妊娠中に腰や骨盤の痛みを経験する人は約45%。そのうち重い痛みがある人は約25%でした。日本の比較的小規模な調査では、約7割という報告もあります。
痛みの場所は、大きく2つに分けられます。
- 腰の痛み:腰の背骨のあたり。妊娠していないときの腰痛と似た場所です
- 骨盤帯の痛み:お尻の奥(仙腸関節のあたり)や、恥骨のあたり。寝返り、片足立ち、階段、車の乗り降りで強くなりやすい痛みです
両方が重なっている方もいます。そして、同じレビューでは、産後も約25%の人に痛みが残っていました。
日本の調査(Inoue-Hirakawa ら、2024年)では、産後1年以内に腰や骨盤の痛みを経験した女性は66%にのぼりましたが、そのうち医療機関などに相談した人は9%にとどまっていました。多くの方が、誰にも相談せずに過ごしていることになります。
2|対処法を、根拠の強さで並べる
妊娠中の腰・骨盤の痛みへの対処については、34の比較試験・5,121人をまとめたコクランレビュー(Liddle・Pennick、2015年)があります。

運動:陸上での運動は、痛みと生活上の支障を減らしました(根拠の質は低い)。8〜12週間続ける運動プログラムでは、腰・骨盤の痛みを訴える人が34%少なく、痛みのために仕事を休む人が24%少なくなっていました(根拠の質は中程度)。
水中運動:1つの試験で、痛みによる休業が少なくなっていました。
骨盤ベルト:個々の試験で結果が分かれており、まとまった結論は出ていません。
鍼:本物の鍼と、偽の鍼とのあいだに差が見られませんでした。
現時点で、いちばん根拠が積み上がっているのは「運動」です。
3|骨盤ベルトは、効くのか
骨盤ベルトについては、その後も研究が続いています。2025年に公表されたメタ分析(Lauridsen ら)は、ベルトの効果を統計的に確かめることができず、「臨床的な推奨を行うには、さらなる研究が必要」と結論しています。それ以前のレビュー(Ho ら、2009年)も、根拠は不十分としていました。日本で行われた最近の研究でも、はっきりした差は示されていません。
日本で昔から使われてきた「さらし」や「腹帯」については、妊娠中の腰痛に対する効果を比較試験で調べた研究が、そもそも見当たりません。
ここから言えるのは、次のことです。
- 「ベルトをつければ腰痛がよくなる」とは、今の研究からは言えない
- 同時に、「効かない」と証明されたわけでもない。試験によっては、痛みが軽くなったという結果もある
- つける時期、1日の時間、位置、締める強さについて、研究で確立した方法はない
ですから、保健室では次のようにお伝えしています。つけてみて、動くのが楽になるなら使ってよい。楽にならない、苦しい、かえって痛いなら、無理に使う必要はない。そして、「つけなかったから骨盤がゆがむ・開く」という心配はいりません。そのような根拠はないからです。
使う場合は、お腹のふくらみを締めつけない位置で、苦しくない強さに。長時間つけっぱなしにせず、座るときや寝るときには外す、という使い方が無理のないところです。張りが強くなる、気分が悪くなるときは、すぐに外してください。
4|運動は「予防」にもなるのか
妊娠中の運動と腰痛の予防を調べたメタ分析(Shiri ら、2018年)では、運動をした群で腰痛になる人が9%少なくなっていました。ただし、骨盤帯の痛みについては、予防効果は確認されませんでした。別のメタ分析(Davenport ら、2019年)では、運動は腰・骨盤の痛みの「発生」は減らさないものの、痛みの「強さ」をやわらげていました。
まとめると、運動は妊娠中の腰痛を完全に防ぐ”お守り”ではないけれど、痛みを軽くし、仕事や生活を続けやすくする助けにはなる、ということです。
妊娠経過に問題がない方の運動の目安は、世界保健機関(WHO)などが示す、中強度の活動を週150分。会話ができる程度の強さの、ウォーキング、水中での運動、マタニティ向けの体操などです。切迫早産や出血、前置胎盤、妊娠高血圧症候群などがある場合は、運動の可否を必ず主治医に確認してください。
5|毎日の動作でできる工夫
ここからは、研究で一つひとつ確かめられたものではありませんが、痛みの出やすい動作に対して、理学療法の現場で広く行われている工夫です。合うものだけ、取り入れてみてください。
- 寝返り:両ひざをそろえて曲げ、ひざの間にクッションをはさんで、体をひとかたまりにして回る
- 寝る姿勢:横向きで、ひざの間と、お腹の下にクッションを入れる
- 起き上がり:いったん横向きになり、腕で支えて起きる
- 着替え:ズボンや靴下は、座ってはく(片足立ちを避ける)
- 車の乗り降り:お尻から座り、両足をそろえて回す
- 階段:痛みが強い日は、一段ずつ足をそろえて
- 立ち仕事・座り仕事:同じ姿勢を続けず、30分〜1時間ごとに姿勢を変える
骨盤帯の痛みでは、足を大きく開く動き、片足に体重をかける動きで痛みが出やすくなります。痛みを我慢してストレッチで広げることは、おすすめしません。

6|痛み止めと湿布の注意
妊娠中の痛み止めには、注意が必要です。
ロキソプロフェンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、妊娠後期に使うと、お腹の赤ちゃんの血管(動脈管)や腎臓のはたらき、羊水の量に影響することがあります。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は2021年と2024年に、使用上の注意の改訂を行っており、湿布や塗り薬などの外用薬も対象に含まれています。
「飲み薬ではないから大丈夫」と、ご家族の湿布や市販の湿布を自己判断で使うのは避けてください。
妊娠中の痛み止めとしては、アセトアミノフェンが第一に選ばれますが、これも漫然と使い続けるものではありません。痛みが強くて薬を使いたいときは、産科の主治医にご相談ください。
7|「腰痛」と思っても、産院に連絡してほしいとき
腰の痛みが、じつは別のサインであることがあります。次のような場合は、整体やマッサージではなく、まず産院に連絡してください。
- 腰の痛みやお腹の張りが、規則的にくり返す(10分おきなど)
- 出血がある、水っぽいおりものが流れる
- 熱がある、排尿時に痛みがある、背中の片側が強く痛む
- 足にしびれや力の入りにくさがある、尿や便が出にくい・もれる
- 安静にしていても、夜も眠れないほど痛い
- 胎動が減った・感じない
8|保健室でお手伝いできること
女性とこどもの保健室では、理学療法士が妊娠中の体を拝見し、痛みの出る動作を一緒に確認します。
- 痛みが「腰」なのか「骨盤帯」なのか、どの動作で出るのかの整理
- 寝返り・起き上がり・抱っこ(上のお子さんがいる場合)など、動作の工夫
- 妊娠週数と体調に合わせた、ご自宅での運動のご提案
- 骨盤ベルトをお持ちの場合は、位置と強さの確認。合わないと感じる方には、使わない選択肢も含めてご相談
正直に申し上げると、手で行う施術(徒手療法)が妊娠中の腰痛にどのくらい効くかについても、根拠は十分ではありません。保健室では、その場で楽になることだけを目標にせず、ご自宅で続けられる動き方と運動をお持ち帰りいただくことを大切にしています。産院での妊婦健診を受けていること、主治医から運動や施術を止められていないことを、最初に確認させていただきます。
9|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 妊娠中の腰・骨盤の痛みは、約45%の妊婦さんに起こります。産後にも約25%で残ります。我慢するのが当たり前、ではありません。
- いちばん根拠があるのは運動です。8〜12週間のプログラムで、痛みを訴える人と仕事を休む人が減っていました。
- 骨盤ベルトの効果は、研究では確かめられていません。楽になるなら使う、ならないなら使わない、で大丈夫です。
- 妊娠後期の痛み止め(NSAIDs)は、湿布や塗り薬も含めて注意が必要です。自己判断で使わず、主治医へ。
- 規則的な張り、出血、発熱、しびれをともなう腰痛は、まず産院へ連絡を。
「妊娠中だから仕方ない」とあきらめる前に、できることがあります。
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千葉県流山市(流山セントラルパーク駅 徒歩1分)の「女性とこどもの保健室」は、理学療法士が担当する、託児つきの女性専門治療院です。このコラムの内容に関連するメニューをご紹介します。
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「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- Wu WH, et al. Pregnancy-related pelvic girdle pain (PPP), I: Terminology, clinical presentation, and prevalence. Eur Spine J. 2004;13(7):575-589.
- Liddle SD, Pennick V. Interventions for preventing and treating low-back and pelvic pain during pregnancy. Cochrane Database Syst Rev. 2015;(9):CD001139.
- Lauridsen HH, et al. 妊娠中の腰・骨盤帯痛に対する骨盤ベルトの効果に関する系統的レビュー・メタ分析. 2025.
- Ho SS, Yu WW, Lao TT, Chow DH, Chung JW, Li Y. Effectiveness of maternity support belts in reducing low back pain during pregnancy: a review. J Clin Nurs. 2009;18(11):1523-1532.
- Shiri R, Coggon D, Falah-Hassani K. Exercise for the prevention of low back and pelvic girdle pain in pregnancy: a meta-analysis of randomized controlled trials. Eur J Pain. 2018;22(1):19-27.
- Davenport MH, et al. Exercise for the prevention and treatment of low back, pelvic girdle and lumbopelvic pain during pregnancy: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2019;53(2):90-98.
- Inoue-Hirakawa T, et al. 産後女性の腰痛・骨盤帯痛と受療行動に関する日本の調査. 2024.
- Oishi ら. 妊娠中の骨盤ベルトに関する日本の研究. 2026.
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「使用上の注意」の改訂について(非ステロイド性抗炎症薬)2021年2月25日/2024年10月8日.
- World Health Organization. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. 2020.
- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会『産婦人科診療ガイドライン 産科編2023』.


