【毎日コラム】「貧血ではない」と言われた人へ。女性の鉄欠乏と、よく聞く話の真偽

「健診で貧血はないと言われたのに、ずっと疲れている」「階段で息が切れる」「氷を無性に食べたくなる」「産後、なかなか体力が戻らない」。
こうした不調の背景に、鉄の不足が隠れていることがあります。そして鉄の不足は、ヘモグロビンの値が下がって「貧血」と診断される前から、始まっています。
今日は、女性の鉄欠乏について、公的な統計と研究から整理します。よく聞く「ビタミンCと一緒に」「お茶はだめ」「鉄のフライパンで」といった話の真偽も、確かめていきます。
1|日本の女性は、どのくらい鉄が足りていないか

日本人の食事摂取基準(2025年版)では、月経のある女性の鉄の推奨量は、18〜29歳で1日10.0mg、30〜64歳で10.5mgです。妊娠中は、初期に+2.5mg、中期・後期に+8.5mg、授乳中は+2.0mgが上乗せされます。
これに対して、令和6年の国民健康・栄養調査での実際の摂取量は、20代・30代で6.3mg、40代で6.6mg。推奨量の6割ほどです。妊婦さんでも6.9mgでした。
体に蓄えられた鉄の量を示すのが、血液検査の「フェリチン」です。日本鉄バイオサイエンス学会の診療指針は、20〜40代の女性の約40%が鉄欠乏の状態にあるとしています。健診を受けた女性約1万3千人の調査では、50歳未満の22.3%が貧血(ヘモグロビン12g/dL未満)でした。
2|「貧血ではない」と「鉄が足りている」は、別のこと
体の中の鉄は、まず蓄え(貯蔵鉄)から減っていきます。蓄えが底をついて初めて、ヘモグロビンが下がり、「貧血」になります。つまり、ヘモグロビンが正常でも、蓄えがほとんどない状態がありえます。これを「貧血のない鉄欠乏」「潜在性鉄欠乏」と呼びます。
ふつうの健康診断で測るのは、ヘモグロビンなどです。フェリチンは、多くの場合ふくまれていません。「貧血はありません」という結果は、「鉄の蓄えが十分」という意味ではないのです。
フェリチンの基準は、世界保健機関(WHO)が15未満、日本鉄バイオサイエンス学会が12ng/mL未満を、鉄欠乏としています。「30未満」「50未満」を基準にするという情報も見かけますが、学会の指針は、そうした報告もあると紹介したうえで、今後の検討が望まれる、としています。
3|貧血がなくても、疲れは鉄で良くなるのか
これについては、比較試験があります。
スイスで行われた試験(Vaucher ら、2012年)では、貧血はないがフェリチンが低く、原因の分からない疲れを感じている女性198人を、鉄剤を飲む群と偽薬を飲む群に分けました。12週間後、疲労のスコアは、鉄剤の群で47.7%、偽薬の群で28.8%下がりました。
複数の試験をまとめた分析でも、貧血のない鉄欠乏の人が鉄を補うと、自覚的な疲労は改善していました。ただし、客観的に測った運動能力には差がありませんでした。また、効果が見られたのは、鉄の蓄えが少ない人に限られる傾向がありました。
つまり、「疲れているから鉄を飲めばよい」ではなく、「検査で鉄の蓄えが少ないと分かった人では、補うことで疲れが軽くなる可能性がある」ということです。
4|ほかの症状は、どこまで鉄のせいか
- 氷を食べたくなる(氷食症):氷や土など、食べものでないものを食べたくなる人は、貧血が2.35倍多いというメタ分析があります。氷を1日に何個もかじる習慣がある方は、一度検査を受ける価値があります
- 脚のむずむず:むずむず脚症候群の専門家の指針は、フェリチンが低めの場合に鉄を補うことを検討するとしています
- 運動能力:月経のある女性では、鉄を補うことで持久力の指標が改善したというメタ分析があります。大学の女子選手の約半数が、フェリチン30以下だったという日本の報告もあります
- 抜け毛:「鉄不足で髪が抜ける」とよく言われますが、研究では、抜け毛のある人とない人でフェリチンに差がないという結果もあり、根拠は弱いのが現状です

5|原因は、食事よりも「月経」
鉄が足りない、と聞くと、「食事が悪いのかな」と思いがちです。もちろん摂取量は足りていません。けれども、日本の女子学生1,019人を調べた研究では、食事の内容と鉄欠乏のあいだに関連は見られず、関連していたのは月経の量でした。月経の量が多いと答えた人は、鉄欠乏が1.83倍多くなっていました。
月経のある女性にとって、鉄を失ういちばんの道すじは、月経です。次のようなことがある方は、月経の量が多い可能性があります。
- 昼でも夜用のナプキンが必要、1〜2時間でいっぱいになる
- レバーのようなかたまりが出る
- 月経が8日以上続く
- 月経のたびに、だるさ・立ちくらみが強くなる
過多月経の背景には、子宮筋腫や子宮腺筋症などが隠れていることがあります。鉄剤を飲み続けても、出口をそのままにしていては、蓄えは増えません。月経の量が多い方は、内科だけでなく、婦人科も受診してください。月経の量そのものを減らす治療があります。
なお、閉経後の女性や男性に鉄欠乏が見つかった場合は、胃腸からの出血など、別の原因を調べる必要があります。
6|妊娠中・産後の鉄
妊娠中は、赤ちゃんと胎盤のため、そして増える血液のために、鉄の必要量が大きく増えます。産婦人科診療ガイドライン(産科編2026の原案)によると、日本では妊娠中期以降の妊婦さんの約30〜40%に貧血が見られます。
妊娠中の貧血は、早産や低出生体重との関連が報告されています。産後の貧血は、産後うつとの関連が指摘されており、日本の研究でも、産後に貧血のあった方は、抑うつの指標が高い人が1.63倍多くなっていました。
妊婦健診で鉄剤を処方された方は、飲みにくさがあっても自己判断でやめず、産院に相談してください。薬の種類や飲み方を変える方法があります。産後も、だるさが続くときは、1か月健診などで伝えてみてください。
7|鉄剤の飲み方:よく聞く話を確かめる
「毎日飲むより、1日おきのほうがよい」:鉄を飲むと、体は一時的に鉄の吸収を抑えます。そのため、1日おきに飲んだほうが、1回あたりの吸収率が高くなります(21.8%と16.3%)。飲む総量が同じなら、蓄えの増え方は変わらず、吐き気や便秘などの副作用は少なかった、という試験があります。一方、ヘモグロビンの回復は毎日飲むほうが早かった、という試験もあります。「1日おきでも効果はあり、胃腸の負担が減る可能性がある」という受け取り方が妥当です。飲み方は、処方した医師の指示にしたがってください。
「ビタミンCと一緒に飲むとよい」:中国の比較試験(440人)では、鉄剤にビタミンCを加えても、ヘモグロビンの回復に意味のある差はありませんでした。わざわざ足す必要はなさそうです。
「お茶で飲んではいけない」:日本の学会の診療指針は、鉄剤をお茶で飲んでも、ヘモグロビンの増え方には影響しないとされる、と記しています。一方、鉄剤をコーヒーや朝食と一緒にとると吸収が半分以下に下がったという実験もあります。水で、できれば食事と少し離して飲むのが無難ですが、お茶を一切やめる必要はありません。
副作用:鉄剤では、吐き気、便秘、下痢などの胃腸症状が、偽薬の約2.3倍多く起こります。便が黒くなるのは、心配いりません。つらいときは、薬の種類を変える、量を減らす、点滴にするなどの方法があります。
いつまで飲むか:ヘモグロビンが戻っても、蓄えはまだ空のままです。指針では、貧血が治り、さらにフェリチンが正常になるまで続けるとされています。途中でやめると、すぐにまた不足します。

8|食事でできること
鉄には、肉や魚にふくまれる「ヘム鉄」と、野菜・豆・海藻などにふくまれる「非ヘム鉄」があり、ヘム鉄のほうが吸収されやすい性質があります。赤身の肉、レバー、かつお、まぐろ、あさり、大豆製品、小松菜などを、ふだんの食事に組み込んでいきましょう。
お茶・コーヒーは? 食事と一緒に紅茶を飲むと、非ヘム鉄の吸収が大きく下がることが実験で示されています。食後1時間あけると、その影響は半分ほどになります。ただし、ふだんお茶を飲む習慣と体の鉄の状態との関連は、もともと鉄が不足ぎみの人でしか見られていません。鉄不足を指摘されている方は、濃いお茶やコーヒーを食事中ではなく食間に、というくらいで十分です。
鉄のフライパン・鉄玉子は? 鉄の調理器具の効果を調べた研究は、主に発展途上国で行われており、結果は一貫していません。鉄のかたまりを鍋に入れる方法をカンボジアで試した比較試験では、効果は見られませんでした。日本の鉄玉子についての研究は、見つかりませんでした。「貧血が治る」とは言えません。
そして、ここまでお読みいただいて分かるとおり、月経で多くの鉄を失っている方や妊娠中の方が、食事だけで不足を埋めるのは難しいことです。食事はふだんの土台、不足が分かったら治療。そう分けて考えてください。
9|サプリメントの注意
2025年版の食事摂取基準では、鉄の「耐容上限量」が設定されなくなりました。けれども、これは「いくらとってもよい」という意味ではありません。根拠が十分でないため設定を見合わせたもので、基準には「推奨量を大きく超える摂取は、貧血の治療を目的とする場合を除き、控えるべき」と明記されています。
鉄は、体から排出するしくみがほとんどない栄養素です。検査を受けずに、高用量のサプリメントを長く飲み続けることは、おすすめできません。
もうひとつ、大切な注意があります。鉄剤や鉄のサプリメントを、小さなこどもが誤って飲むと、中毒を起こす危険があります。必ず、こどもの手の届かないところに保管してください。
10|保健室でお手伝いできること
女性とこどもの保健室は、血液検査や鉄剤の処方を行う施設ではありません。鉄欠乏が疑われる方には、内科・婦人科の受診をおすすめしています。
私たちがお手伝いできるのは、次のようなことです。
- 「疲れやすい」「息が切れる」の背景を、体の使い方や体力の面から一緒に確かめること
- 月経の量や症状を伺い、受診先と、医師に伝えるポイントを整理すること
- 治療と並行して、無理のない範囲で体力を戻していく運動の組み立て
- 産後の疲れやすさ、体の痛みのご相談
疲れを「気合いが足りない」「年のせい」「育児中だから」で片づけず、まず調べる。そのきっかけになれたらと思っています。
11|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 日本の女性の鉄の摂取量は、推奨量の6割ほど。20〜40代の約4割が鉄欠乏とされています。
- 「貧血なし」でも、鉄の蓄え(フェリチン)は空のことがあります。気になる方は、検査を。
- 鉄不足のいちばんの原因は、月経です。量が多い方は、婦人科へ。
- 鉄剤は、ビタミンCを足さなくても、お茶をやめなくても大丈夫。ヘモグロビンが戻ったあとも、蓄えが戻るまで続けます。
- 検査なしの高用量サプリメントは控える。鉄剤は、こどもの手の届かないところに。
疲れには、理由があるかもしれません。その理由のひとつは、血液検査で確かめられます。
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「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」微量ミネラル.
- 厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要」.
- 日本鉄バイオサイエンス学会「鉄欠乏性貧血の診療指針」.
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