健康な体作り

【毎日コラム】足りていないのは、減らす努力ではない —— 秋の入り口に考える、女性の「やせ」と栄養

朝晩の風が変わって、秋の彼岸に入りました。「食欲の秋」という言葉が出はじめる季節です。けれど、日本の20代・30代の女性にとって、いま本当に課題になっているのは「食べすぎ」ではありません。

1|5人に1人が「やせ」という状態が、30年続いている

厚生労働省の令和5年 国民健康・栄養調査では、20〜30歳代女性のうちBMI18.5未満の「やせ」に該当する人が20.2%でした。翌年の令和6年調査では16.6%と、年によって上下はありますが、この「およそ5〜6人に1人」という水準は、1990年代からほとんど変わっていません。

肥満が問題として語られることは多いのに、やせについては「うらやましい」「自己管理ができている」と受け取られがちです。しかし日本肥満学会は2024年、若年女性のやせと低栄養に対する注意を促すステートメントを公表しています。学会が名指しで注意を呼びかける程度には、これは健康上の課題として認識されている、ということです。

2|足りていないのは、カルシウムと鉄でした

では、具体的に何が足りていないのか。令和6年の調査結果を、日本人の食事摂取基準(2025年版)の推奨量と並べてみます。

20代女性の1日の摂取量と推奨量の比較。カルシウムと鉄が大きく不足している

目を引くのは、たんぱく質は平均では足りていることです。62.9gで、推奨量50gを上回っています。「プロテインを足しましょう」という話が世の中には多いのですが、少なくとも平均値で見るかぎり、そこが最大の穴ではありません。

はっきり足りていないのはカルシウム(389mg/推奨650mg・約6割)鉄(6.3mg/月経のある女性への推奨10.5mg)です。葉酸も219μgで、推奨240μgにわずかに届いていません。

この2つが足りないことには、女性の体にとって具体的な意味があります。カルシウムは、20歳前後で決まる最大骨量(ピークボーンマス)の材料です。ここで積み上げられなかった分は、あとから取り返すことが難しい。そして閉経前後にエストロゲンが減ると、骨は最も速いスピードで減っていきます。20代の食事が、70代の骨折リスクにつながっている、という話です。

3|鉄不足は「貧血ではない人」にも起きている

鉄については、健康診断で「貧血なし」と言われた人にも起きていることがあります。ヘモグロビンが基準値内でも、体に貯めてある鉄(貯蔵鉄・フェリチン)が減っている状態があるためです。

女子大学生177人を対象にした調査(栄養学雑誌, 2022)では、21.4%が鉄欠乏に該当していました。だるさ、集中しにくさ、立ちくらみ、寒がり——こうした不調は「気合い」や「体質」で説明されがちですが、採血の項目を一つ足すだけで見え方が変わることがあります。

4|やせと無月経は、別々の話ではない

体重が落ちて月経が止まることを、機能性視床下部性無月経(FHA)といいます。米国内分泌学会の診療ガイドラインは、この状態について明確に述べています——治療には、しばしば体重の増加が必要であると。

ここは、伝え方がとても難しいところです。「太ってください」と言われて素直に受け取れる人は多くありません。けれど、月経が止まっている状態が続くと、エストロゲンが出ない期間が長くなり、骨量が落ちます。若い年代で骨がもろくなることは、将来の疲労骨折や骨粗鬆症に直結します。

国際オリンピック委員会も2023年、この問題をREDs(スポーツにおける相対的エネルギー不足)という枠組みで整理し直しました。運動量に対して食べる量が足りないと、月経・骨・免疫・メンタルなど、体の複数のシステムが同時に落ちていく。運動を頑張っている人ほど起こりうる、という点が重要です。

5|朝食を抜くことの意味

令和6年調査では、20歳以上の28.3%が朝食を欠食していました。若い年代ほど高くなります。

朝食欠食については、日本の大規模追跡研究(JPHC研究)が、朝食をほとんど食べない群で脳出血のリスクが約36%高かったと報告しています。観察研究なので「朝食を食べれば防げる」と言い切れるものではありませんが、1食抜くことが1日の摂取量の1/3を失うことである以上、カルシウムや鉄の不足とは無関係ではありません。

6|「好き嫌い」は、しつけの結果ではないかもしれない

お子さんの偏食に悩む方に、必ずお伝えしていることがあります。

英国の双生児研究(Gemini研究)では、幼児期の食物新奇性恐怖(見慣れないものを食べたがらない傾向)の遺伝率が0.6〜0.84と報告されています。つまり、個人差の6〜8割は生まれ持った部分で説明される。育て方の問題ではない、ということです。

これは「だから諦める」という話ではありません。遺伝率が高い形質でも、繰り返し出会わせること(反復曝露)で受け入れられる幅は広がります。ただ、それには時間がかかるというだけです。親の努力不足だと自分を責めながらの食卓は、親にとっても子にとってもつらい。まずそこを外してから作戦を立てたほうが、結果的にうまくいきます。

7|妊娠を考えている人へ

葉酸については、妊娠のごく初期——妊娠に気づく前の時期に最も必要になります。だから「妊娠したら飲む」では間に合わないという構造があり、国はプレコンセプションケア(妊娠前からの健康管理)を推進しています。

やせの状態での妊娠は、低出生体重児のリスクと関連することが知られています。妊活を始める前の体重と栄養状態は、それ自体が準備の一部です。

8|では、何をどれだけ食べれば埋まるのか

「カルシウムが260mg足りない」と言われても、献立には翻訳しにくいと思います。日本食品標準成分表(八訂)の値で、目安を出しておきます。

普通牛乳は100gあたりカルシウム110mg。コップ1杯(200ml)でおよそ220mgです。不足分の260mgは、牛乳1杯+ヨーグルト1個、あるいは牛乳1杯+木綿豆腐半丁、小松菜のおひたし1皿を足す、といった規模感になります。「食生活を全部変える」話ではなく、1日にもう1〜2品足す話です。

鉄は、吸収のされ方に2種類あります。肉や魚に含まれるヘム鉄は吸収がよく、野菜・豆・海藻に含まれる非ヘム鉄は吸収が落ちます。非ヘム鉄はビタミンC(野菜・果物)と一緒にとると吸収が上がり、濃いお茶やコーヒーに含まれるタンニンと同時にとると下がります。食後すぐの濃いお茶を、少し時間をずらすだけでも違います。

そして骨については、カルシウムだけでは足りません。ビタミンD(食事摂取基準の目安量は成人で1日8.5μg)が吸収に関わり、さらに骨に体重をかける運動が必要です。サプリだけで骨は増えません。日に当たること、歩くこと、跳ぶこと。この3つがそろって、はじめて材料が骨になります。

9|サプリメントとの、ちょうどいい距離

「食事から」が基本なのは間違いありません。ただ、一つだけ、国が明確にサプリメントによる追加摂取を推奨している栄養素があります。葉酸です。

妊娠を計画している女性、および妊娠初期の女性に対しては、通常の食事に加えて1日400μgのプテロイルモノグルタミン酸(サプリメント等に含まれる形の葉酸)をとることが推奨されています。神経管閉鎖障害のリスクを下げるためで、これは食事からの葉酸だけでは達成しにくいという判断にもとづいています。

逆に言えば、それ以外の多くの栄養素については、「サプリで解決」と言えるだけの根拠は限定的です。鉄のサプリも、鉄欠乏があることを確認してからのほうが安全です。鉄は過剰になると体に負担がかかる栄養素でもあるからです。血液検査のフェリチンを一度測ってみる、というのが、いちばん確実な順番になります。

10|保健室でお手伝いできること

栄養の話は、「何を食べるか」だけでは終わりません。月経の状態、骨の状態、運動量、睡眠、そして仕事や育児の現実——全部つながっています。

女性とこどもの保健室では、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携しています。「最近月経が不順で、体重も落ちている」「疲れやすいけれど病院に行くほどなのか分からない」「子どもが食べなくて毎食つらい」——どれも、同じ場所で相談していただける内容です。必要な場合は医療機関の受診をおすすめしますし、そうでない段階の方が、実は多いのです。

11|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと

  1. 「減らす」より「足す」。日本の若い女性の課題は、過剰ではなく不足の側にあります。
  2. 狙うのはカルシウムと鉄。たんぱく質は平均では足りています。牛乳・ヨーグルト・小魚・豆腐、そして赤身肉・レバー・貝類。
  3. 月経が止まったら、体重を疑う。ダイエット中の無月経は「楽でいい」ではなく、骨が減っているサインです。
  4. 朝食1食は、1日の1/3。完璧でなくていいので、何か口に入れる。
  5. 子どもの偏食は、性格でも育て方でもない。6〜8割は生まれ持った部分。時間をかけていい話です。

秋は、食べるものが増える季節です。増やしていい季節でもあります。


ご相談・ご予約

女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

女性とこどもの保健室の3つの拠点。流山本院(託児付き)、勝どき出張院(完全予約制プライベートサロン)、横浜みなみレディースクリニック(産婦人科医連携)

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。


本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。


参考文献・出典

  1. 厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査報告」/「令和6年 国民健康・栄養調査報告」
  2. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書
  3. 日本肥満学会 若年女性のやせと低栄養に関するステートメント(Female Underweight/Undernutrition Syndrome)2024年
  4. Gordon CM, et al. Functional Hypothalamic Amenorrhea: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2017;102(5):1413-1439.
  5. Mountjoy M, et al. 2023 International Olympic Committee’s (IOC) consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs). Br J Sports Med. 2023;57(17):1073-1097.
  6. 女子大学生における鉄欠乏の実態に関する報告. 栄養学雑誌. 2022.
  7. Kubota Y, et al. Association of Breakfast Intake With Incident Stroke and Coronary Heart Disease: The Japan Public Health Center-Based Study. Stroke. 2016;47(2):477-481.
  8. Smith AD, et al. Food fussiness and food neophobia share a common etiology in early childhood. J Child Psychol Psychiatry. 2017;58(2):189-196.(Gemini双生児研究)
  9. 国立成育医療研究センター プレコンセプションケアに関する資料
  10. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版』

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