【毎日コラム】健診で「異常なし」の人が4割 —— 働く男性の体に、いま起きていること

この記事は、当院に通ってくださっている女性の方に、ご家族のことを考えるきっかけとして読んでいただきたいと思って書きました。そして、もしお父さんご自身が読んでくださっているなら、そのほうがもっと嬉しいです。
働く男性の体に何が起きているのか。公的統計と研究で確かめていきます。ひとつだけ先にお伝えすると、「座りすぎのリスクは、動くことで打ち消せる」という、かなり実用的な研究結果があります。
1|健診で「何もなかった」人は、もう4割しかいない
厚生労働省の「定期健康診断結果報告」によると、令和6年(2024年)の有所見率は59.4%。項目別では——
- 血中脂質:31.2%
- 血圧:18.4%
- 肝機能:16.2%
- 血糖:13.1%
- 心電図:10.9%/貧血:8.9%
そして推移がこうです。平成7年(1995年)36.4% → 平成17年 48.4% → 平成27年 53.6% → 令和6年 59.4%。

この30年で23ポイント上昇しています。特に伸びが大きいのは血圧(8.8%→18.4%)と血糖(7.9%→13.1%)。(厚生労働省「定期健康診断結果報告」)
ここで注意点を。この調査は事業場からの報告の集計で、性別・年齢別の内訳はありません。男性だけの数値ではなく、働く人全体の数値です。
ただし、男性に絞った統計もあります。令和5年の国民健康・栄養調査によると、20歳以上男性のメタボリックシンドロームは「強く疑われる者」27.5%+「予備群」25.4% = 52.9%。女性(20.2%)の約2.6倍です。年代別では50代で48.0%、60代で62.0%。30代・40代では約27%なので、40代から50代の間に急増しています。(厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査」)
2|長時間労働は、世界最大の職業性リスク要因
WHOとILOが194か国を分析した共同推計は、この分野で最も大きな研究のひとつです。
2016年に週55時間以上働いている人は4億8,800万人(世界人口の8.9%)。男性13.2%、女性4.5%で、男性は約3倍です。
そして虚血性心疾患と脳卒中に帰属する負荷は——
- 死亡 745,194人(虚血性心疾患346,753人+脳卒中398,441人)
- 両疾患による全死亡の4.9%、全障害調整生存年の6.9%
- 帰属死亡の約72%が男性
根拠となった相対リスクは、週35〜40時間を基準として虚血性心疾患1.17倍(週55時間以上)、脳卒中1.35倍。著者らは「長時間労働に帰属する疾病負荷は、これまで算出されたあらゆる職業性リスク要因の中で最大」と述べています。(Pega F ら, Environment International, 2021;154:106595)
日本の労災認定基準(いわゆる過労死ライン)は、「発症前1か月におおむね100時間、または発症前2〜6か月にわたって1か月あたり80時間を超える時間外労働」です。(厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されました」令和3年9月)
月80時間の時間外労働を週に換算すると約18.5時間。法定労働40時間と合わせると週約58.5時間——つまり日本の過労死ラインは、WHO/ILOが「心疾患・脳卒中のリスクを高める十分な証拠がある」とした週55時間を、すでに超える水準にあります(この換算は当院によるもので、出典に記載されているものではありません)。
なお令和3年の基準改正では、この水準に達しない場合でも「労働時間以外の負荷要因を十分に考慮して総合評価する」ことが明確化されました。
3|日本人は、世界でいちばん座っている国のひとつ
20か国・49,493人をIPAQという共通の質問票で比較した研究によると、座位時間の中位数は1日300分(5時間)。そして最も長いグループ(中位数360分=6時間以上)に、台湾・ノルウェー・香港・サウジアラビアとともに日本が入っています。(Bauman A ら, American Journal of Preventive Medicine, 2011;41(2):228-235)
日本の全国代表標本5,346人を調べた研究では、成人の座位時間は平均1日5.3時間、1日8時間以上の「高座位」が25.3%でした。(Kitayama A ら, Preventive Medicine Reports, 2021;23:101439)
ただし——ここがこの記事でいちばん役に立つ数字です
100万人以上(1,005,791人)を統合したメタ分析が、座位時間と死亡リスクの関係を身体活動量別に分けて示しました。基準は「座位4時間未満かつ身体活動が最も多い群」。
- 座位8時間超 + 身体活動が最も少ない:ハザード比1.59(95%信頼区間 1.52〜1.66)
- 座位8時間超 + 身体活動が最も多い:1.04(0.99〜1.10)=有意差なし
- 座位4時間未満 + 身体活動が最も少ない:1.27(1.22〜1.31)=座る時間が短くても、動いていなければリスクは上がる
著者らの結論はこうです。「1日約60〜75分の中強度身体活動は、長時間座位に伴う死亡リスク上昇を打ち消すと思われる。ただしテレビ視聴時間の長さに伴うリスクは減弱させるが打ち消さない」。(Ekelund U ら, The Lancet, 2016;388:1302-1310)
デスクワークそのものは変えられなくても、動く量は変えられる。そしてテレビ(画面の前で過ごす時間)だけは別枠——という、かなり具体的な指針です。
4|そして、その「動く量」がいちばん少ないのが30代
令和5年の国民健康・栄養調査による、運動習慣のある人の割合(1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上継続)です。
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 20代 | 26.5% | 14.5% |
| 30代 | 23.5% | 16.9% |
| 40代 | 30.1% | 17.9% |
| 50代 | 25.6% | 27.4% |
| 60代 | 35.7% | 30.0% |
| 70歳以上 | 46.5% | 36.5% |
| 総数 | 36.2% | 28.6% |
男性で最も低いのは30代の23.5%で、70歳以上(46.5%)の約半分。加齢とともに上がっていくという、直感に反するパターンです。
そして30代・40代は、子育てと仕事がいちばん重なる時期でもあります。運動習慣が最も低いのは意志の問題ではなく、生活の構造の問題だと思います。
5|男性の自覚症状は、腰痛が1位
2025年の国民生活基礎調査による症状別の有訴者率(人口千対)です。
- 男性:①腰痛 85.9 ②頻尿 50.1 ③肩こり 48.3 ④せきやたん 45.9 ⑤鼻がつまる 40.3
- 女性:①腰痛 100.8 ②肩こり 89.2 ③手足の関節が痛む 64.2
特徴が2つあります。腰痛は男女差が小さい(85.9 vs 100.8)。一方肩こりは女性が男性の約1.8倍。そして男性の2位に「頻尿」が入るのが、女性との大きな違いです(男性50.1 vs 女性34.7、65歳以上では男性128.2)。
腰痛と肩こりは、理学療法士がいちばん扱う領域です。「歳のせい」で片付けられがちですが、姿勢と体の使い方で変わる余地は十分にあります。
6|「男性更年期」について、誤解を解いておきます
ここは正確に書く必要があります。
LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症)は、日本泌尿器科学会と日本メンズヘルス医学会が『診療の手引き』(2022年12月)を出しています。診断基準は血清テストステロン値250ng/dL以下、または遊離テストステロン値7.5pg/mL。テストステロンは20〜30歳にピークとなり、30歳以降は年約0.4〜1.0%低下するとされています。(LOH症候群診療の手引き作成委員会編, 2022)
よく「40代男性の約10%が男性更年期」と紹介されますが、これは正確ではありません。手引きが示している「40歳代の約10%、50歳代の約20%、60歳代の約50%」という数字は遊離テストステロン値が境界域以下だった人の割合で、手引き自身がこう明記しています。
「これらの調査はあくまでもテストステロン値から判断した性腺機能低下症の有病率であり、LOH症候群の罹患率を示したものではなく、LOH症候群の罹患率はもっと少ない」「本邦においてLOH症候群の頻度を調査した疫学研究は少なく(…)再調査が望まれる」
またLOH症候群はICD-11に収載されておらず、日本でも保険収載されていません。症状(全身倦怠感、意欲低下、不眠、いらいら、性機能の変化など)は多岐にわたり、他の原因との区別が必要です。
「男性更年期かもしれない」と思ったら、まず泌尿器科で相談を。自己判断でサプリメントに走る前に、測れる数字があります。
7|男性の骨盤底筋トレーニングについて(正直な現状)
当院は骨盤底筋を専門にしているので、ここも誠実に書きます。
前立腺手術後の尿失禁に対する保存的治療(骨盤底筋トレーニングを含む)について、25研究・3,079人をまとめた最新のコクラン・レビューの結論は——「前立腺手術後の尿失禁に対する保存的介入の価値は、単独でも組み合わせでも依然として不確実である」。
骨盤底筋トレーニング+バイオフィードバックについては、6〜12か月時点で自覚的な治癒を増やす可能性がある一方(1研究102人、確実性は低い)、客観的に治癒している可能性はむしろ低いという結果も出ています(2研究269人、確実性は低い)。著者らは「PFMTの手技の標準化の欠如」を問題として挙げています。(Johnson EE ら, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2023;CD014799)
つまり「男性の骨盤底筋トレーニングは効果が証明されている」とは言えません。臨床では標準的に指導されているものの、質の高い試験が不足しており、効果の大きさは定まっていない——これが正確な現状です。
「エビデンスの確実性が低い」は「無効」と同じではありません。ただ、過大な期待を持たせるような書き方はしたくないので、そのまま書いておきます。
8|そして、いちばん伝えたいこと
令和7年の自殺者数は19,188人。そのうち男性が13,176人(68.7%)で、自殺死亡率は男性22.0、女性9.5と男性が約2.3倍です。男性で最も多いのは50代(2,702人)、次に40代(2,193人)。
原因・動機(複数計上)では、男女差がはっきり出ています。
- 経済・生活問題:男性4,713件 vs 女性674件(約7倍)
- 勤務問題:男性1,987件 vs 女性403件(約4.9倍)
- 健康問題:男性6,722件 vs 女性4,633件(差は小さい)
この統計自身が「自殺の多くは多様かつ複合的な原因及び背景を有しており、様々な要因が連鎖する中で起きていることに留意が必要」と注記しています。単純な因果ではありません。
ただ、仕事と経済の問題が男性の側に集中しているという事実は、はっきりと表れています。
相談できる場所
- こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
- よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
- お住まいの自治体の保健所・精神保健福祉センター/勤務先の産業医・健康相談窓口
つらいときに「相談する」という選択肢があることを、頭のどこかに置いておいていただけたらと思います。
9|今日から持ち帰っていただきたい5つ
- 健診結果を読む。いま有所見率は59.4%。「みんな何かある」から、放置してよい理由にはなりません
- 1日60〜75分の中強度の活動。座位8時間超でも、動いていればリスク上昇は確認されていません(速歩でも構いません)
- 画面の前の時間は別枠。テレビ視聴のリスクは、運動量では打ち消せませんでした
- 腰痛・肩こりは「歳のせい」で終わらせない。男性の自覚症状の1位です。姿勢と使い方で変わります
- 倦怠感や意欲の低下が続くなら、測れる数字がある。テストステロンは測定できます。自己判断の前に相談を
10|保健室でしていること
「女性とこどもの保健室」という名前ですが、流山本院には男性の身体作り・体のケアのメニューがあります。ご家族の付き添いで来られたお父さんが、そのまま腰を診てもらって帰る——という使い方も歓迎しています。
理学療法士が行うのは、いまの姿勢と体の使い方を見て、痛みの出にくい動き方をお伝えすること。そして「どのくらい、どう動けばいいか」を具体的な形にすることです。上に書いた「1日60〜75分」も、何をすればいいか分からなければ実行できません。そこを埋めるのが役割だと思っています。
勝どき出張院は完全予約制の完全個室なので、人目を気にせず受けていただけます。
健診の紙を引き出しに入れたまま、また1年が過ぎる。——その前に、体のことを話せる場所をひとつ持っておいてください。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 厚生労働省「定期健康診断結果報告」令和6年(年次別 第7表)統計トップ/e-Stat
- 厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査」メタボリックシンドロームの状況 第48表. e-Stat
- Pega F ら「Global, regional, and national burdens of ischemic heart disease and stroke attributable to exposure to long working hours for 194 countries, 2000–2016(WHO/ILO Joint Estimates)」Environment International. 2021;154:106595. 全文
- 厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されました」令和3年9月. PDF
- Bauman A ら「The descriptive epidemiology of sitting. A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ)」American Journal of Preventive Medicine. 2011;41(2):228-235. PubMed
- Kitayama A ら「Sedentary time in a nationally representative sample of adults in Japan」Preventive Medicine Reports. 2021;23:101439. 全文
- Ekelund U ら「Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women」The Lancet. 2016;388:1302-1310. 論文
- 厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査結果の概要」PDF/令和6年版
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」世帯員の健康状況/統計表
- LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き作成委員会編『LOH症候群診療の手引き』2022年12月、日本泌尿器科学会/日本メンズヘルス医学会. PDF全文
- Johnson EE ら「Conservative interventions for managing urinary incontinence after prostate surgery」Cochrane Database of Systematic Reviews. 2023;CD014799. 要約
- 警察庁生活安全局・厚生労働省自殺対策推進室「令和7年中における自殺の状況」PDF/厚生労働省 自殺の統計

