【毎日コラム】その不調、甲状腺かもしれません。更年期・産後・うつと紛らわしい病気のこと

疲れやすい。むくむ。寒がりになった。体重が増えた。気分が沈む。あるいは逆に、動悸がする、汗が多い、やせてきた、いらいらする。
こうした不調があると、40代なら「更年期かな」、出産のあとなら「産後だから」、忙しい時期なら「疲れているだけ」と考えるのが自然です。けれども、同じ症状を起こす別の原因があります。甲状腺の病気です。
甲状腺の病気は、女性にとても多く、血液検査で調べられます。今日は、女性と甲状腺について、分かっていることを整理します。妊娠を考えている方に関わる、この数年の研究の変化もお伝えします。
1|甲状腺の病気は、女性に多い
甲状腺は、のどぼとけの下にある、蝶のような形をした小さな臓器です。ここでつくられる甲状腺ホルモンは、全身の代謝、つまり体のエンジンの回転数を調節しています。
日本内分泌学会によると、甲状腺ホルモンが足りなくなる病気の代表である橋本病は、成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人に見られます。ただし、橋本病があっても、実際にホルモンが不足する人は、そのうち4〜5人に1人未満です。多くの方は、甲状腺のはたらきが保たれたまま過ごしています。
甲状腺ホルモンが多くなりすぎる病気の代表であるバセドウ病は、男性1人に対して女性3〜5人の割合で、20〜30代の女性に多く見られます。
日本の健診受診者を調べた研究では、約10%の人に何らかの甲状腺機能の異常が見つかっています。もっとも多かったのは、自覚症状のほとんどない、ごく軽いホルモン不足の状態でした。
2|症状は、ほかの不調とそっくり

ホルモンが足りないとき(甲状腺機能低下症):無気力、疲れやすさ、むくみ、寒がり、体重の増加、便秘、月経の量が多い、といった症状が出ます。血液検査では、コレステロールが高くなることがあります。日本内分泌学会は、「うつ病や認知症と間違われることもある」としています。
ホルモンが多すぎるとき(甲状腺機能亢進症):脈が速い、動悸、食べているのに体重が減る、手がふるえる、汗が多い、神経が過敏になる、疲れやすい、といった症状が出ます。
並べてみると、更年期の症状、産後の不調、うつ、あるいはただの疲れと、見分けがつきにくいことが分かります。欧州の更年期学会も、閉経の前後の時期は、甲状腺の病気と更年期の症状の区別が難しいと注意を呼びかけています。
症状だけで見分けることはできません。見分けるのは、血液検査です。
3|ふつうの健診には、入っていない
甲状腺のはたらきは、血液検査で、TSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4(甲状腺ホルモン)を測ることで分かります。
ところが、40歳以上の方が受ける特定健診の項目に、甲状腺の検査は入っていません。「毎年健診を受けていて、異常なしと言われている」という方でも、甲状腺は調べられていないことがほとんどです。
次のような場合は、内科や内分泌内科で、甲状腺の検査について相談してみてください。
- 上に挙げた症状がいくつも当てはまり、数週間以上続いている
- 首の前側が腫れている、太くなった気がする
- コレステロールが急に高くなった
- ご家族に甲状腺の病気の方がいる
- 更年期やうつの治療を受けているが、なかなか良くならない
- 産後数か月たって、動悸や強い疲れ、気分の落ち込みが出てきた
4|産後に起こる甲状腺の変化
出産のあと、一時的に甲状腺のはたらきが乱れることがあります。産後甲状腺炎と呼ばれ、頻度はおよそ5%(研究をまとめた分析では8.1%、アジアでは4.4%)とされています。妊娠初期に甲状腺の自己抗体が陽性だった方では、最大で半数に起こるとされています。
典型的には、産後数か月のうちに、まずホルモンが多すぎる時期(動悸、汗、いらいら、体重減少)があり、続いて足りない時期(だるさ、むくみ、気分の落ち込み)が来て、多くは自然に元に戻ります。ただし、長い目で見ると、20〜40%の方が、のちにホルモン不足が続く状態になるとされています。
産後のこの時期は、睡眠不足と育児の疲れが重なるため、症状があっても「産後だから」と見過ごされがちです。産後うつと甲状腺の関連については、研究の結果が一致しておらず、「産後うつの原因は甲状腺」と言えるわけではありません。それでも、産後に気分の落ち込みや強い疲れが続くときに、甲状腺を一度調べておくことには意味があります。
5|妊娠を考えている方へ:この数年で変わったこと
妊娠と甲状腺については、不妊治療の現場を中心に、「TSHは2.5以下に」という話を聞いたことがある方もいるでしょう。この点は、近年の研究で考え方が変わってきています。
はっきりしていること:甲状腺ホルモンが明らかに不足している状態(顕性の甲状腺機能低下症)は、妊娠の経過に影響するため、治療します。すでに甲状腺の薬を飲んでいる方が妊娠を計画するときは、TSHを0.5〜2.5に整えておくことが目標とされています。
変わってきたこと:甲状腺のはたらきは正常だけれども、自己抗体が陽性という女性に、流産の予防を目的として甲状腺ホルモンの薬を使うことについては、3つの比較試験が行われました。
- 英国の試験(TABLET、2019年):出産に至った割合は、薬の群37.4%、偽薬の群37.9%で、差なし
- オランダなどの試験(T4LIFE、2022年):差なし
- 中国の体外受精を受ける女性の試験(2017年):流産率・出産率に差なし
これを受けて、米国甲状腺学会の2026年版ガイドラインは、甲状腺機能が正常で抗体が陽性の、不妊や反復流産の女性に、甲状腺ホルモンの薬を使うことを「勧めない」としています。妊娠初期のTSHの基準範囲も、施設ごとの基準がなければ0.1〜4.0とされました。
日本の産婦人科のガイドラインも、TSH 2.5を不妊治療のときの治療開始の基準とすることには十分な根拠がない、としています。ごく軽いホルモン不足(潜在性甲状腺機能低下症)の妊婦さんへの治療についても、「一致した方針は定まっていない」というのが現状です。妊娠中期から治療を始めても、お子さんの知能指数は変わらなかったという比較試験が2つあります。
誤解のないように申し添えると、これは「甲状腺を気にしなくてよい」という意味ではありません。「検査値が少し基準から外れている」ことと「治療が必要」のあいだには幅があり、治療するかどうかは、数値・抗体・これまでの経過を合わせて、主治医が判断します。すでに薬を処方されている方は、自己判断でやめないでください。

6|バセドウ病と妊娠・授乳
バセドウ病の治療中に妊娠を希望する場合は、薬の種類を計画的に選ぶ必要があります。
日本の研究で、妊娠初期にチアマゾール(メルカゾール)を使っていた場合、赤ちゃんの先天的な異常が4.1%(薬を使っていない群2.1%)と報告されています。このため日本のガイドラインは、妊娠5週0日から9週6日までは、チアマゾールを避けることとしています。この時期には、別の薬(プロピルチオウラシルやヨウ化カリウム)への切り替えが行われます。
妊娠5週は、月経が1週間遅れたころです。妊娠に気づいてからでは間に合わないことがあるため、妊娠を考え始めた段階で、主治医に伝えておくことが大切です。そして、赤ちゃんへの影響を心配して自己判断で薬をやめることは、お母さんにも赤ちゃんにも危険です。必ず主治医と相談してください。
授乳については、チアマゾールは1日10mgまで、プロピルチオウラシルは1日300mgまでであれば、授乳を続けられるとされています。
7|ヨウ素:日本では「とりすぎ」に注意
甲状腺ホルモンの材料は、ヨウ素です。海外では、ヨウ素の不足が大きな問題で、妊娠中のサプリメントが勧められている国もあります。
日本は事情が逆です。昆布、わかめ、ひじきなど海藻をよく食べるため、日本人のヨウ素摂取量は1日平均1〜3mgと推定されています。推奨量は1日0.14mg(140μg)ですから、多くの人が十分すぎるほどとっています。
ヨウ素は、とりすぎても甲状腺のはたらきを抑えてしまいます。日本人の食事摂取基準(2025年版)は、妊娠中・授乳中の耐容上限量を1日2,000μgとしています。妊娠中にお母さんが昆布などを多量にとり続けたことで、生まれた赤ちゃんに一時的な甲状腺機能の低下が起きたという報告が、日本から出ています。
- 昆布だしを毎日たっぷり使う、昆布の佃煮やとろろ昆布を毎日食べる、昆布のサプリメントをとる。こうした習慣は、妊娠中は控えめに
- 海外製の妊婦用サプリメントには、ヨウ素が入っているものがあります。日本で暮らしている方には、基本的に必要ありません
- ヨウ素をふくむうがい薬(ポビドンヨード)を、妊娠中に毎日のように使い続けることも勧められていません
海藻を食べてはいけない、ということではありません。ふつうに食卓にのぼる程度なら問題ありません。「体に良さそうだから毎日たくさん」を避ける、ということです。
8|首のしこりと、検査のしすぎ
甲状腺のしこり(結節)は、超音波で調べると、とても多くの人に見つかります。そのほとんどは良性です。
症状のない人に甲状腺の超音波検診を広く行うことについては、世界的に慎重な意見が強くなっています。韓国では、検診の普及によって甲状腺がんの診断が急増しましたが、命に関わらない小さながんを見つけすぎていた(過剰診断)と考えられています。米国の予防医学の専門委員会も、症状のない成人への甲状腺がん検診を勧めていません。
一方、首にしこりを触れる、だんだん大きくなる、声がかすれる、飲みこみにくい、といった症状がある場合は、検診ではなく診察が必要です。内科や耳鼻咽喉科、内分泌・甲状腺の専門外来を受診してください。
9|保健室でお手伝いできること
女性とこどもの保健室は、甲状腺の検査や治療を行う施設ではありません。
けれども、私たちのところには、「疲れやすい」「体が重い」「産後、体力が戻らない」「更年期かもしれない」というご相談が、毎日のように寄せられます。その中に、体のケアや運動だけでは説明のつかない不調が混じっていることがあります。
- お話を伺い、症状の組み合わせから、医療機関での検査をおすすめすること
- 受診のときに伝えるとよいことの整理(いつから、どんな症状が、月経や出産との関係)
- 治療と並行した、体力の回復のための運動のご提案
- むくみ、こり、痛みなど、体のつらさへのケア
「体をほぐせば良くなる」と決めつけず、必要なときに医療へつなぐこと。それも、保健室の大事な役割だと考えています。
10|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 橋本病は、成人女性の10人に1人。甲状腺の病気は、女性にとても多い病気です。
- 症状は、更年期・産後の不調・うつとそっくりです。見分けるのは血液検査(TSH・FT4)ですが、ふつうの健診には入っていません。
- 産後の数か月は、甲状腺のはたらきが乱れやすい時期です。動悸や強い疲れ、気分の落ち込みが続くときは相談を。
- 妊娠を考えている方の「TSH 2.5」の考え方は、変わってきています。治療中の薬は自己判断で変えず、主治医と相談を。
- 日本では、ヨウ素は不足よりとりすぎに注意。妊娠中の昆布の多量摂取と、ヨウ素入りサプリメントは控えめに。
「年のせい」「産後だから」と片づける前に、調べられることがあります。
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千葉県流山市(流山セントラルパーク駅 徒歩1分)の「女性とこどもの保健室」は、理学療法士が担当する、託児つきの女性専門治療院です。このコラムの内容に関連するメニューをご紹介します。
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「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 日本内分泌学会「一般の皆様へ」(橋本病、バセドウ病、潜在性甲状腺機能異常、甲状腺腫瘍).
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