【毎日コラム】その痛みは、我慢するものではなくなりました —— 月経痛と月経困難症

「生理痛くらいで病院に行くの?」——この言葉を、何人の方から聞いたでしょうか。多くは、ご本人が自分に向けて言っています。
1|4万人に聞いた調査が、いまの日本を映しています
令和5年度の厚生労働科学研究で、18〜49歳の女性40,000人を対象にした調査が行われました。
- 約75%に、何らかの月経痛があった
- 月経痛のある人のうち、66.7%は一度も医療機関を受診したことがない
- 「受診したことはあるが通院していない」を含めると、87.5%が通院していない
- 自分でしている対処で最も力を入れているものは、市販薬49.2%、生活習慣21.5%、そして「がまんしている(何もしていない)」19.3%
もう一つ、見過ごせない数字があります。直近2回の月経で、18.2%が「横になって休息したくなるほどの支障」、3.3%が「1日以上寝込んで仕事ができない」状態でした。そして就労経験のある人の21.8%が、月経困難症のために仕事を休んだことがあると答えています。
困り始めた年齢の中央値は18歳でした。10代から、多くの人が一人で抱えています。
2|月経痛には、2つの種類があります
まず整理しておきたいことがあります。月経痛(月経困難症)は、原因によって2つに分かれます。
機能性(原発性)月経困難症——子宮などに病気がないもの。初経の2〜3年後、排卵のある周期が定着してから始まります。月経1〜2日目の出血が多い時に強く、痛みは痙攣性。原因は、子宮内膜で作られるプロスタグランジンという物質が多く出て、子宮が強く収縮することです。
器質性(続発性)月経困難症——原因となる病気があるもの。子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫などです。月経の4〜5日前から月経後まで続く、鈍い痛みが多いのが特徴です。
この区別が大事なのは、後者には放置すると進行するものが含まれるからです。
3|診断まで、世界で平均6.7年
子宮内膜症について、国際的によく知られた数字があります。10か国・16施設で1,418人を調べた研究で、症状が出てから腹腔鏡で確定診断されるまで、平均6.7年かかっていました。そして遅れの多くは、最初にかかる医療機関の段階で生じていました。
その後の研究でも状況は大きく変わっていません。オランダでは中央値7年、フランスでは平均10年という報告があります。
日本のデータもあります。子宮内膜症の女性166人と対照200人を比べた調査では、過多月経や学校・仕事を休むほどの症状を初めて自覚した年齢の中央値が16歳、実際に初めて婦人科を受診したのは21〜23歳ごろでした。5〜6年の開きがあります。
この研究にはもう一つ、考えさせられる結果がありました。症状を自分で記録していた人でも、受診までの期間はほとんど短くなっていなかったのです。著者は、教育的・文化的な壁の影響が大きいと述べています。
日本で行われた別の質的研究では、東京の女子大学生への聞き取りから、月経を隠すべきという規範が強く、強い痛みがあっても相談先が「女性の友人と母親」に偏る傾向が報告されています。
4|「痛くなってから飲む」は、もったいない
ここは、今日いちばんお伝えしたい実務的な話です。
鎮痛薬(NSAIDs)は、プロスタグランジンが作られるのを止める薬です。すでに作られたものを消す薬ではありません。だから、痛みを我慢して、限界まで耐えてから飲むと——すでにプロスタグランジンが大量にできているので、効きにくくなります。
日本産婦人科医会の研修資料は、こう書いています。「痛みを感じたらすぐに内服するように指導する」「とりわけ症状の強い場合には、月経痛開始時あるいはその直前から服用を開始して6〜8時間ごとに2〜3日間服用するように指導するとよい」。
もう一つ、同じ資料が指摘している誤解があります。「空腹時の内服は避けるように」という注意書きを見て、食後でなければ飲んではいけないと思い、薬を飲まなかったという声がよく聞かれる——だから「痛みがある時には空腹時でも内服するように事前に説明」すべきだと。
「早く飲むと効かなくなる」「癖になる」という言い方をよく聞きますが、学会の資料はむしろ早めの服用を推奨しています。注意が必要なのは別のことで、日本女性心身医学会は「月経痛の恐怖から過剰に鎮痛剤を服用してしまうと、胃潰瘍ができたり、薬物乱用性頭痛を引き起こしたりすることがある」と述べています。つまり、鎮痛効果が薄れるという意味での「癖」ではなく、飲みすぎによる胃と頭痛の問題です。
5|薬以外で、何が効くのか
理学療法士がいる施設として、ここは正直に整理しておきたい部分です。

運動は、コクランレビュー(12試験854人)で、100mmのものさしで約25mm痛みが減ると報告されています。臨床的に意味のある差です。やり方は「1回45〜60分、週3回以上、強度は問わない」。ストレッチ、体幹の運動、ヨガでも、ズンバや有酸素運動でも構いません。月経中だけでなく、月を通して続けることが前提でした。
温めることも効きます。57試験5,359人をまとめた分析で、鎮痛薬と同等の効果があり、副作用は少なかったと報告されています。
一方で、こう書かざるを得ないものもあります。鍼・指圧について、コクランレビュー(42試験4,640人)の結論は「有効かどうかを示すエビデンスは不十分」でした。見せかけの鍼と比べると差が消えてしまう、という指摘もあります。これは「効かない」という意味ではなく、「まだ分からない」という意味です。
サプリメント・ハーブについては、27試験3,101人を検討したコクランレビューが「すべてのエビデンスを低品質または非常に低品質と判断した」と述べています。現時点で、お勧めする根拠はありません。
徒手療法(マッサージ・整体など)も、32試験を集めた分析で「プラセボと比較すると差が認められない可能性がある」とされています。私たちの仕事に関わる部分ですが、これが現状です。
6|中高生の月経痛について
日本の中学生1,018人を調べた研究では、46.8%が中等症以上(日常生活に悪影響がある水準)、17.7%が重症でした。高校生1,431人の研究では85%に月経困難症があり、学年が上がるほど増えています。
スポーツ庁の委託事業で千葉県の中高生に聞いた調査では、月経痛への対処が「我慢している43%」「薬で我慢している35%」。日本産婦人科医会はこの結果について「月経痛に関して積極的な治療が行われていないことが分かる」と述べています。
そして、同会の資料にはこういう一文があります——「機能性月経困難症は年齢とともに、妊娠出産とともに軽快すると説明されていることが多い。しかし思春期女子に対して加齢にしたがい軽快する可能性を話してやり過ごすよりも、症状への対処や治療の選択肢、子宮内膜症のリスクなどをきちんと提示して対応するのが望ましい」。
「そのうち治るから」は、いまの標準的な向き合い方ではありません。
7|治療の選択肢は、増えています
鎮痛薬で足りない場合の選択肢を、簡単に整理します。
LEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)——産婦人科診療ガイドラインは「機能性月経困難症と器質性月経困難症の両方において月経痛を軽減する」としています。コクランレビュー(21試験3,723人)でも、痛みの軽減が高い確実性で示されています。副作用として不正出血は増えます(高い確実性)。血栓症のリスクについては、ガイドラインが「相対危険度が数倍となっても絶対危険度は妊娠中より低い」と説明するよう記載しています。なお「飲むと太る」という思い込みについては、ガイドラインが「この事実がないことが疫学的に証明されている」と明記しています。
ジエノゲスト——子宮内膜症そのものに働く薬で、血栓症のリスクがないためLEPが使えない方にも選択肢になります。
LNG-IUS(子宮内に入れる器具)——5年使え、血栓症のリスクがありません。
どれを選ぶかは婦人科の領域ですが、選択肢があること自体を知らないまま10年我慢している方が、本当に多いのです。
8|3.4兆円のうち、0.6兆円
経済産業省が2024年に公表した試算では、女性特有の健康課題による経済損失が年間約3.4兆円、そのうち月経随伴症が約0.6兆円でした。
内訳を見ると、欠勤による損失が約1,200億円に対し、出勤しているけれどパフォーマンスが落ちている分が約4,500億円。休んだ分より、出ているのにつらい分のほうが3倍以上大きいという構造です。
この数字を、私は「だから生産性を上げよう」とは読んでいません。休むほどではないけれど本調子ではない日が、これだけの規模で存在している——その可視化として受け取っています。
9|保健室でお手伝いできること
女性とこどもの保健室は、婦人科ではありません。薬を出すことも、内診をすることもできません。
できるのは、次のようなことです。
- いまの状態を整理する——いつから、どのくらい、どの薬をどう飲んでいるか。これがまとまっているだけで、婦人科での話が早くなります
- 運動と温熱を、続く形にする——効果が確認されている2つです。週3回45分を、生活のどこに入れるか。理学療法士が一緒に考えます
- 受診の後押し——「この程度で行っていいのか」という迷いに、事実でお答えします
- 効かないものを勧めない——高いサプリや機器を、効くふりをして売ることはしません
流山本院は保育士・看護師による託児付きです(生後1か月からお預かりしています)。お子さんを見ていてもらえないと、自分の体のことを落ち着いて話せない——それも、受診が遅れる理由の一つだと思っています。
10|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 月経痛のある人の3人に2人が、一度も受診していません。「みんなあること」と「治療の対象」は、両立します。
- 鎮痛薬は、痛くなってからでは効きにくい。痛みを感じたらすぐ、強い場合は始まる直前から。空腹でも飲んで構いません。
- 効果が確認されているのは、運動と温熱。週3回45〜60分、月を通して。サプリは根拠がありません。
- 子宮内膜症の診断は、平均6.7年遅れます。日本では初めて症状に気づいた16歳から、受診まで5〜6年。
- 10代の「そのうち治る」は、もう標準的な説明ではありません。学会自身が、選択肢を提示すべきだと述べています。
痛みを我慢することが美徳だった時代は、終わりました。日本女性心身医学会のページには、こう書かれています——「月経がある性成熟期、痛みをはじめとした不快な症状に悩むことなく充実した毎日を送ることが可能になっています」。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 甲賀かをり ほか「女性の健康課題に関する疫学研究」令和5年度厚生労働科学研究費補助金 女性の健康の包括的支援政策研究事業 分担研究報告書(18〜49歳女性40,000人)
- 日本産婦人科医会 研修ノート No.106「思春期のケア(1)月経困難症」
- 日本女性心身医学会「月経困難症(月経痛)」一般向け解説
- 楠木泉「月経困難症の臨床と課題」京都府立医科大学雑誌. 2021;130(5):317-322.
- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会『産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編』
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