助産師より

【毎日コラム】「飲んでしまった」と気づいたときに。妊娠・授乳と薬の、確かな情報

今日10月17日から23日までは、「薬と健康の週間」です。薬の正しい使い方を知ってもらうために、毎年行われています。

妊娠中・授乳中の薬について、保健室でよく伺うのは、こんな声です。「妊娠に気づく前に、風邪薬を飲んでしまいました」「頭痛がつらいけれど、薬は我慢しています」「持病の薬を、妊娠が分かってすぐやめました」「授乳中だから、薬は飲めないと思っていました」。

どれも、赤ちゃんを思うからこその不安です。ただ、その不安のいくつかは、正確な情報があれば軽くできます。そして中には、我慢や自己判断のほうがかえって危ないこともあります。今日は、学会のガイドラインと公的機関の情報をもとに整理します。なお、以下で引用する産婦人科診療ガイドライン産科編2026の内容は、学会が公開した原案にもとづいています。

1|最初に知ってほしい数字:3〜5%

産婦人科診療ガイドライン(産科編2026 原案)は、次のように示しています。生まれたときに確認できる先天性の病気の頻度は、3〜5%。そして、そのほとんどで、妊娠初期の薬の使用は認められていません。

つまり、薬を一切使わなくても、100人の赤ちゃんのうち3〜5人には、何らかの生まれつきの病気があります。これは誰にでも起こりうる、もともとの頻度です。

薬の影響を考えるときは、「ゼロから増えるかどうか」ではなく、「この3〜5%から、さらに増えるのかどうか」を見ます。そして、多くの薬は、この頻度を増やさないことが分かっています。

2|時期によって、心配の中身が違う

妊娠の時期と薬の影響。妊娠3週末まではごく一部の薬を除き先天性の病気は増えない。4〜7週はいちばん影響を受けやすい。8〜12週は小さな形態異常を起こしうる薬がごく少数。13週以降は発育や機能への影響

妊娠週数は、最後の月経が始まった日を0週0日として数えます。

  • 妊娠3週末まで(次の月経の予定日ごろまで):ごく少数の薬を除いて、先天性の病気は増えません。この時期に影響があれば着床しないか流産となり、そうでなければ修復されて、影響を残さないと考えられています
  • 4〜7週末:心臓や神経、手足などの主な器官ができる時期で、薬の影響をいちばん受けやすい時期です。ただし、形態異常を起こすことが証明されている薬は、少数です
  • 8〜12週末:口蓋(上あご)や性器の形成が続きます。小さな形態異常を起こしうる薬が、ごく少数あります
  • 13週以降:形の異常ではなく、赤ちゃんの発育や臓器のはたらきへの影響(胎児毒性)が問題になります

3|「気づかずに飲んでしまった」とき

妊娠に気づく前の服薬は、とても多いご相談です。月経が遅れて妊娠検査をするころには、すでに4〜5週になっているからです。

ガイドライン原案には、この心配に答えるための項目があります。そこでは、次のような薬について、妊娠初期のみの使用であれば、臨床的に意味のある影響はないと判断されています。

  • 低用量ピルなどのホルモン薬
  • コレステロールの薬(スタチン)
  • ニューキノロン系の抗菌薬
  • 妊娠初期の、一般的な痛み止め(NSAIDs)
  • 一部の血圧の薬(ACE阻害薬・ARB)

これらの薬の説明書(添付文書)には、「妊婦には使わないこと」と書かれているものがあります。それを見て強い不安を感じる方がいるため、ガイドラインはあえてこの項目を設けています。

市販の風邪薬や胃腸薬、花粉症の薬を、妊娠に気づく前に数日飲んだ。そうした場合に、赤ちゃんへの影響を心配しなければならないことは、ほとんどありません。飲んだ薬の名前と時期をメモして、産婦人科で伝えてください。

4|避ける必要がある薬

一方で、妊娠中に避けるべき薬もあります。ガイドライン原案に挙げられている代表的なものです。

  • 妊娠初期:ワルファリン(血液を固まりにくくする薬)、バルプロ酸などの一部の抗てんかん薬、エトレチナート(乾癬の薬)、大量のビタミンA、メトトレキサート、サリドマイドなど
  • 妊娠中期〜後期:ACE阻害薬・ARB(血圧の薬。赤ちゃんの腎臓に影響し、羊水が減ることがある)、テトラサイクリン系の抗菌薬など
  • 妊娠後期:ロキソプロフェン、イブプロフェンなどの痛み止め(NSAIDs)

ただしガイドラインは、これらの薬についても、「影響が出る頻度は必ずしも高くない」「たまたま使ってしまった場合に、必ず影響があるとは限らない」と注記しています。使ってしまったことに気づいたら、自分を責めるより先に、主治医に連絡してください。

とくに身近なのは、痛み止めです。NSAIDsは、妊娠後期に使うと、赤ちゃんの心臓近くの血管(動脈管)が縮んだり、羊水が減ったりすることがあります。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は2021年2月と2024年10月に使用上の注意を改訂し、妊娠中期についても注意を呼びかけています。湿布、塗り薬、ゲルなどの外用薬も対象です。ご家族の湿布を借りる前に、ひと呼吸おいてください。

5|アセトアミノフェンは、使ってよいのか

2025年9月、妊娠中のアセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)と、こどもの自閉スペクトラム症との関連が、米国で大きく報じられました。不安になった方も多いと思います。

この問いについては、きょうだいを比べる研究が行われています。同じ家庭で育ったきょうだいのうち、妊娠中に薬を使った子と使わなかった子を比べることで、遺伝や家庭環境の影響を取り除く方法です。

スウェーデンの約248万人を調べた研究(Ahlqvist ら、JAMA 2024年)では、通常の分析ではごくわずかな関連が見られましたが、きょうだいどうしの比較では、自閉スペクトラム症も、注意欠如・多動症(ADHD)も、知的障害も、差がありませんでした。日本のデータを用いた研究(Okubo ら、2026年)でも、きょうだい比較では関連が見られていません。

米国産科婦人科学会(ACOG)は、因果関係を結論づけた信頼できる研究はひとつもない、との声明を出しています。国立成育医療研究センターの妊娠と薬情報センターも、アセトアミノフェンは妊娠中の痛みや発熱に対する第一選択の薬であり、「服用はこれまでどおり可能」と説明しています(2025年10月時点)。

妊娠中の高い熱や強い痛みを我慢し続けることにも、体への負担があります。必要なときに、必要な量を、短い期間使う。ガイドラインも、アセトアミノフェンを勧めたうえで、「漫然と使い続けることは避ける」としています。

6|持病の薬を、自己判断でやめないで

妊娠が分かったとたん、「赤ちゃんに悪いかもしれない」と、それまで飲んでいた薬をやめてしまう方がいます。

ガイドライン原案は、赤ちゃんへの影響だけを心配して薬を単純に中止したり減らしたりすると、「母児を逆に危険にさらす可能性」があると述べています。厚生労働省も、ご自身の判断で薬の使用を中断せず、医師または薬剤師に相談するよう呼びかけています。

てんかん、ぜんそく、甲状腺の病気、糖尿病、高血圧、膠原病、こころの病気。こうした持病では、病気そのものが悪化することが、お母さんにも赤ちゃんにも大きな影響を及ぼします。妊娠中も続けられる薬、妊娠中に適した薬への切り替えなど、方法はあります。

理想は、妊娠する前に主治医と相談しておくことです。すでに妊娠が分かった方は、やめる前に、まず主治医へ連絡してください。

手のひらの薬とサプリメント

7|授乳中の薬

「授乳中は薬が飲めない」と思われがちですが、ガイドライン原案は、例外を除いて、お母さんが使う薬が母乳を通して赤ちゃんに大きな影響を及ぼすことは少ない、としています。母乳を通して赤ちゃんに届く薬の量は、お腹の中にいたときに比べて桁違いに少ないからです。

目安として使われるのが、「相対的乳児摂取量(RID)」です。赤ちゃんが母乳から受け取る薬の量が、その薬を赤ちゃんに直接使う場合の量の何%にあたるかを示したもので、10%を大きく下回れば、影響は少ないと見積もられます。

妊娠と薬情報センターは、「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」の一覧を公開しています。解熱鎮痛薬、抗菌薬、花粉症の薬、胃腸薬など、身近な薬の多くが含まれています。授乳に適さないとされているのは、抗がん薬、治療用の放射性物質、一部の不整脈の薬など、ごく限られたものです。CTやMRIの造影剤を使ったあとも、授乳を休む必要はないとされています。

薬の説明書も変わりました。2019年4月から新しい書き方になり、以前は多かった「授乳を中止させること」という表現は、「治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討すること」に改められています。

乳腺炎の痛みや発熱、産後の頭痛、歯の治療。授乳を理由に治療を我慢する必要は、ほとんどの場合ありません。受診の際に、「授乳中です」と伝えてください。

8|市販薬とサプリメント

  • 葉酸:妊娠する前から、1日400μgをサプリメントでとることが勧められています。赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクを下げるためです
  • ビタミンA:大量にとることは避けます。一般向けの総合ビタミン剤には多く含まれるものがあるため、妊娠中は妊婦さん向けのものを選んでください
  • ヨードうがい薬:頻繁に使うことは勧められていません
  • 市販の痛み止め・湿布:成分を確認し、妊娠中は自己判断で使わず、薬剤師か主治医に相談を

ドラッグストアで薬を買うときは、「妊娠中です」「授乳中です」と薬剤師に伝えてください。それがいちばん確実な方法です。

9|迷ったときの相談先

国立成育医療研究センターには、2005年に厚生労働省の事業として「妊娠と薬情報センター」が設けられました。全国47都道府県の拠点病院に「妊娠と薬外来」があり、妊娠中の方だけでなく、妊娠を考えている方も相談できます。申し込みの方法は、センターのウェブサイトでご確認ください。

もちろん、いちばん身近な相談先は、かかりつけの産婦人科と薬局です。お薬手帳を1冊にまとめて、受診のたびに見せるようにしましょう。

10|保健室でお手伝いできること

女性とこどもの保健室は、薬の処方や、薬についての判断を行う施設ではありません。お薬のことは、医師・薬剤師にご相談いただくものです。

私たちがお手伝いできるのは、薬に頼る前に、あるいは薬と一緒にできる体のケアです。

  • 妊娠中の腰や骨盤の痛みに対する、動作の工夫と運動
  • 肩こりからくる頭痛に対する、姿勢と体の使い方の見直し
  • 産後の体の痛み、抱っこや授乳の姿勢のご相談
  • 「これは受診して薬をもらったほうがいい状態なのか」を迷ったときの、ご相談の窓口

痛みを薬で我慢せず、薬も我慢せず。両方の選択肢を持っておくことが、妊娠中・産後を楽に過ごす助けになります。

11|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと

  1. 薬を使わなくても、生まれつきの病気がある赤ちゃんは3〜5%。多くの薬は、この頻度を増やしません。
  2. 妊娠に気づく前に飲んだ市販薬で、影響を心配しなければならないことは、ほとんどありません。薬の名前と時期をメモして、産婦人科へ。
  3. 痛み止めは、アセトアミノフェンが第一選択。ロキソプロフェンなどのNSAIDsは、湿布も含めて妊娠中期以降は注意が必要です。
  4. 持病の薬は、自己判断でやめない。やめる前に主治医へ。
  5. 授乳中に使える薬は、たくさんあります。治療を我慢せず、「授乳中です」と伝えてください。

不安なときに必要なのは、我慢ではなく、確かな情報と相談先です。


関連するメニューとコラム

千葉県流山市(流山セントラルパーク駅 徒歩1分)の「女性とこどもの保健室」は、理学療法士が担当する、託児つきの女性専門治療院です。このコラムの内容に関連するメニューをご紹介します。

  • マタニティヨガ:理学療法士によるマンツーマンのヨガ。妊娠中の体づくりに(妊娠16週以降、主治医の許可が必要です)。
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本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。


参考文献・出典

  1. 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会『産婦人科診療ガイドライン 産科編2026』原案(パブリックコメント版)CQ104-1〜CQ104-5.
  2. 国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター(妊娠・授乳中の薬Q&A、授乳中に安全に使用できると考えられる薬).
  3. 厚生労働省「妊娠と薬」に関する情報.
  4. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「使用上の注意」の改訂について(非ステロイド性抗炎症薬)2021年2月25日/2024年10月8日.
  5. Ahlqvist VH, et al. Acetaminophen use during pregnancy and children’s risk of autism, ADHD, and intellectual disability. JAMA. 2024;331(14):1205-1214.
  6. Okubo Y, et al. 妊娠中のアセトアミノフェン使用と児の神経発達症に関する日本のコホート研究(きょうだい比較). Paediatr Perinat Epidemiol. 2026;40:70.
  7. American College of Obstetricians and Gynecologists. アセトアミノフェンに関する声明. 2025年9月22日.
  8. 厚生労働省「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について」2017年6月8日通知(2019年4月1日施行).
  9. 厚生労働省「薬と健康の週間」.

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