【毎日コラム】更年期の治療は、選べる。ホルモン補充療法(HRT)の利益とリスクを数字で見る

10月18日は、世界メノポーズデーです。国際閉経学会が、更年期の健康について世界に呼びかける日として定めています。今年、同学会が公表した白書は「中年期の慢性的な痛み」を取り上げています。
更年期の不調については、以前このコラムでも全体像をお伝えしました。今日はその中から、治療の柱のひとつである「ホルモン補充療法(HRT)」に絞ってお話しします。
HRTについては、「乳がんになるからこわい」という声と、「もっと早く始めればよかった」という声の両方を耳にします。どちらも、一面の事実をふくんでいます。大切なのは、利益とリスクを同じテーブルに並べて、ご自分の場合はどうかを考えることです。
1|HRTとは。日本ではどのくらい使われているか
日本人女性の閉経年齢は、中央値でおよそ50〜52歳です。閉経の前後で卵巣から出るエストロゲンが大きく減り、ほてり・発汗(ホットフラッシュ)、不眠、気分の落ち込み、腟の乾燥などが起こりやすくなります。HRTは、減ったエストロゲンを少量補う治療です。
日本の看護職の女性を追跡している研究(日本ナースヘルス研究)では、HRTを使ったことがある人は13.8%、使用期間の中央値は2年でした。また、働く女性の診療報酬データを調べた研究では、更年期障害と診断された人の75%に薬が処方されており、漢方薬が40%、ホルモン療法が30%でした。日本では、漢方薬のほうが多く選ばれていることが分かります。
2|利益:何がどのくらい良くなるか

ホットフラッシュ:コクランレビューによると、飲み薬のHRTは、ホットフラッシュの回数を75%減らします。興味深いのは、偽薬(プラセボ)を飲んだ人でも57.7%減っていたことです。更年期の症状は、時間の経過や「治療を受けている」という安心感でも和らぐ面があります。それを差し引いても、HRTがもっとも確かな治療であることは変わりません。
骨折:コクランレビューが「強い根拠がある利益」としているのは、骨折の予防です。併用療法を5.6年続けると、骨折する人は1000人あたり111人から、79〜96人に減ると見積もられています。
睡眠:ほてりや発汗のある女性では、睡眠の質が改善します。ほてりのない人の不眠には、効果がはっきりしません。
気分:閉経前後の女性を対象にした試験では、抑うつ症状が現れた人は、貼り薬のエストラジオールと天然型黄体ホルモンを使った群で17.3%、偽薬の群で32.3%でした。
腟の乾燥・性交痛:腟に直接使うエストロゲン製剤が症状を改善します。これについては、10月21日のコラムで詳しくお伝えします。
3|リスク:乳がん
もっとも気にされるのが、乳がんです。2019年に医学誌 Lancet に掲載された大規模な分析は、次のように見積もっています。50歳から5年間HRTを使った場合、50〜69歳のあいだに乳がんになる人は、
- エストロゲン+黄体ホルモン(毎日):50人に1人増える
- エストロゲン+黄体ホルモン(周期的):70人に1人増える
- エストロゲン単独:200人に1人増える
- 腟に使うエストロゲン製剤:増えない
やめたあとも、10年以上リスクの一部が残るとされています。日本でも2025年10月、医薬品医療機器総合機構(PMDA)がこの分析結果を薬の説明書に追記しました。ただし、因果関係は「明らかではない」としています。
一方で、米国の大規模試験(WHI)を20年追跡した結果では、エストロゲン単独(子宮を摘出した女性が対象)の群では、乳がんの発症も死亡も、偽薬の群より少なくなっていました。黄体ホルモンを併用した群では、発症が28%多くなっていました。
研究によって結果が違うのは、薬の種類、対象者の年齢、研究の方法が違うためです。現時点で言えるのは、「黄体ホルモンを併用するHRTは、乳がんをいくらか増やす。増え方は使う期間が長いほど大きい」ということです。HRTを使っている間は、乳がん検診を定期的に受けることが勧められています。
4|リスク:血栓・脳卒中・子宮体がん
血栓(静脈血栓塞栓症):英国の大規模な研究では、飲み薬のHRTで血栓のリスクが1.58倍になっていました。貼り薬やジェルなど、皮膚から吸収させるタイプでは、増加は示されていません。観察研究の結果ではありますが、飲み薬と貼り薬で違いがある、という点は複数の研究で一致しています。
脳卒中:コクランレビューでは、リスクが1.24倍、絶対数では1000人あたり6人の増加でした。低用量の貼り薬では、増加は示されていません。
子宮体がん:子宮のある方がエストロゲンだけを使うと、子宮体がんのリスクが2.3倍、10年以上では9.5倍になります。これを防ぐために、子宮のある方には黄体ホルモンを併用します。併用を続けた場合、子宮体がんはむしろ少なくなっていました。
5|始める時期で、利益とリスクのバランスが変わる
北米閉経学会は2022年の声明で、「60歳未満、または閉経後10年以内の女性で、使えない理由がなければ、HRTの利益はリスクを上回る」としています。閉経から長い年月がたってから始めると、心臓や血管へのリスクが利益を上回りやすくなると考えられています。
ただし、誤解していただきたくないことがあります。HRTは、「若さを保つ薬」でも「病気を予防するために飲む薬」でもありません。米国のWHI試験を18年追跡した結果、HRTを使った群と偽薬の群で、全体の死亡率に差はありませんでした。研究者たちは、慢性疾患の予防を目的とした使用は支持しない、と結論しています。
HRTは、つらい症状がある人が、その症状をやわらげるために使う治療です。

6|使えない人、始める前の検査、やめどき
薬の説明書(添付文書)で、HRTを使えないとされているのは、次のような方です。
- 乳がんにかかったことがある方、エストロゲンで悪化するがんがある・疑われる方
- 血栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症)にかかったことがある方
- 心筋梗塞や狭心症、脳卒中にかかったことがある方
- 重い肝臓の病気がある方
- 原因の分かっていない不正出血がある方
- 妊娠中・授乳中の方
始める前には、問診、乳房の検診、婦人科の検診(子宮のある方は子宮内膜の検査)を受けます。始めたあとも、定期的に血圧測定、乳房検診、婦人科検診を続けます。
日本で使える薬には、飲み薬、貼り薬、塗るジェルがあります。黄体ホルモンにも、天然型の製剤が2021年から使えるようになりました。保険が使えるかどうかは、薬と病名の組み合わせで決まります。
「いつまで続けるか」については、日本産婦人科医会の資料は「5年くらいを目安に、一人ひとり判断する」としています。北米閉経学会は、一律の期限は設けず、定期的に見直すことを求めています。主治医と1年ごとに、「続ける理由がまだあるか」を確認していく、という考え方です。
7|HRT以外の選択肢
HRTを使えない方、使いたくない方にも、選択肢があります。ここでも、根拠をそのままお伝えします。
- 漢方薬:日本でもっとも多く使われています。ただし、加味逍遙散について日本で行われた2つの二重盲検試験では、主な評価項目で偽薬との差は確認されませんでした。偽薬でも症状が大きく改善することが、差の出にくさにつながっていると考えられます。
- 抗うつ薬(SSRIなど):ホットフラッシュを1日あたり1回ほど減らす、控えめな効果が報告されています。
- 認知行動療法:更年期の不安や抑うつを軽くする効果があり、北米閉経学会も推奨に入れています。
- 新しい薬:ホルモンを使わずにホットフラッシュを抑える薬(フェゾリネタント)は、米国では2023年に承認されました。日本では2026年8月に承認申請が行われ、審査中です。
- 運動:正直にお伝えすると、運動でホットフラッシュが減るという根拠は不十分です(コクランレビュー)。北米閉経学会も、ホットフラッシュの治療としての運動やヨガは推奨していません。
運動は、ほてりを消す手段としては期待できません。けれども、骨、筋肉、心臓と血管、気分、睡眠にとっての利益は、更年期以降こそ大きくなります。ほてりの治療は婦人科で、体づくりは運動で。役割が違うと考えてください。
8|保健室でお手伝いできること
女性とこどもの保健室は、HRTの処方を行う施設ではありません。お薬の相談は、婦人科・女性外来で行っていただくものです。
そのうえで、私たちにできることがあります。
- 「婦人科で何を相談すればいいか分からない」というときの、症状の整理
- 更年期以降に増える、肩・腰・ひざ・手指などの痛みのご相談
- 骨と筋肉を保つための運動の組み立て
- 尿もれや骨盤底のご相談
今年の世界メノポーズデーが取り上げた「中年期の痛み」は、理学療法士がお力になれる分野です。
9|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- HRTは、ホットフラッシュを75%減らします。更年期症状にもっとも確かな効果がある治療です。
- 黄体ホルモンを併用するHRTは、乳がんをいくらか増やします。5年使うと、50〜70人に1人の増加です。
- 血栓のリスクは、飲み薬で上がり、貼り薬・ジェルでは増加が示されていません。
- 60歳未満・閉経後10年以内で、使えない理由がなければ、利益がリスクを上回るとされています。病気の予防のために使う薬ではありません。
- 使えない方にも、選択肢があります。まずは婦人科で、ご自分の症状と希望を伝えてください。
「我慢する」か「こわい薬を使う」かの二択ではありません。選べる、ということを知っておいてください。
関連するメニューとコラム
千葉県流山市(流山セントラルパーク駅 徒歩1分)の「女性とこどもの保健室」は、理学療法士が担当する、託児つきの女性専門治療院です。このコラムの内容に関連するメニューをご紹介します。
- 骨盤調整・整体:理学療法士が、姿勢・骨盤まわり・全身の状態を確認して体をととのえます。肩こりや腰痛、産後の体のメンテナンスに。
- パーソナルヨガレッスン:理学療法士による、目的と体の状態に合わせたヨガレッスン。
- パーソナルトレーニング:理学療法士が、姿勢の改善・運動不足の解消・筋力づくりを、目的に合わせてサポートします。
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ご相談・ご予約
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「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
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