【毎日コラム】誰にも言えないまま、何年も —— 尿もれという、ありふれた困りごと

「くしゃみで、ちょっと」「トランポリンは無理です」「1人目のあとからずっと」——保健室で、小さな声でお聞きする言葉です。
多くの方が、何年も誰にも言わずに過ごしています。今日は、その話をします。
1|4人に1人です
20〜64歳の日本人女性2,503人を調べた研究(2023年)では、25.5%に尿もれがありました。年代別では20代14.4%、30代17.7%、40代28.7%、50代34.4%と、40代から一段上がります。
内訳は、腹圧性(せきやくしゃみ、運動時にもれる)が57.4%、切迫性(急に強い尿意が来てもれる)が20.3%、両方の混合性が16.7%でした。
そしてこの研究でもう一つ報告されていたのが、尿もれがある人のうち、骨盤底筋トレーニングをしているか医療を利用している人は5%未満という数字です。
2|生活に支障があっても、受診は18%
40歳以上の男女4,570人を調べた全国調査では、下部尿路の症状で日常生活に影響があると感じている人のうち、医療機関を受診したのはわずか18%でした。8割以上が、困っているのに受診していません。
国際的にも同じです。41研究・尿もれのある女性32,640人をまとめた分析では、誰かに相談・受診した人は28%。約7割が、誰にも言っていません。アジアではさらに低く24%でした。
※「受診までに平均○年かかる」という数字がよく引用されますが、今回、信頼できる一次資料を確認できませんでした。そのため本記事では使っていません。
3|出産との関係を、正確に
骨盤臓器脱(子宮や膀胱が下がってくる状態)について、「経産婦の約4割」という数字をよく見かけます。今回調べましたが、この数字の出典は確認できませんでした。おそらく米国の50〜79歳女性を対象にした内診所見の研究が、経産婦の数字として引用される過程で変形したものと思われます。
確認できる数字はこちらです。スウェーデンの全国コホート研究で、1人出産したあと出産していない女性5,236人を20年後に調べたところ——
- 経腟分娩のあと:症状のある骨盤臓器脱 14.6%
- 帝王切開のあと:6.3%(オッズ比2.55)
興味深いことに、会陰切開・吸引分娩・2度以上の裂傷は、自然経腟分娩と比べてリスクを増やしていませんでした。関連していたのは現在のBMIと、赤ちゃんの出生体重でした。
腹圧性尿失禁についても、日本の看護職12,198人の調査で経産であることが関連因子として挙がっています。
4|骨盤底筋トレーニングは、はっきり効きます
ここは、自信を持って書ける部分です。
コクランレビュー(31試験・14か国・1,817人)の結果です。
- 腹圧性尿失禁が「治った」割合:トレーニング群56% vs 何もしない群6%(リスク比8.38、エビデンスの質は「高」)
- 「治ったまたは改善した」割合:74% vs 11%(リスク比6.33)
- 24時間あたりのもれる回数:1.23回減少
- 有害事象はまれで軽微
著者の結論は「PFMTは腹圧性尿失禁およびその他すべての型の尿失禁の症状を治癒または改善できると確信できる」。コクランがここまで書くのは、かなり強い表現です。
国際失禁会議(ICI)も英国のNICEガイドラインも、第一選択の治療と位置づけています。NICEは「3か月以上の監督下プログラム」を勧めています。
5|ただし——半分の人は、違う筋肉を締めています
ここが、今日いちばんお伝えしたいことです。

女性47人に、簡潔な口頭指導だけで骨盤底筋を締めてもらい、尿道の圧を測った研究があります(1991年)。
結果、正しく締められたのは49%。そして25%——4人に1人は、かえって尿もれを悪化させかねない力の入れ方をしていました。いきむ方向に力が入っていた、ということです。
さらに、年齢・出産回数・体重・過去の手術歴のいずれも、できる人とできない人を見分けられませんでした。誰ができていないかは、見ただけでは分からないのです。
著者の結論は明快です——「単純な口頭または書面による指導は、これから骨盤底筋トレーニングを始めようとする患者にとって十分な準備とはならない」。
「毎日やっているのに効かない」というご相談の、かなりの部分がここだと思っています。効かないのではなく、違うところを鍛えている。
6|「専門家に見てもらい続ける必要がある」わけではありません
私たちの仕事に関わる部分なので、正直に書きます。
「監督下のトレーニング」と「自宅での自主トレ」を比べた研究をまとめると、こうなります。
コクランレビュー(2024年、63試験4,920人)では、クリニックでの監督下と自宅でのトレーニングを比べた結果、有意な差は出ませんでした(3試験137人、確実性は「非常に低い」)。個別指導と集団指導の比較でも、「おそらくほとんど差はない」という結論です。
6つのランダム化比較試験をまとめた別の分析では、監督下のほうがQOLと骨盤底筋の機能では優れていたものの、尿の症状と重症度の改善には差がありませんでした。
ただし、この分析の著者はこう書いています——「トレーニングセッションと定期的な再評価が提供されれば、監督下でも非監督下でも有効でありうる」「十分な教育と定期的な再評価を伴うものは、正しい収縮について患者を教育しない非監督下のものより良い結果を示した」。
つまり、エビデンスが支持しているのは「ずっと通い続けること」ではなく、「最初に正しい収縮を確認してもらうこと」と「ときどき見直すこと」です。そこさえ押さえれば、あとは自宅で十分。
これは、私たちにとって都合のいい話ではありません。でも、そう書くのが誠実だと思います。
7|妊娠中に始めるのが、いちばん効きます
妊娠・産後については、別のコクランレビュー(46試験・21か国・10,832人)があります。背景として「出産後、約3分の1の女性に尿失禁がある」と述べられています。
結果を、正確に分けて書きます。
まだ尿もれがない妊婦が、妊娠中に始めた場合(予防)
- 妊娠後期の尿失禁リスク:62%減少(質は中程度)
- 産後3〜6か月の尿失禁リスク:29%減少(質は「高」)
すでに尿もれがある人への治療として
- 妊娠後期:減少のエビデンスなし
- 産後:有意差なし
分娩後に始めた場合
- 産後の尿失禁リスク:不確実。著者は「産後PFMTを集団アプローチとして提供しても、尿失禁を減らす可能性は低い」と述べています
つまり——いちばん効くのは、まだ症状がない妊娠中に、きちんとした形で始めること。産後に始めた場合の効果は、このレビューでは確認できていません。
ただし誤解しないでいただきたいのは、これは「集団アプローチとして全員に提供した場合」の話だということです。中年女性における治療効果(第4項)は、はっきり確認されています。産後に症状がある方が個別に取り組むことを否定するものではありません。
8|保健室でお手伝いできること
ここまで読んでいただければ、私たちの役割ははっきりしていると思います。
- いま、正しく締められているかを確認する——半分の人ができていません。ここが出発点です
- できていない場合、どう変えるかを一緒に探す——お腹・内もも・お尻に力が入っている、息を止めている、いきんでいる。パターンはいくつかあります
- 自宅で続けられる形にする——通い続ける必要はありません。最初と、ときどきの見直しで十分です
- 妊娠中の方には、症状が出る前に——予防としての効果が最も確かな時期です
- 受診が必要なものを見分ける——血尿、痛み、急に始まった症状、下がってくる感じが強い場合は泌尿器科・婦人科をご案内します
横浜では、産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。流山本院は託児付き(生後1か月から)、勝どきは完全予約制のプライベートサロンです。人に聞かれたくない話だからこそ、環境は選んでいただけます。
9|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 20〜64歳の4人に1人です。40代28.7%、50代34.4%。あなただけではありません。
- 生活に支障があっても、受診しているのは18%。言わないことが普通になっているだけです。
- 骨盤底筋トレーニングは、治癒率56%(何もしない場合は6%)。エビデンスの質は「高」です。
- ただし、口頭説明だけでは49%しか正しくできていません。効かないのではなく、違う場所を締めている可能性があります。
- いちばん効くのは、症状が出る前の妊娠中。産後3〜6か月の尿もれを29%減らします。
「この程度で相談していいのか」と迷われる方が本当に多いのですが、治療の効果がはっきりしている数少ない症状の一つです。もったいない、というのが正直な気持ちです。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- Onishi A, Shibata A. Prevalence and sociodemographic correlates of urinary incontinence in Japanese women: A web-based cross-sectional study. Womens Health (Lond). 2023;19:17455057231207754.
- Homma Y, et al. Epidemiologic survey of lower urinary tract symptoms in Japan. Urology. 2006;68(3):560-564.
- Liang S, et al. Prevalence and Influencing Factors of Help-Seeking Behavior Among Women with Urinary Incontinence: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Womens Health (Larchmt). 2023.
- Nagai K, et al. Prevalence and factors associated with overactive bladder and stress urinary incontinence in the Japan Nurses’ Health Study. Menopause. 2021.
- Gyhagen M, et al. Prevalence and risk factors for pelvic organ prolapse 20 years after childbirth: a national cohort study in singleton primiparae after vaginal or caesarean delivery. BJOG. 2013;120(2):152-160.
- Dumoulin C, Cacciari LP, Hay-Smith EJC. Pelvic floor muscle training versus no treatment, or inactive control treatments, for urinary incontinence in women. Cochrane Database Syst Rev. 2018;10:CD005654.
- Hay-Smith EJC, et al. Comparisons of approaches to pelvic floor muscle training for urinary incontinence in women. Cochrane Database Syst Rev. 2024;12:CD009508.
- Kharaji G, et al. Supervised versus unsupervised pelvic floor muscle training in the treatment of women with urinary incontinence: a systematic review and meta-analysis. Int Urogynecol J. 2023.
- Bump RC, Hurt WG, Fantl JA, Wyman JF. Assessment of Kegel pelvic muscle exercise performance after brief verbal instruction. Am J Obstet Gynecol. 1991;165(2):322-327.
- Woodley SJ, et al. Pelvic floor muscle training for preventing and treating urinary and faecal incontinence in antenatal and postnatal women. Cochrane Database Syst Rev. 2020;5:CD007471.
- NICE guideline NG123. Urinary incontinence and pelvic organ prolapse in women: management. 2019.
- 日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会編『女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]』2019年
※「骨盤臓器脱は経産婦の約4割」という数値は、今回の文献検索では出典を確認できなかったため使用していません。


