健康な体作り

【毎日コラム】産後のこころは、気持ちの問題ではありません —— 数字と制度で見る産後のメンタルヘルス

産後のこころの話は、書き方が難しいテーマです。数字を並べると不安を煽り、やわらげすぎると必要な人に届かない。

今日は、正確な数字と、使える制度を中心に書きます。気持ちの持ちようの話ではありません。

1|まず、2つの数字を区別してください

「産後うつは10人に1人」とよく言われます。この数字には、実は2種類あります。

日本の123研究をまとめたメタ分析(108,431人)では、産後1か月時点で強い抑うつ症状がある人が14.3%。これは質問票で基準を超えた人の割合、つまりスクリーニング陽性です。

一方、日本周産期メンタルヘルス学会のガイドは、診断基準を満たすうつ病は産後3か月以内で7.1%としています。こちらは医師の診断です。

同じメタ分析からは、時期による変化も分かります。妊娠中期14.0%、妊娠後期16.3%、産後1か月以内15.1%、産後1〜3か月11.6%、3〜6か月11.5%、6〜12か月11.5%。妊娠中から高く、出産が近づくほど上がり、産後は時間とともに下がっていく——これが実際の形です。「産後に突然なる」ものではありません。

そして、初産婦は経産婦より有意に高く、調整相対リスクは1.76でした。

2|マタニティブルーズとは、別のものです

混同されやすいので、分けて整理します。

マタニティブルーズと産後うつ病の比較。時期・経過・頻度・位置づけの違い

マタニティブルーズは、出産後数日以内に出る、一過性で自然に治まる気分の落ち込みです。診断名ではなく、確立した診断ツールもありません。そのため頻度の報告も幅が大きく、国際的には13.7〜76%、日本人女性387人の研究では21.6%でした。

注意していただきたいのは、ブルーズは産後うつの「前段階」ではないということです。多くは、そのまま自然に治まります。

ただし関連はあります。フランスの3,310人のコホート研究で、ブルーズがあった人の産後うつのオッズ比は早発型で2.1。日本の研究では5.48という報告もあります。症状が重い場合ほど、その傾向が強いという結果でした。

フランスの研究者の結論が、そのまま私たちの姿勢です——「産後ブルーのある女性に対し、安心を与えることと、産後うつの症状および悪化・遷延時の対応の必要性についての情報提供を行うことが重要」。

つまり、「多くは自然に治まります」と「2週間以上続く・悪化するときは相談してください」を、両方お伝えするということです。

3|EPDSは「診断」ではありません

産後2週間健診や1か月健診で、10個の質問に答える用紙を渡されることがあります。EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)です。

これについて、学会ガイドラインの記載をそのまま引用します。

  • 「あくまでもスクリーニング検査であるため、確定診断のためには精神科医師による診察が必要である」
  • 「9点以上の場合にはうつ病の可能性が高いと判断するが、8点以下がうつ病でないというわけではない」
  • 「点数の高さはうつ病の重症度を示すものではなく、うつ病以外の精神疾患でも点数が高値となる可能性があることに留意する」

日本では区分点が9点以上(欧米は9〜13点)。感度0.75〜0.82、特異度0.93〜0.95。そして陽性的中率は0.51——つまり9点以上だった人のうち、実際にうつ病なのは約2人に1人です。

「点数が高かった」と落ち込まれる方がいますが、半分は違う。そして点数が低くても、つらければ相談していい。それがこの道具の正しい使い方です。

もう一つ。EPDSには体重減少の項目がありません。産後の授乳による体重減少と混同されるからです。また項目7(不眠)は、赤ちゃんの世話で眠れないことと区別する配慮が必要とされています。よく考えて作られた道具です。

4|父親にも、約10%起きています

あまり知られていないので、書いておきます。

日本人男性を対象としたメタ分析(15研究)では、周産期のうつの有病率は妊娠期8.5%、産後1か月9.7%、産後1〜3か月8.6%、産後3〜6か月13.2%でした。

注目すべきは2点です。ピークが産後3〜6か月と、母親より遅いこと。そして産後うつの有病率は男女で有意差がなかったこと(産前は男性のほうが低い)。

エコチル調査の附帯研究では、父親1,023人のうち産後1か月で11.2%、6か月で12.0%がEPDS 8点以上でした。リスク因子は、精神疾患の既往、妊娠中の心理的苦痛、世帯年収400万円未満、赤ちゃんが治療中の病気を持つこと。

そして、80組のカップルを追跡した研究では——父親の産前のうつが、その後6か月間の母親の抑うつの悪化を予測しました。逆方向は認められませんでした。

「お父さんは支える側」という前提が、そもそも成り立たない場合がある、ということです。

5|リスク因子について、正確に

77件のメタ分析を統合した分析で、関連が強かったものです。

  • 社会的サポートの乏しさ(相対リスク3.57)
  • うつ病の既往(オッズ比3.09)
  • パートナーからの暴力(2.50)
  • 睡眠障害(2.36)
  • 意図しない妊娠(1.55)

ただし、著者自身が「エビデンスの多くは確実性が低い、または非常に低いと評価された」と明記しています。数字そのものより、「支えてくれる人がいるか」が繰り返し上位に来ることのほうが重要だと思います。

そして念のため——リスク因子は予言ではありません。当てはまっても多くの人はなりませんし、当てはまらなくてもなる人はいます。

6|効果が確認されている支援

米国予防医療専門委員会(USPSTF)は2019年、カウンセリング介入(認知行動療法・対人関係療法)が周産期うつの予防に有効であるという「説得力のあるエビデンス」を認めました。17のランダム化試験(3,094人)で、発症リスクが39%低下しています。

一方、同じ委員会は身体活動、教育、支持的介入、乳児の睡眠トレーニング、抗うつ薬、オメガ3脂肪酸については「エビデンスが不十分」としています。

運動については、2026年に2つのメタ分析が正反対の結論を出しました(一方は有意、もう一方は有意でない)。「運動が良い」と言い切ることは、いまのところできません。

英国で86試験を統合した最大規模の検討は、「結果は決定的ではなかった」と結論しています。「これをすれば防げる」と言える段階ではない、というのが正直なところです。

7|日本で受けられる支援

ここは、知っているかどうかで大きく変わる部分です。

産婦健康診査(平成29年度創設)——産後2週間・1か月などの時期に、2回分・1回5,000円を上限に公費助成があります。身体の回復や授乳状況だけでなく、精神状態の把握も要件に含まれています。実施の有無や内容は自治体によって異なります。

産後ケア事業(母子保健法第17条の2、市区町村の努力義務)——出産後1年以内の方が対象です。

  • 短期入所型:宿泊して休む(原則7日以内、分割利用可)
  • 通所型:施設に通う
  • 居宅訪問型:自宅に来てもらう

内容は、身体的ケア、心理的ケア、授乳のケア、育児の相談。所得に応じた利用料の減免措置を講じるよう努めることとされています。令和4年度時点で1,462自治体(約84%)が実施しています。

こども家庭センター——母子保健と児童福祉の窓口を一体化したもので、令和8年4月時点で1,496自治体(85.9%)に設置されています。未設置の自治体では、保健センターや子育て世代包括支援センターが窓口です。

いずれも申し込みは市区町村の窓口です。「こんなことで使っていいのか」と迷われる方が多いのですが、そのために作られた制度です。

8|つらいとき、すぐに話せるところ

夜中や休日でも、話せる窓口があります。厚生労働省「まもろうよ こころ」に掲載されているものです。

  • よりそいホットライン:0120-279-338(24時間)
  • #いのちSOS:0120-061-338(24時間365日)
  • いのちの電話(フリーダイヤル):0120-783-556
  • こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(かけた地域の窓口につながります。受付時間は地域により異なります)

※受付時間は変更されることがあります。かける前に各窓口の公式サイトでご確認ください。なお#8000は小児救急電話相談で、お子さんの急な病気の相談窓口です。お母さん自身の相談先ではありません。

9|保健室でお手伝いできること

私たちは精神科ではありません。診断も治療もできません。そのうえで、できることを書きます。

  • 話を聞く——それだけです。でも、社会的サポートの乏しさが最も強いリスク因子として繰り返し報告されている以上、意味のないことではないと思っています
  • 体を整える——眠れない、腰が痛い、尿もれがある。これらはメンタルと無関係ではありません。睡眠障害はリスク因子の上位にあります
  • 預かる——流山本院は保育士・看護師による託児付きです(生後1か月から)。何もしない時間を作るために使っていただいて構いません
  • 制度につなぐ——産後ケア事業も産婦健診も、知らなければ使えません
  • 受診が必要なときは、そう言う——抱え込ませません

お父さんのご相談も受けています。産後3〜6か月がピークというデータを知っていると、「半年たって落ち着くはずの時期にしんどい」という違和感の説明がつくことがあります。

10|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと

  1. 産後1か月で14.3%に強い抑うつ症状。診断のつくうつ病は7.1%。別の数字です。
  2. マタニティブルーズの多くは、自然に治まります。ただし2週間以上続く・悪化するときは相談を。
  3. EPDSは診断ではありません。9点以上でも約半数は違い、8点以下でもつらければ相談していい。
  4. 父親にも約10%、ピークは産後3〜6か月。父親の産前のうつは、母親のその後を予測します。
  5. 産後ケア事業は出産後1年以内なら使えます。所得に応じた減免もあります。市区町村の窓口へ。

「気持ちの持ちよう」でも「みんな通る道」でもありません。数字があり、制度があり、効果が確認された支援があります。使ってください。


ご相談・ご予約

女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

女性とこどもの保健室の3つの拠点。流山本院(託児付き)、勝どき出張院(完全予約制プライベートサロン)、横浜みなみレディースクリニック(産婦人科医連携)

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。


本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。


参考文献・出典

  1. Tokumitsu K, et al. Prevalence of perinatal depression among Japanese women: a meta-analysis. Ann Gen Psychiatry. 2020;19:41.(123研究・108,431人)
  2. Tokumitsu K, et al. Prevalence of perinatal depression among Japanese men: a meta-analysis. Ann Gen Psychiatry. 2020;19:65.
  3. 日本周産期メンタルヘルス学会『周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド』CQ2
  4. 日本精神神経学会『精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド』2022年
  5. 岡野禎治 ほか「日本版エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)の信頼性と妥当性」精神科診断学. 1996.
  6. Ishikawa N, et al. Prospective study of maternal depressive symptomatology among Japanese women. J Psychosom Res. 2011;71(4):264-269.
  7. Tosto V, et al. Maternity Blues: A Narrative Review. J Pers Med. 2023;13(1):154.
  8. Landman A, et al. Postpartum blues: a predictor of postpartum depression, from the IGEDEPP Cohort. Eur Psychiatry. 2024;67(1):e30.
  9. Nishigori H, et al. The prevalence and risk factors for postpartum depression symptoms of fathers at one and 6 months postpartum: an adjunct study of the Japan Environment & Children’s Study. J Matern Fetal Neonatal Med. 2020;33(16):2797-2804.
  10. Paulson JF, et al. The course and interrelationship of maternal and paternal perinatal depression. Arch Womens Ment Health. 2016;19(4):655-663.
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  12. US Preventive Services Task Force. Interventions to Prevent Perinatal Depression: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2019;321(6):580-587.
  13. O’Connor E, et al. Interventions to Prevent Perinatal Depression: Evidence Report and Systematic Review for the USPSTF. JAMA. 2019;321(6):588-601.
  14. Morrell CJ, et al. Health Technology Assessment. 2016;20(37):1-414.(86試験のエビデンス統合)
  15. こども家庭庁『産前・産後サポート事業ガイドライン/産後ケア事業ガイドライン』令和8年3月
  16. 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口

※電話相談窓口の受付時間は変更されることがあります。ご利用前に各窓口の公式サイトでご確認ください。

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