健康な体作り

【毎日コラム】10月は、ピンクリボン月間 —— 数字で見る乳がん検診の利益と不利益

今日から10月、ピンクリボン月間です。街のあちこちでピンクのリボンを見かける1か月が始まります。

この時期の記事は「検診に行きましょう」で終わりがちです。でも今回は、利益も不利益も同じ基準で並べることにしました。そのうえで判断していただくほうが、結果として信頼していただけると考えています。

1|女性のがんで、いちばん多いのが乳がんです

国立がん研究センターの全国がん登録によると、2023年の乳がん罹患は102,592例。女性のがん罹患数で第1位です。人口10万人あたり160.7。

生涯で乳がんになる確率は11.8%(約8人に1人)、乳がんで亡くなる確率は1.7%(約58人に1人)。2024年の死亡数は15,869人で、女性のがん死亡では第4位です。

罹患数は死亡数の6倍以上あります。なる人は多いが、亡くなる人はそれより少ない——これが乳がんの特徴です。

2|「40代後半がピーク」は、いまのデータでは違います

よく聞く説明ですが、2023年の最新データで確認すると、そうではありませんでした。

年齢階級別の乳がん罹患率。40代前半から急上昇し、70〜74歳が最も高い

年齢階級別の罹患率(人口10万対)を見ると——35〜39歳で71.1、40〜44歳で154.5と2倍以上に跳ね上がり、45〜49歳で247.1。そこから50代は235〜236とやや横ばいになり、60代以降に再び上昇して70〜74歳の277.7が最高値です。罹患数で見ても70〜74歳の12,930例が最多でした。

正確に言うなら、「40代前半で急に立ち上がり、その後も高い水準が続いて70代前半で最も高くなる」。

40歳から検診が勧められる理由は「40代後半がピークだから」ではなく、「40代前半で罹患率が2倍以上になり、その後下がらないから」です。

3|日本の検診受診率は、半分に届いていません

国民生活基礎調査(2022年)による推計では、乳がん検診の受診率(40〜69歳・過去2年間)は47.4%。40歳以上では36.4%です。子宮頸がん検診は43.6%。

国の目標は60%ですから、どちらも届いていません。

※「日本の受診率は先進国最低クラス」という表現をよく見かけますが、今回、一次資料で確認できませんでした。また日本の数字は自己申告で、多くの欧州諸国は検診プログラムの実受診記録に基づくため、単純に比較できません。ここは数字を出さずにおきます。

4|公的に推奨されているのは、これです

厚生労働省の指針(平成28年改正、平成28年4月適用)は、市区町村の乳がん検診について次のように定めています。

  • 対象年齢:40歳以上
  • 検査項目:マンモグラフィを原則とする
  • 受診間隔:2年に1度
  • 視触診:推奨しない(実施する場合はマンモグラフィと併用)

国立がん研究センターの「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン(2013年度版)」では、推奨グレードは次のとおりです。

  • マンモグラフィ単独法(40〜74歳):グレードB(対策型検診として推奨)。メタアナリシスで25%の死亡率減少効果
  • マンモグラフィ+視触診併用(40〜64歳):グレードB。13%の死亡率減少
  • 視触診単独:グレードI(証拠不十分)。有意な死亡率減少効果は認められず
  • 超音波検査:グレードI。死亡率減少効果を評価した研究がない

※このガイドラインは2013年度版が最新で、10年以上更新されていません。

5|利益:死亡率は2割ほど下がります

7つの系統的レビュー、10のランダム化試験、72の観察研究をまとめた検討(JAMA, 2015)では、13年追跡後の乳がん死亡率について——

  • 英国独立パネル:リスク比0.80
  • カナダのタスクフォース:0.82
  • コクラン:0.81

結論は「全年齢の平均リスク女性において、検診はおよそ20%の乳がん死亡率減少と関連していた」。日本のガイドラインは25%としています。

6|不利益:ここも、書きます

偽陽性——「異常の疑い」で精密検査になり、結果的にがんではなかったケースです。国立がん研究センターによると国内では1回あたり約10%。海外の研究では、10回受けると累積で20〜60%に至ると推計されています。

40歳から検診を始めた場合、10年間でがんではないのに生検を受ける確率は、毎年検診で7.0%、隔年検診で4.8%という推計もあります。

過剰診断——一生症状を出さなかったであろうがんを見つけて治療してしまうことです。検診に批判的な立場をとるコクランレビュー(2013年版)は、過剰診断を30%と仮定したうえで、こう試算しています。

10年間にわたり検診に招待された女性2,000人のうち、1人が乳がんによる死亡を回避し、10人の健康な女性が検診がなければ診断されなかったのに不必要に治療を受けることになる。さらに200人以上が偽陽性所見のために、不安や不確実性を含む重大な心理的苦痛を何年にもわたって経験する。

ただし、この30%は仮定であって、合意された推定値ではありません。JAMAの検討も「過剰診断の大きさについては不確実性があり、その一部は推定方法についての合意がないことに起因する」と述べています。専門家の間で決着していない論点です。

また、このコクランレビューの著者は検診に批判的な立場で知られており、その解釈は論争的です。同レビューは「ランダム化が適切だった3試験に限ると、乳がん死亡率の有意な減少は示されなかった」とも主張しています。

放射線被曝——40歳代では利益が被曝の不利益を上回るとされますが、50歳開始時ほど有利ではない傾向があります。

これらを並べたうえで、日本を含む各国が40歳以上・2年に1回を推奨しているのは、利益が不利益を上回ると評価されているからです。不利益がないから勧められているのではありません。

7|高濃度乳房について

乳腺の密度が高いと、マンモグラフィで白く写る部分が多くなり、がんが見つかりにくくなります。

日本のデータでは、J-START試験の宮城県分(19,213人)の解析で、40〜49歳の59.3%が不均一高濃度または極めて高濃度でした。高濃度乳房の方では、マンモグラフィ単独の感度は70.6%にとどまっています。

※「日本人女性の約40%が高濃度乳房」という数字をよく見ますが、査読論文・公的統計では確認できませんでした。確認できるのは上の「40代で59.3%」です。

日本での対応はまだ途上です。厚生労働省の検討会資料(令和8年7月)によると、乳房構成を本人に通知している自治体は約2割。通知している214市町村のうち、説明資料を提供しているのは38%、事前に説明しているのは16%、本人の希望を事前確認しているのは0%(94%が一律通知)でした。厚労省は説明資材やQ&Aを作成中とされています。

そして、大事なことがあります。日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインは、こう書いています——「現在のところ、高濃度乳房の方に強く勧められる追加検査はありません」。

「高濃度と言われたけれど、どうすれば」というご相談をいただきますが、確立した答えがまだない、というのが現状です。

8|超音波を足すことについて(J-START)

日本発の大規模試験があります。40〜49歳の無症状女性72,998人を、マンモグラフィ単独群と超音波併用群に無作為に分けたJ-START試験です。

利益

  • 感度:91.1% vs 77.0%
  • がん発見数:184例 vs 117例
  • ステージ0・Iの割合:71.3% vs 52.0%
  • 中間期がん(検診の間に出てくるがん):0.05% vs 0.10%
  • そして2026年、追跡11.4年の解析で進行乳がん(ステージ2以上)の累積罹患が減少(ハザード比0.83)

不利益

  • 特異度:87.7% vs 91.4%(下がる)
  • コクランの解析では、がんのない女性1,000人あたり偽陽性が37人増え、生検を受ける人が27人増える(いずれも確実性「高」)

そして最も重要な限界——「マンモグラフィと超音波の併用が乳がん死亡率を下げるかどうかを評価した研究は、まだありません」(コクラン2023)。

そのため日本のガイドラインでも、超音波の推奨グレードはI(証拠不十分)のままです。「対策型検診として公的に推奨されている」わけではなく、利益と不利益を理解したうえで個人で選ぶものという位置づけになります。

9|自己触診より、ブレスト・アウェアネス

「毎月決まった手順でしこりを探しましょう」——この指導は、現在のガイドラインの立場ではありません。

ロシアと上海で合計388,535人を対象にした試験をまとめたコクランレビューでは、自己触診によって乳がん死亡率は下がらず(リスク比1.05)、一方で良性の生検が約2倍に増えました。著者の結論は「現時点で、自己触診は推奨できない」。

代わりに日本乳癌学会が示しているのがブレスト・アウェアネスです。4つの基本行動があります。

  1. 自分の乳房の状態を知る(ふだんの状態を覚えておく)
  2. 乳房の変化に気を付ける(しこり、血性の分泌、乳頭・乳輪のただれ、皮膚のへこみなど)
  3. 変化に気付いたら、すぐ医師に相談する(次の検診を待たない)
  4. 40歳になったら2年に1回、乳がん検診を受ける

違いは、「しこりを探す検査」ではなく「ふだんを知っておく健康習慣」だという点です。入浴時に意識する程度で構いません。

ただし学会自身が「ブレスト・アウェアネスには死亡率低減効果に関するエビデンスは存在しない」と明記しています。だから4つ目に「検診を受ける」が入っているのです。アウェアネスは検診の代わりではありません。

10|妊娠中・授乳中の方へ

保健室でよくいただく質問です。

妊娠中または産後1年以内に見つかる乳がんを妊娠関連乳がんといい、22研究をまとめた分析では妊娠10万件あたり19.2例と報告されています。頻度は高くありませんが、出産年齢が上がるにつれ増えています。

米国放射線学会の基準(2026年版)は、はっきりこう述べています——「画像診断は、授乳を理由に先送りすべきではない」。

  • 授乳中でもマンモグラフィは可能。授乳していない人と同様に使ってよい
  • 妊娠中もマンモグラフィは安全
  • 造影MRIやほとんどの核医学検査を受けても、授乳を中断する必要はない
  • ただし授乳中は乳腺の変化で感度が下がるため、症状がある場合はまず超音波が使われることが多い
  • 特徴的なサインとして、赤ちゃんがその側を飲みたがらなくなる(哺乳拒否)ことがあります

同時に、妊娠中に触れるしこりの大多数は良性であることも付け加えておきます。

※これは主に「症状があるときの検査」についての基準です。無症状での定期検診を授乳中に受けるべきかについては、公的な推奨を確認できませんでした。

11|保健室でお手伝いできること

乳がんの診断も治療も、私たちの領域ではありません。できるのは、次のようなことです。

  • 「ふだん」を一緒に確認する——しこり探しではなく、ご自身の乳房の状態を知っていただく
  • 受診をためらう理由を聞く——痛そう、恥ずかしい、時間がない、子どもを預けられない。それぞれに対応があります
  • 授乳中の不安に答える——「授乳中は受けられない」と思い込んでいる方が、とても多いのです
  • 結果の受け止めを一緒に——「要精密検査」で眠れなくなる方がいます。約10%は偽陽性だと知っているだけでも違います

12|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと

  1. 生涯で約8人に1人。女性のがんで最も多いのが乳がんです。
  2. 罹患率が2倍以上に跳ね上がるのは40代前半。そこから下がらず、70代前半が最高です。
  3. 公的な推奨は、40歳以上・マンモグラフィ・2年に1回。視触診単独は推奨されていません。
  4. 利益は死亡率2割減。不利益は偽陽性(1回あたり約10%)と過剰診断。それでも利益が上回ると評価されています。
  5. 自己触診ではなく、ブレスト・アウェアネス。ふだんを知り、変化に気づいたらすぐ受診。そして2年に1回の検診。

数字を並べると冷たく見えるかもしれません。でも、不利益を伏せて勧められるより、両方を知って自分で決めたほうが納得できる——私自身がそう思うので、そう書きました。

10月です。まだ受けていない方は、この機会に。


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「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。


本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。


参考文献・出典

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」全国がん登録 罹患データ(2016-2023年、2026年2月更新)/人口動態統計(2024年)
  2. 国立がん研究センター がん統計「がん検診受診率(国民生活基礎調査による推計値)」2022年
  3. 厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(平成28年2月4日改正)
  4. 国立がん研究センター「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン 2013年度版」
  5. Myers ER, et al. Benefits and Harms of Breast Cancer Screening: A Systematic Review. JAMA. 2015;314(15):1615-1634.
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  7. Harada-Shoji N, et al. Evaluation of Adjunctive Ultrasonography for Breast Cancer Detection Among Women Aged 40-49 Years With Varying Breast Density Undergoing Screening Mammography. JAMA Netw Open. 2021;4(8):e2121505.
  8. 厚生労働省「第47回がん検診のあり方に関する検討会」資料1「高濃度乳房含む乳房構成の通知について」令和8年7月16日
  9. Ohuchi N, et al. Sensitivity and specificity of mammography and adjunctive ultrasonography to screen for breast cancer in the Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial (J-START): a randomised controlled trial. Lancet. 2016;387(10016):341-348.
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  15. Expert Panel on Breast Imaging. ACR Appropriateness Criteria: Breast Imaging During Lactation. J Am Coll Radiol. 2026.
  16. diFlorio-Alexander RM, et al. ACR Appropriateness Criteria: Breast Imaging of Pregnant and Lactating Women. J Am Coll Radiol. 2018;15(11S):S263-S275.

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