【毎日コラム】しゃがめない子は、本当に増えているのか —— 運動会の季節に、学校の運動器検診を読む

運動会の季節です。校庭で整列して、しゃがんで待つ。その姿を見ながら「うちの子、かかとが浮いているな」と気づいた方もいるかもしれません。
「しゃがめない子が増えている」「子どもの4割に運動器の問題」——こうした見出しを、ここ数年よく見かけます。今日は、その数字がどこから来たのかを確かめ、何が言えて何が言えないのかを整理します。
1|学校の「運動器検診」は、2016年に始まりました
学校の健康診断に「四肢の状態」が必須項目として加わったのは、平成28年(2016年)4月です。同じ改正で、座高と寄生虫卵の検査が必須項目から外れました。
目的は「成長発達の過程にある児童生徒等の脊柱、胸郭、四肢の疾病及び異常を早期に発見する」こと。方法は、家庭で記入する保健調査票+学校での日常の観察+学校医の診察の組み合わせです。
保健調査票でたずねられるのは、おおむね次の6項目です。
- 背骨が曲がっている
- 腰を曲げたり反らしたりすると痛みがある
- 腕や肘に、痛みや動きの悪いところがある
- 膝や股関節に、痛みや動きの悪いところがある
- 片脚立ちが5秒以上できない
- しゃがみ込みができない(足の裏を全部床につけて、完全にしゃがめるか)
年度初めに配られるあの用紙です。「よく分からないまま丸をつけた」という方も多いのではないでしょうか。細かい運用は自治体によって幅があります。
2|「4割」の出どころを確かめました
よく引用される「子どもの約4割に運動器の機能不全」という数字。一次資料は、埼玉県の整形外科医らによる報告(日本整形外科学会雑誌, 2017)でした。
埼玉県で平成22〜25年に行われた学校運動器検診の1,343人(幼稚園児から中学生まで)の結果です。
- 体前屈ができない:23.3%
- しゃがみ込みができない:15.3%
- 片脚立ちができない:14.7%
- 肩が上まで挙がらない:7.1%
- 4項目のいずれか1つ以上に当てはまる:41.6%
「4割」は、この最後の数字です。つまり——
- 埼玉県の検診に参加した1,343人のデータで、全国を代表する数字ではありません
- 「しゃがめない子が4割」ではなく、4つの動作のどれか1つでもできなかった子が4割です。しゃがみ込みに限れば15.3%でした
別の調査も見ておきます。岡山県の小学校で1年生と6年生の計208人を調べた報告(2017年)では、しゃがみ込みができない子は10.1%、片脚立ちができない子は1.4%でした。片脚立ちは埼玉の14.7%と10倍の開きがあります。判定の基準や対象年齢が違うためと思われますが、理由を断定できる資料は見つかりませんでした。
要するに、「日本の子どもの何割がしゃがめないか」を一つの数字で言える調査は、まだありません。
3|「増えている」とも、実は言えません
もう一つ、確認しておきたいことがあります。
運動器検診が始まったのは2016年です。それ以前の、同じ方法で測ったデータがありません。「昔の子どもと比べて、しゃがめない子が増えた」ことを示す経年比較は、今回見つけられませんでした。
和式トイレが減ったから、外遊びが減ったから——説明としてはもっともらしく聞こえます。でも、それを数字で確かめた研究は見当たりません。「増えている」は、いまのところ印象の話です。
4|「異常の疑い」と「要受診」は、桁が違います
今日いちばんお伝えしたいのは、ここです。
先ほどの岡山県の調査では、問診や動作のチェックで何らかの「異常の疑い」があった子は、1年生で50.0%、6年生で76.7%でした。
一方、実際に「要受診」とされたのは1.0%(208人中2人)。個別の保健指導の対象が1.9%でした。
50〜77%と、1%。チェックに引っかかることと、治療が必要なことは、まったく別です。
検診は「見落とさないための網」なので、目が粗く作られています。調査票に丸がついたからといって、どこかが悪いと決まったわけではありません。
逆に、見逃したくないものもあります。同じ調査で痛みがある子は全体の15.4%(6年生では22.3%)、側弯の疑いは1.0%でした。しゃがめるかどうかより、「痛みがあるか」「左右で違うか」のほうが、受診の目安としては大事です。
5|運動する子と、しない子が分かれています
長い期間のデータがそろっているのは、スポーツ庁の全国体力・運動能力、運動習慣等調査です。令和7年度は小学5年生だけで約92万人が参加しました。
スポーツ庁の総括は「体力合計点は、小中学校男女ともに前年度から向上しているが、中学校男子を除いてコロナ前の水準に至っていない」。
はっきり変わっているのは、運動時間です。1週間の総運動時間が420分以上(1日平均60分)の子の割合は、令和元年度から令和7年度で次のように減りました。
- 小5男子:56.4% → 47.9%
- 小5女子:29.2% → 26.4%
- 中2男子:84.8% → 75.4%
- 中2女子:61.6% → 54.6%
そして、週60分未満の子は増加傾向にあります。運動時間による体力合計点の差も大きく、小5男子で週60分未満の子が44.0点、420分以上の子が57.6点でした。
スクリーンタイムも増えています。平日に学習以外で3時間以上画面を見ている子は、小5男子42.5%、小5女子37.2%、中2では男女とも約半数です。運動時間がゼロの子ほど、スクリーンタイムが5時間以上の割合が高い傾向も報告されています。ただしこれは関連であって、因果ではありません。スポーツ庁の資料も、因果とは書いていません。
6|「体が硬いから、ストレッチを」で足りるのか
しゃがめない、前屈で手がつかない。そう言われると「ストレッチをさせなきゃ」と思います。理学療法士として、ここは正確に書いておきます。

25のランダム化比較試験・26,610人をまとめた分析(うち11試験は青少年対象)では、ストレッチにスポーツ傷害を減らす効果は確認されませんでした。効果が示されたのは、筋力トレーニング、バランス練習、そして複数を組み合わせたプログラムです。60試験をまとめた別の分析でも、ストレッチについては同じ結果でした。
また、プロサッカー選手438人を追跡した研究では、柔軟性の低さは肉離れの「弱い危険因子」にとどまり、著者は「将来のけがを予測する臨床的価値はほとんどない」と結論しています。これは成人の研究で、こどもで同じことを確かめた質の高い研究は見つかりませんでした。
つまり、「体が硬い子はけがをしやすい」とは、いまの研究からは言い切れません。
ストレッチが無意味ということではありません。動かせる範囲が広がれば、できる動きは増えます。ただ、けがの予防という目的なら、体を支える力とバランスのほうが根拠があります。鬼ごっこ、木登り、ケンケン、相撲。昔からある遊びは、たいていこの2つを含んでいます。
7|やりすぎのほうにも、目安があります
運動が足りない子がいる一方で、やりすぎている子もいます。保健室でよくご相談を受けるのは、むしろこちらです。
全日本野球協会と日本整形外科学会などが小学生の野球選手10,228人に行った調査では、57.5%が肘または肩の痛みを経験したと答えました(アンケートの回答で、画像検査の結果ではありません)。
日本臨床スポーツ医学会の提言は、小学生について「全力投球は1日50球以内・週200球以内」「練習は週3日以内、1日2時間を超えない」としています。
野球に限らず、米国小児科学会は次のような目安を示しています。
- 組織的なスポーツの時間は、週あたり「年齢の数」時間を超えない(10歳なら週10時間まで)
- 週に1〜2日は、その競技から離れる
- 年間で合計3か月はオフにする
- 1つの競技に絞るのは、多くの競技で15〜16歳以降に
米国整形外科スポーツ医学会も、「早いうちに複数の競技を経験することは、将来の競技での成功の妨げにならない」と述べています。
ただし、これらは専門家の合意にもとづく目安で、厳密な比較試験で証明されたものではありません。「何時間を超えたら必ず壊れる」という線ではなく、立ち止まって様子を見るための目安として使ってください。
成長期の膝の痛み(オスグッド病)は、海外のデータで男子12歳・女子11歳ごろがピークです。背が急に伸びる時期と、練習量が増える時期が重なります。
8|子ども時代の運動は、大人まで続くのか
「いまのうちに運動習慣をつけておけば、一生の財産になる」。そう言いたいところですが、研究の結果はもう少し控えめです。
38研究・63,158人を平均約21年追跡した分析では、子ども時代の身体活動と大人になってからの身体活動の関連は「低い」という結論でした(相関係数0.14、スポーツ参加で0.26)。
子どものころ運動していた子が、大人になっても運動しているとは限らない。逆に言えば、子どものころ苦手だった子が、大人になって動く人になることも十分あるということです。
なお「子どもロコモ」という言葉を見かけますが、これは一部の整形外科医が使っている呼び方で、日本整形外科学会の公式な用語ではありません。子どものころの運動器の問題が将来のロコモティブシンドロームにつながることを示した追跡研究も、今回は見つかりませんでした。
「いま手を打たないと将来が」と焦る必要は、データの上ではありません。いま痛くないか、いま楽しく動けているか。見るべきはそこだと思います。
9|保健室でお手伝いできること
女性とこどもの保健室には、理学療法士と保育士がいます。お子さんの体について、次のようなお手伝いができます。
- 調査票の「できない」を、分けて見る——しゃがめない理由は、足首の硬さ、股関節、バランス、痛み、単に慣れていないだけ、とさまざまです。理由によって、やることが変わります
- 受診が必要かどうかを見分ける——痛みが続く、左右差がある、背中の高さが違う。こうした場合は整形外科をご案内します
- 練習量の相談——「チームの方針だから休めない」というご家庭の事情も含めて、一緒に考えます
- 運動が苦手な子の入り口探し——競技でなくて構いません。保育士が、遊びの形で提案します
お母さんご自身の体のご相談のついでに、「そういえば子どもが」と切り出される方が多いです。それで構いません。
10|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 「4割」は、埼玉県1,343人の調査で「4つの動作のどれか1つができなかった子」の割合です。しゃがみ込みに限れば15.3%、別の調査では10.1%でした。
- 「増えている」ことを示すデータは、まだありません。検診が始まったのは2016年です。
- 「異常の疑い」は50〜77%、「要受診」は1.0%。調査票に丸がついても、慌てなくて大丈夫です。
- 見てほしいのは、痛みと左右差。しゃがめるかどうかより、こちらが受診の目安になります。
- けがを減らす根拠があるのは、筋力とバランス。ストレッチだけでは足りません。そして、やりすぎにも目安があります。
運動会で見るべきは、順位でもフォームでもなく、走り終わったあとの顔かもしれません。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 文部科学省「学校保健安全法施行規則の一部改正等について(通知)」26文科ス第96号、平成26年4月30日
- 日本学校保健会『児童生徒等の健康診断マニュアル 平成27年度改訂』(文部科学省監修)
- 林承弘, 柴田輝明, 鮫島弘武「子どもロコモと運動器検診について」日本整形外科学会雑誌. 2017;91:338-344.
- 津島愛子, 三村由香里 ほか「小学生における運動器検診の結果と課題」岡山大学大学院教育学研究科研究集録. 2017;164:41-47.
- スポーツ庁「令和7年度 全国体力・運動能力、運動習慣等調査」結果概要および報告書
- Lauersen JB, Bertelsen DM, Andersen LB. The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. Br J Sports Med. 2014;48(11):871-877.
- Leppänen M, et al. Interventions to prevent sports related injuries: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. Sports Med. 2014;44(4):473-486.
- Van Dyk N, et al. Hamstring and ankle flexibility deficits are weak risk factors for hamstring injury in professional soccer players. Am J Sports Med. 2018;46(9):2203-2210.
- 全日本野球協会・日本整形外科学会・運動器の10年日本協会「平成26年度少年野球(軟式・硬式)実態調査 調査報告」2015年
- 日本臨床スポーツ医学会「青少年の野球障害に対する提言」日本臨床スポーツ医学会誌. 2005;13(Suppl):241-242.
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