【毎日コラム】帝王切開は、お腹の手術です。傷・痛み・骨盤底・次の妊娠のこと

「帝王切開だったから、産後は楽だったでしょう」「陣痛を経験していないから」。そんな言葉に、傷ついたことのある方がいらっしゃるかもしれません。
帝王切開は、お腹と子宮を切って赤ちゃんを迎える手術です。手術の翌日から、傷の痛みを抱えながら授乳と抱っこが始まります。「楽なお産」では、決してありません。
今日は、帝王切開のあとの体について、回復の経過、傷あと、骨盤底、次の妊娠、そしてこころのことを、研究にもとづいて整理します。
1|帝王切開は、めずらしいお産ではない
厚生労働省の令和5年医療施設調査によると、お産のうち帝王切開が占める割合は、一般病院で29.1%、診療所で15.3%でした。2011年には病院24.1%、診療所13.6%でしたから、少しずつ増えています。
病院では、およそ3〜4人に1人が帝王切開で出産しています。
2|術後の回復:早く動くほうがよい
「手術のあとは安静に」と思われがちですが、帝王切開後の回復についての国際的な指針(ERAS、2025年改訂)は、早い時期からベッドを離れて歩くことを強く勧めています。日本の産婦人科診療ガイドライン(産科編2026の原案)も、血栓を防ぐために、術後の早期離床を勧めています。
痛みについては、米国の初めて出産した女性を調べた研究があります。痛みがなくなるまでの日数は、帝王切開で中央値21日(多くの人は14〜27日)、経腟分娩で14日でした。痛み止めを使い終えるまでが16日、日常の動きが元に戻るまでが27日です。
つまり、帝王切開のあとは、1か月近く痛みと付き合いながら育児をしていることになります。国際指針は、痛み止め(アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬)を「痛くなってから」ではなく、時間を決めて使うことを勧めています。授乳中に使える痛み止めがありますので、我慢せず産院に伝えてください。
3|痛みが長引くこともある
2025年のメタ分析によると、帝王切開のあとに痛みが続いている人は、3か月で15.2%、6か月で9.5%、12か月で5.0%でした。多くは軽い〜中くらいの痛みです。
傷のまわりの感覚がにぶい、しびれる、下着が当たるとぴりぴりする、といった訴えも、よく伺います。皮膚を切るときに、細い神経も一緒に切れるためです。時間とともに戻っていくことが多いのですが、どのくらいの頻度で残るのかを示す確かな数字は、見つけられませんでした。
半年、1年とたっても痛みが続く、強くなる、月経のたびに傷のあたりが痛む。そのような場合は、産婦人科でご相談ください。
4|傷あとのケア
帝王切開の傷あとが、赤く盛り上がることがあります(肥厚性瘢痕、ケロイド)。日本の全国調査では、術後6〜18か月の女性のおよそ3人に2人が、傷あとの盛り上がりを自覚していました。ただしこれは写真を見ての自己評価で、医師の診断による頻度ではありません。
ケアの方法について、分かっていることをお伝えします。
- テープ固定:帝王切開後の女性を対象にした比較試験で、紙テープを12週間貼った群では、傷あとの盛り上がりが少なくなっていました。ただし小規模な試験で、最後まで続けられた人は39人でした。
- シリコンジェルシート:コクランレビューの結論は、予防については「弱い根拠」、治療については「効果は不確か」です。かゆみやかぶれが出ることもあります。
- 傷あとのマッサージ:文献をまとめた報告は、「根拠は弱い」と結論しています。帝王切開の傷あとを対象にした研究では、皮膚の柔らかさや押したときの痛みが改善したと報告されていますが、対照群のない小規模な研究です。
正直に申し上げると、「これをすれば傷あとがきれいになる」と言い切れる方法はありません。「マッサージで癒着がはがれる」という説明も目にしますが、それを裏づける根拠は見つかりませんでした。
傷あとが盛り上がって痛い、かゆい、ひきつれる場合は、形成外科や皮膚科で治療が受けられます。体質によるところが大きく、ケアが足りなかったせいではありません。

5|帝王切開でも、骨盤底は影響を受ける
「帝王切開なら、骨盤底は傷まない」と思われがちです。これは、半分だけ正しい話です。

ノルウェーの約1万5千人を調べた研究では、尿もれのある人は、出産経験のない女性で10.1%、帝王切開のみの女性で15.9%、経腟分娩の女性で21.0%でした。
経腟分娩よりは少ない。けれども、出産していない人よりは多い。妊娠中、大きくなった子宮を何か月も支え続けることそのものが、骨盤底への負担になるためと考えられています。
長期の研究でも、帝王切開は経腟分娩に比べて、尿もれや骨盤臓器脱が少ないことが示されています。それでも「ゼロ」にはなりません。帝王切開だった方も、尿もれがあれば、それは相談してよい症状です。
6|運動と「重いものを持たない」について
「産後◯週までは重いものを持たないで」と言われた方もいるでしょう。けれども、赤ちゃんは3kg、上のお子さんがいれば10kgを超えます。持たないわけにはいきません。
実は、手術後に「◯週間は重いものを禁止」という一律の制限を裏づける比較試験は、見つかっていません。婦人科の手術を対象にした研究では、制限をゆるめた群と厳しくした群で、その後の経過に差はありませんでした(帝王切開そのものを対象にした研究ではありません)。
現実的な目安は、週数ではなく体のサインです。傷の痛みが強くなる、傷が赤くなる・じくじくする、出血が増える。そうしたことがなければ、痛みの範囲内で、少しずつ動きを増やしていって大丈夫です。持ち上げるときは、息を止めずに吐きながら、体に近づけて持つと、お腹への負担が減ります。
7|次の妊娠について
「次の妊娠まで、どのくらいあければいいですか」というご質問も多くいただきます。
世界保健機関(WHO)は、帝王切開に限らず、出産から次の妊娠まで少なくとも24か月あけることを勧めています。帝王切開のあとに経腟分娩を試みる場合(TOLAC)については、お産の間隔が短いほど子宮破裂が多いという観察研究があり、18か月未満で約3倍、という報告があります。
日本の産婦人科診療ガイドラインには、妊娠間隔についての具体的な記載は見当たりませんでした。子宮の切り方や回復の状態によっても変わりますので、次の妊娠を考え始めたら、産婦人科でご相談ください。
また、帝王切開のあと、月経が終わったのに少量の出血がだらだら続く、という症状が出ることがあります。子宮の傷の部分にくぼみができ、そこに血液がたまることが原因のひとつとされています。気になる場合は、婦人科で超音波検査を受けられます。

8|こころのこと
予定していなかった帝王切開、とくに緊急の帝王切開は、こころにも影響を残すことがあります。
メタ分析では、緊急帝王切開のあとは、産後うつが1.2〜1.5倍ほど多いと報告されています。予定帝王切開では、はっきりした差はありませんでした。出産に関連した心的外傷後ストレスも、緊急帝王切開のあとに多いとされ、症状のあった方は「自分でコントロールできなかった」「支えが足りなかった」と感じていました。
これらは関連を示すもので、「帝王切開がうつを起こす」という意味ではありません。ただ、「無事に生まれたのだから」と片づけられない気持ちが残ることは、めずらしくないということです。
「下から産めなかった」と、ご自分を責める必要はありません。帝王切開は、あなたと赤ちゃんの安全のために選ばれた方法です。お産の場面を何度も思い出してつらい、眠れない、気持ちが沈む状態が続くときは、産院や自治体の保健師、産後ケア事業に相談してください。
9|保健室でお手伝いできること
女性とこどもの保健室では、帝王切開で出産された方の体のご相談をお受けしています。
- 傷をかばう姿勢からくる、腰・背中・肩の痛み
- お腹に力が入りにくい感じ、腹直筋離開の確認
- 尿もれなど、骨盤底のご相談
- 傷に負担の少ない、抱っこ・授乳・起き上がりの方法
- 運動を再開するときの、段階の組み立て
傷あとに触れるケアをご希望の場合は、傷が治っていること、主治医から止められていないことを確認したうえで行います。傷の赤み・痛み・盛り上がりが強い場合は、まず医療機関の受診をおすすめしています。
10|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 帝王切開は、病院でのお産の約3割。痛みがなくなるまで、中央値で3週間かかります。
- 術後は、早く歩き始めるほうがよい。痛み止めは我慢せず、時間を決めて使います。
- 傷あとのケアに、決定的な方法はありません。盛り上がりや痛みが強いときは、形成外科・皮膚科へ。
- 帝王切開でも、尿もれは起こります。出産していない人より多い、というデータがあります。
- 緊急帝王切開のあとは、こころの不調が出やすくなります。つらさが続くときは、相談を。
帝王切開は、りっぱなお産です。そして、手術を受けた体には、回復の時間が必要です。
関連するメニューとコラム
千葉県流山市(流山セントラルパーク駅 徒歩1分)の「女性とこどもの保健室」は、理学療法士が担当する、託児つきの女性専門治療院です。このコラムの内容に関連するメニューをご紹介します。
- 骨盤調整・整体:理学療法士が、姿勢・骨盤まわり・全身の状態を確認して体をととのえます。肩こりや腰痛、産後の体のメンテナンスに。
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女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 厚生労働省「令和5(2023)年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」.
- Sultan P, et al. Enhanced Recovery After Surgery (ERAS) Society recommendations for cesarean delivery (part 3) — 2025 update. Am J Obstet Gynecol. 2026;233(6S):S184-S198.
- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会『産婦人科診療ガイドライン 産科編2026』原案(パブリックコメント版).
- Komatsu R, et al. Recovery after nulliparous birth: a detailed analysis of pain analgesia and recovery of function. Anesthesiology. 2017;127(4):684-694.
- Wang LZ, et al. Anaesthesia. 2025;80(7):834-845(帝王切開後の慢性痛に関するメタ分析).
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