【毎日コラム】産後の運動、いつから・どこまで? 「6週間は安静に」の根拠をたどる

「産後6週間は安静に」「1か月健診でOKが出るまで運動は禁止」「走るのは産後3か月たってから」。産後の運動について、こうした”期間のルール”を耳にしたことがある方は多いと思います。
けれども、これらの数字がどんな研究から出てきたのかをたどっていくと、意外なことが分かります。一律の「運動禁止期間」を、研究にもとづいて定めた国際ガイドラインは、実は見当たらないのです。
明日はスポーツの日。今日は、産後の運動再開について、2025年に公表されたカナダの産後ガイドラインと、そのもとになった研究を手がかりに整理します。
1|「何週間は動いてはいけない」という根拠は、ほとんどない
2025年、カナダの運動生理学会が「産後1年間の身体活動・座位行動・睡眠」に関するガイドラインを公表しました(Davenport ら、Br J Sports Med)。産後に特化した、系統的レビューにもとづく本格的なガイドラインです。
その中身は、次のようなものでした。
- 中〜高強度の身体活動を、週に120分以上、4日以上に分けて行う
- 骨盤底筋トレーニングを毎日行う
- こころの健康のためには、産後12週以内に動き始めることが勧められる
- 再開は「個別に、少しずつ、症状を見ながら」
ここには「産後◯週までは禁止」という一律の線引きがありません。世界保健機関(WHO)の2020年のガイドラインも、妊娠中・産後の女性に週150分以上の中強度の身体活動を勧めていますが、開始時期を一律には定めていません。
なお、日本の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、妊産婦については科学的根拠が十分でないとして、具体的な推奨値を示していません。日本語で確かな目安を探しても見つかりにくいのは、このためです。
2|「走るのは12週から」は、専門家の意見でした
産後のランニングについては、「産後12週までは走らない」という目安がよく紹介されます。これは2019年に英国の理学療法士らがまとめた指針(Goom ら)に由来しますが、著者自身が、根拠の水準は「専門家の意見」(エビデンスレベル4)であると明記しています。比較試験で確かめられた数字ではありません。
その後、2024年に各国の専門家の合意をまとめた研究(Christopher ら)では、「最低でも約3週間は体を休め、その後は一人ひとりの状態に合わせて段階的に」という方向に整理されています。週数で一律に区切るより、その人の体の準備ができているかを見る、という考え方です。
実際の産後女性はどうしているのでしょうか。881人を調べた調査(Moore ら、2021年)では、74%がランニングに復帰しており、復帰の時期は中央値で産後12週でした。ただし幅は大きく、半数の人は7〜20週のあいだに散らばっています。
そしてこの調査で見逃せないのは、復帰した人の29%が走っているときの尿もれを、84%が何らかの痛みを経験していたことです。「走れるようになった」と「困りごとなく走れている」は、同じではありません。
3|早く動くと、骨盤底が傷むのか
産後の運動でいちばん心配されるのは、「早く動くと子宮が下がる(骨盤臓器脱になる)のでは」という点でしょう。
ノルウェーの研究(Tennfjord ら、2020年)では、産後6週の時点で運動をしていた女性と、していなかった女性を比べても、産後12か月時点の骨盤底の状態に悪化は見られませんでした。また、激しい運動と骨盤臓器脱の関係を検討した総説(Bø・Nygaard、2020年)は、「激しい運動が骨盤臓器脱を起こすという根拠は一貫していない」とまとめています。
つまり、「早く動いたから傷む」と言い切れる根拠は、今のところありません。同時に、「どんな運動でも安全」と言い切れる根拠もありません。分かっていないことは、分かっていないと申し上げるのが正直なところです。だからこそ、週数ではなく、ご自分の体に出るサインを目安にすることが大切になります。
4|動くことで、何が変わるか
一方で、産後に体を動かすことの利益については、かなり確かなデータがそろってきました。カナダのガイドラインのもとになった一連のメタ分析の結果です。

- 産後うつ:運動をした群では、産後うつになる人が45%少なくなっていました。効果が見られる目安は、速歩きなどの中強度の運動を週に80分ほどです。
- 尿もれ:骨盤底筋トレーニングを行った群では、尿失禁が37%少なくなっていました。
- 睡眠:睡眠時間そのものは変わりませんが、睡眠の質と日中の疲れが改善していました。赤ちゃんに起こされる回数は変えられなくても、眠りの質は変えられる可能性がある、ということです。
- 体重:運動だけでの減少は、平均1.3kgほど。体重を戻す手段としての効果は、控えめです。
「産後の運動=体型を戻すため」と考えられがちですが、研究が示しているいちばん大きな利益は、こころと睡眠、そして尿もれの予防でした。

5|授乳中に運動すると、母乳は減るのか
「運動すると母乳が出なくなる」「母乳の味が変わって赤ちゃんが飲まなくなる」と心配される方もいます。
これについては、1994年の比較試験(Dewey ら、N Engl J Med)以来、研究が重ねられてきました。2025年のメタ分析(Jones ら)でも、運動は母乳の量にも質にも、赤ちゃんの発育にも影響しなかったと報告されています。
実用的な工夫としては、運動の前に授乳か搾乳を済ませておくことです。胸の張りによる不快感が減り、動きやすくなります。体に合ったサポート力のある下着を選ぶことも助けになります。
6|帝王切開のあとは
帝王切開は、お腹の手術です。ただし、「手術だから長く寝ていたほうがよい」わけではありません。手術後の早い時期から歩くことは、合併症が少ないことと関連していると報告されています。
中〜高強度の運動については、カナダのガイドラインでも「傷が治ってから」とされていますが、根拠の確かさは低いとされています。具体的に何週から、という数字を研究から示すことはできません。傷の痛み、赤み、浸出液の有無を見ながら、主治医と相談して進めてください。
7|日本の産後女性は、どのくらい動いているか
日本の調査(Saito ら、2025年)では、産後6か月未満の女性の歩数は1日平均4,809歩で、出産していない同年代の女性の6,939歩より、2,000歩ほど少ないことが報告されています。
これは「怠けている」という話ではありません。赤ちゃんを抱いて家の中を動き回る時間は長くても、まとまって歩く機会が減る。外出のハードルが上がる。産後の生活の構造が、そうさせているのです。
だからこそ、「運動の時間をつくる」より、「いまの生活に歩く時間を足す」ほうが現実的です。ベビーカーや抱っこでの10分の散歩を1日2回。それだけで、週に140分になります。

8|再開の目安と、立ち止まるサイン
週数の代わりに、次のような順序で考えてみてください。
- 産後すぐ〜:呼吸、骨盤底筋をやさしく締めてゆるめる練習、室内での歩行
- 体が落ち着いてきたら:散歩の時間を少しずつ延ばす。5分から10分、20分へ
- 歩いて困りごとがなければ:速歩き、軽い筋力トレーニング(スクワット、ブリッジなど)
- それでも症状が出なければ:ジョギング、跳ぶ動き、スポーツへ
次のようなサインが出たら、その段階はまだ早いという体からの合図です。一段階戻して、様子を見てください。
- 運動中や運動後に、尿がもれる
- 腟のあたりに、重い感じ・何かが下がってくる感じがある
- 悪露(おろ)が増える、色が鮮やかな赤に戻る
- 骨盤、腰、恥骨、傷のあたりが痛む
- お腹の中央が、力を入れたときに盛り上がる
出血が急に増えた、発熱がある、ふくらはぎが片方だけ腫れて痛む、息苦しさや胸の痛みがある。こうした場合は運動を中止し、産院を受診してください。
9|保健室でお手伝いできること
女性とこどもの保健室では、理学療法士が、産後の体の状態をひとつずつ確認しながら、「いま、どの段階の運動から始めるのがよさそうか」を一緒に考えます。
- 骨盤底筋が正しく使えているかの確認と、練習の仕方
- 腹直筋離開の有無と、お腹の力の入れ方
- 歩く・しゃがむ・抱っこするといった、毎日の動作の確認
- ランニングやスポーツへ戻りたい方の、段階的な計画づくり
託児がありますので、赤ちゃんと一緒にお越しいただけます。尿もれや下がる感じが続く場合には、産婦人科・泌尿器科・女性泌尿器科(ウロギネ)の受診もおすすめしています。
10|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 産後の運動に、研究で決められた一律の「禁止期間」はありません。「走るのは12週から」も、専門家の意見にもとづく目安です。
- 産後の運動でいちばん確かな利益は、産後うつが少なくなること、尿もれが減ること、睡眠の質が良くなることです。
- 目安は、速歩きなどを週に120分。まずは週80分でも、気分への効果が期待できます。
- 授乳中に運動しても、母乳の量や質、赤ちゃんの発育には影響しません。
- 週数ではなく、体のサインで進めます。尿もれ・下がる感じ・痛み・悪露の増加は、「一段階戻す」合図です。
動き出す日を決めるのは、カレンダーではなく、あなたの体です。焦らず、でも怖がりすぎずに。
関連するメニューとコラム
千葉県流山市(流山セントラルパーク駅 徒歩1分)の「女性とこどもの保健室」は、理学療法士が担当する、託児つきの女性専門治療院です。このコラムの内容に関連するメニューをご紹介します。
- パーソナルトレーニング:理学療法士が、姿勢の改善・運動不足の解消・筋力づくりを、目的に合わせてサポートします。
- 骨盤調整・整体:理学療法士が、姿勢・骨盤まわり・全身の状態を確認して体をととのえます。肩こりや腰痛、産後の体のメンテナンスに。
- 骨盤底筋トレーニング(ペリノスコース):骨盤底筋の動きを確認しながら進めるトレーニングコース。
メニュー・クーポンの一覧を見る(ホットペッパービューティー)
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ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- Davenport MH, et al. 2025 Canadian guideline for physical activity, sedentary behaviour and sleep throughout the first year post partum. Br J Sports Med. 2025;59(8):515-526.
- Deprato A, et al. Impact of postpartum physical activity on maternal depression and anxiety: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2025;59(8):550-561.
- Beamish NF, et al. Impact of postpartum exercise on pelvic floor disorders and diastasis recti abdominis: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2025;59(8):562-575.
- Jones PAT, et al. Br J Sports Med. 2025;59(8):539-549/576-583(産後の運動と母乳・乳児の発育、体重などに関する系統的レビュー).
- Gervais MJ, et al. Br J Sports Med. 2025;59(8):605-617(産後の運動と睡眠に関する系統的レビュー).
- Goom T, Donnelly G, Brockwell E. Returning to running postnatal – guidelines for medical, health and fitness professionals managing this population. 2019.
- Christopher SM, et al. 産後のランニング復帰に関する国際デルファイ合意研究. Br J Sports Med. 2024.
- Moore IS, et al. Multidisciplinary, biopsychosocial factors contributing to return to running and running related stress urinary incontinence in postpartum women. Br J Sports Med. 2021;55(22):1286-1292.
- Tennfjord MK, et al. Effect of physical activity and exercise on pelvic floor function in the first year postpartum. 2020.
- Bø K, Nygaard IE. Is physical activity good or bad for the female pelvic floor? A narrative review. Sports Med. 2020;50(3):471-484.
- Dewey KG, et al. A randomized study of the effects of aerobic exercise by lactating women on breast-milk volume and composition. N Engl J Med. 1994;330(7):449-453.
- World Health Organization. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. 2020.
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」.
- Saito ら. 産後女性の歩数に関する日本の調査. 2025.

