健康な体作り

【毎日コラム】その体操、本当に効いていますか —— 骨盤底筋トレーニング・ケア

骨盤底筋トレーニングと理学療法のコラム、アイキャッチ画像

「くしゃみをしたときに、少しだけ」「走ると心配だから、パッドを当てている」——尿もれの相談は、保健室でとても多く、そしていちばん最後まで言い出しにくいものでもあります。

そして多くの方が、すでに何かしら試しておられます。「骨盤底筋を締めるといい」と聞いて、信号待ちのあいだに力を入れてみる。アプリを入れてみる。——けれど、変わらない。

この記事は、そういう方に向けて書きました。結論から言えば、骨盤底筋トレーニングは、条件がそろえばはっきり効きます。その「条件」を、研究が何と言っているかで確かめていきます。


1|まず、これは「年のせい」ではありません

日本人女性2,503人を対象にしたウェブ調査では、尿失禁の症状をもつ人は全体の25.5%。年代別では20代で14.4%、30代17.7%、40代28.7%、50代34.4%、60代32.8%でした。40代を境にはっきり増えますが、20代ですでに7人に1人です。(Onishi & Shibata, Women’s Health, 2023

つまり尿もれは、高齢になってから始まるものではありません。出産や体重、加齢が重なって「表に出てくる」時期に個人差があるだけです。

もうひとつ、知っておいていただきたい数字があります。2023年の全国調査(確率抽出・6,210人)によると、過活動膀胱の症状がある人のうち、現在医療機関を受診しているのは女性でわずか9.7%でした。過去の受診歴を含めても28.3%です。(Mitsui ら, JaCS 2023, ICS 2024

10人のうち9人が、誰にも相談しないまま過ごしている。これが日本の現状です。相談しないのは、あなただけではありません。そして、相談しないことで損をしている可能性があります。

2|骨盤底筋トレーニングは、ちゃんと効く

世界中の臨床試験を統合するコクラン・レビューは、31試験・1,817人・14か国のデータをまとめて、こう報告しています。

腹圧性尿失禁の女性のうち、骨盤底筋トレーニングを行った群では56%が「治った」と報告したのに対し、何もしなかった群は6%。リスク比8.38(95%信頼区間3.68〜19.07)でした。「治った、または改善した」で見ると74%対11%です。(Dumoulin ら, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2018

ただし正直にお伝えすると、この「56%対6%」は4試験・165人という小さな集計に基づく数字です。それでもコクランは「骨盤底筋トレーニングは、尿失禁のある女性に対する第一選択の保存的治療に含めてよい」と結論づけています。1日の尿もれ回数も、平均して1日あたり1.23回減っていました。

手術でも薬でもなく、自分の筋肉を使うことで、これだけの結果が出ている。まずここは、希望をもっていい部分です。

3|それでも「やっているのに効かない」人がいる理由

ここからが本題です。

1991年に発表された有名な研究があります。骨盤底筋体操について標準化された口頭指示を受けた直後の女性47人を調べたところ、理想的な収縮(いきまずに、尿道を締める力を高める動き)ができていたのは49%。さらに25%は、尿もれをかえって悪化させうるやり方をしていました。(Bump ら, American Journal of Obstetrics and Gynecology, 1991

著者の結論は明快です。「単純な口頭または書面での指示は、骨盤底筋体操を始める人にとって十分な準備とはいえない」。

しかも、年齢・出産回数・体重・手術歴のどれもが、「正しくできるかどうか」を予測しませんでした。若いから大丈夫、出産していないから大丈夫、ということではないのです。

さらに新しく、規模の大きな研究があります。出産直後の女性958人を調べたところ、指示を受ける前の時点で52.2%が適切な動きを示せず、そのうち29%はまったく動きがありませんでした。そして最も示唆的なのが次の数字です。

33.4%——およそ3人に1人は、「自分はできている/できていない」という自己認識そのものが、事実と食い違っていました。Vermandel ら, International Urogynecology Journal, 2015

これが「やっているのに効かない」の正体です。効かないのではなく、自分が思っている動きと、実際に起きている動きが違う。そして自分ではそれに気づけない。

救いもあります。同じ研究で、口頭で指示を受けたあと74%の女性が収縮を改善させています。教われば、変わるのです。

骨盤底筋トレーニングが効くための3つの条件。治癒報告56%、自己認識の誤り33%、推奨継続期間3か月。
効果を示す数字と、つまずきを示す数字を並べると、「最初に評価してもらうこと」の意味が見えてきます。

4|研究が支持しているのは「通い続けること」ではなく「最初に確かめること」

ここは誤解されやすいところなので、正確にお伝えします。

2024年のコクラン・レビュー(64試験・4,972人)は、「クリニックで監督を受けるか、自宅で行うか」を比較しましたが、その差は非常に不確かだと結論しています。個別指導と集団指導の差も「ほとんど、あるいはまったくない」とされました。(Hay-Smith ら, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2024

つまり、「ずっと通わないと効かない」という話ではありません

一方で、同じレビューは「eヘルス(アプリやオンライン)での提供は、書面の指示だけよりおそらく良い」としています。2023年のメタ分析も、監督下と非監督下を比べたうえで、「十分な教育と定期的な再評価を伴えば、どちらでも良好な結果が出る」「ただし患者教育のない非監督下トレーニングよりは良い」と結論づけました。(Kharaji ら, International Urogynecology Journal, 2023

そして英国のNICEガイドラインは、推奨1.3.4でこう定めています。「監督下の骨盤底筋トレーニングを用いる前に、骨盤底筋が収縮できていることを確認する評価を行うこと」。(NICE guideline NG123, 2019

整理するとこうなります。

  • いちばん効果が乏しいのは、評価も指導もなく、パンフレットや記事を読んで自己流で始めること
  • 最初に専門職が「動かせているか」を確認して教えると、効果の土台ができる
  • その後は自宅中心でも構わない。ただし途中で一度は見直す機会があるほうがよい

必要なのは、通い詰めることではなく、最初の一回、正しく確かめることです。

5|どのくらい、どれだけ続けるのか

NICEガイドラインの推奨は具体的です。

  • 腹圧性・混合性尿失禁には、監督下のトレーニングを最低3か月、第一選択として行う(推奨1.4.4)
  • プログラムは1回8回以上の収縮を、1日3回以上(推奨1.4.5)
  • 軽度の骨盤臓器脱(POP-Qステージ1〜2)には16週間以上(推奨1.7.5)
  • 効果があれば、続けること(推奨1.4.7)

1日8回を3セット。所要時間にすれば数分です。ケーゲル博士が当初提唱した「1日300〜500回」に比べれば、はるかに現実的な量です。運動生理学の立場から筋力トレーニングの原則を当てはめた検討でも、「8〜12回を3セット、週3〜4回、15〜20週間以上」が妥当とされています。(Bø, International Urogynecology Journal, 1995

なお「最低3か月」は、試験データから導かれた閾値ではなく、NICEの委員会が臨床経験にもとづいて合意した期間です。日本産科婦人科学会の教育資料にも「三ヶ月は続行し、改善がみられても継続が大切」という記載があります。(明楽重夫「性器脱の診断と治療」第67回日本産科婦人科学会学術講演会

逆に言えば、2週間やって変わらないのは失敗ではありません。そこでやめてしまうことのほうが、もったいないのです。

6|妊娠中・産後は「予防」がいちばん効く時期

46試験・10,832人・21か国をまとめたコクラン・レビューは、妊娠中と産後について重要な区別を示しています。

まだ尿もれのない妊婦さんが、妊娠早期から構造化された骨盤底筋トレーニングを行うと——

  • 妊娠後期に尿もれを報告するリスクが約62%低下(リスク比0.38、6試験624人、中等度の質)
  • 産後3〜6か月の尿もれリスクが約29%低下(リスク比0.71、5試験673人、高い質のエビデンス)

一方で、すでに尿もれがある妊婦さんへの治療効果については、「妊娠後期の尿失禁を減らすというエビデンスはない」とされました。(Woodley ら, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2020

この非対称性は、正直にお伝えしておきたい点です。妊娠中に始めるのは「予防」として非常に価値がある。すでに症状がある場合は、妊娠中のトレーニングだけで解決するとは限らない——だからこそ、産後にきちんと評価を受ける意味があります。

7|「下がってくる感じ」がある方へ

骨盤臓器脱についても触れておきます。日本人女性1,032人(21〜84歳)が子宮頸部の検診を受けた際の調査では、POP-Qステージ2以上の骨盤臓器脱が17.1%にみられました。リスク要因はBMI25以上(オッズ比1.63)、子宮摘出術の既往(4.09)、経腟分娩3回以上(2.26)でした。(Kato ら, International Urogynecology Journal, 2022

「入浴時に何か触れる」「夕方になると下がってくる感じがする」——こうした症状は、決してめずらしいものではありません。NICEは軽度のものに対して16週間以上の骨盤底筋トレーニングを第一の選択肢として挙げています。まず相談していただきたい症状です。

8|保健室でしていること

私たちが大切にしているのは、この記事で繰り返しお伝えしてきた「最初に、正しく確かめる」という一点です。

理学療法士が、今どの筋肉がどう働いているのか、力が入っているのか抜けているのか、いきんでしまっていないかを確認したうえで、その方に合った動かし方をお伝えします。横浜のみなみレディースクリニックでは産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っており、医師の診察が必要な状態かどうかも含めて判断できる体制をとっています。

流山本院は保育士・看護師による託児付きで、生後1か月からお預かりしています。「子どもを連れて行けないから」という理由で、自分の体のことを後回しにしなくて済むように、という考えからです。勝どき出張院は完全予約制の個室で、人目を気にせず過ごしていただけます。

尿もれは、我慢して付き合うものではありません。3か月、正しいやり方で続けてみる。その最初のひと押しを、お手伝いさせてください。


ご相談・ご予約

女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

女性とこどもの保健室の3つの拠点。流山本院(託児付き)、勝どき出張院(完全予約制プライベートサロン)、横浜みなみレディースクリニック(産婦人科医連携)

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。


本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。

 


参考文献・出典

  1. Onishi A, Shibata A.「Prevalence and sociodemographic correlates of urinary incontinence in Japanese women」Women’s Health. 2023;19. 論文
  2. Mitsui T ら「Prevalence, impact on daily life and associated factors of overactive bladder in Japan(JaCS 2023)」ICS 2024 Abstract #741. 抄録
  3. Dumoulin C, Cacciari LP, Hay-Smith EJC.「Pelvic floor muscle training versus no treatment for urinary incontinence in women」Cochrane Database of Systematic Reviews. 2018;CD005654.pub4. 要約
  4. Bump RC ら「Assessment of Kegel pelvic muscle exercise performance after brief verbal instruction」American Journal of Obstetrics and Gynecology. 1991;165(2):322-329. 書誌
  5. Vermandel A ら「Pelvic floor awareness and the positive effect of verbal instructions in 958 women early postdelivery」International Urogynecology Journal. 2015;26(2):223-228. 論文
  6. Hay-Smith EJC ら「Comparisons of approaches to pelvic floor muscle training for urinary incontinence in women」Cochrane Database of Systematic Reviews. 2024;CD009508.pub2. 抄録
  7. Kharaji G ら「Supervised versus unsupervised pelvic floor muscle training」International Urogynecology Journal. 2023;34(7):1339-1349. 論文
  8. NICE guideline NG123「Urinary incontinence and pelvic organ prolapse in women: management」2019. PDF
  9. Bø K.「Pelvic floor muscle exercise for the treatment of stress urinary incontinence: An exercise physiology perspective」International Urogynecology Journal. 1995;6:282-291. 論文
  10. Woodley SJ ら「Pelvic floor muscle training for preventing and treating urinary and faecal incontinence in antenatal and postnatal women」Cochrane Database of Systematic Reviews. 2020;CD007471.pub4. 要約
  11. Kato J ら「Pelvic organ prolapse and Japanese lifestyle: prevalence and risk factors in Japan」International Urogynecology Journal. 2022;33:47-51. 論文
  12. 明楽重夫「性器脱の診断と治療」第67回日本産科婦人科学会学術講演会 専攻医教育プログラム, 2014. PDF

流山市でお身体悩みを相談するなら
女性とこどもの保健室
https://nozomi-salon.com/


〒270-0152
流山市前平井94アークヒルズ英103
TEL:04-7178-9773