子育て

【毎日コラム】音楽で頭がよくなる、は本当か。文化の日に考える、こどもと音楽と習い事

今日は文化の日。芸術の秋でもあり、発表会やコンクール、来年度に向けた習い事の体験レッスンが増える時期です。

「ピアノを習うと頭がよくなる」「小さいうちから音楽を聞かせると脳にいい」。そんな話を聞いて、習わせたほうがいいのかな、と迷っている方もいるでしょう。あるいは、すでにいくつも習い事をしていて、これでいいのかな、と感じている方も。

今日は、音楽とこどもの発達について、研究で分かっていることを整理します。期待されているほどの効果がない部分と、思いがけない力がある部分の、両方をお伝えします。

1|「モーツァルトを聞くと賢くなる」は、否定されている

1990年代、「モーツァルトの曲を聞いたあとは、空間的な課題の成績が上がる」という研究が話題になり、「モーツァルト効果」として世界中に広まりました。赤ちゃん向けのクラシックCDが、たくさん売られた時代です。

その後、約40の研究、3,000人以上のデータをまとめたメタ分析(Pietschnig ら、2010年)が行われました。結論は、モーツァルトに特有の効果があるという証拠は、ほとんどない、というものでした。ほかの音楽と比べると、差はごくわずか。音楽を聞いて気分が上向き、目が覚めた状態になることで、一時的に成績が良くなっただけ、と考えられています。

赤ちゃんにクラシックを聞かせることに、害はありません。けれども、「賢くなるから」という理由で、聞かせなければと思う必要はありません。

2|「楽器を習うと成績が上がる」も、ほぼ否定されている

では、聞くだけでなく、実際に楽器を習う場合はどうでしょうか。

楽器を習っている子は、習っていない子より学校の成績が良い。これは、多くの調査で見られる事実です。けれども、それは音楽のおかげなのか。もともと家庭に余裕があり、教育に熱心な家の子が、楽器を習っているだけかもしれません。

これを確かめるには、こどもを無作為に、音楽を習うグループと、習わないグループに分けて比べる必要があります。そうした研究をまとめたメタ分析(Sala・Gobet、2020年)の結論は、はっきりしていました。

音楽とこどもについて研究で分かっていること。学力・知能への効果はほぼゼロ。ことばの音の聞き分けは2年間のプログラムで改善。協力・助け合いは一緒に音楽をしたあとに増えた。赤ちゃんの機嫌は歌を聞くと約2倍長く保てた。産後の母親の気分は歌のグループで回復が速かった

研究の質をそろえて比べると、音楽の訓練が、知能や学力に与える効果は、ほぼゼロでした。効果があるように見えた研究は、グループの分け方が無作為でなかったり、比べる相手が「何もしないグループ」だったりするものに限られていました。同じ研究者による2017年の分析でも、質の高い研究ほど、効果が小さくなっていました。

無作為に分けた研究のひとつ(Schellenberg、2004年)では、音楽のレッスンを受けたグループで、知能指数の伸びが少し大きくなっていました。ただし、その差は研究者自身が「比較的小さい」と述べる程度のものです。

ある能力を鍛えると、関係のない別の能力まで伸びる。これを「転移」と呼びますが、音楽に限らず、チェスでも、脳トレでも、こうした遠くへの転移は、ほとんど起こらないことが分かってきています。ピアノを練習して上手になるのは、ピアノです。

3|それでも、音楽には力がある

「なんだ、意味がないのか」と思われたでしょうか。そうではありません。音楽の力は、成績とは別のところにあります。

ことばの音を聞き分ける力:米国で、経済的に恵まれない地域のこどもたちを対象に行われた研究(Kraus ら、2014年)では、地域の音楽プログラムに2年間参加した子で、ことばの音に対する脳の反応が、より正確になっていました。1年間では、変化は見られませんでした。音を注意深く聞く経験が、ことばの音の処理にも影響する、と考えられています。

人と協力する力:ドイツの研究(Kirschner・Tomasello、2010年)では、4歳のこども96人を2人組にして、一緒に歌ったり踊ったりする遊びをしたグループと、音楽のない同じような遊びをしたグループに分けました。その後、音楽のグループのこどもたちは、相手を助けたり、協力したりする行動が多くなりました。

声を合わせる、リズムを合わせる、相手の音を聞く。合唱や合奏、運動会のダンスやお遊戯には、「息を合わせる」経験がつまっています。

そして、音楽そのもの:楽器が弾けるようになる。好きな曲ができる。音楽を、一生の楽しみとして持てる。それは、成績に換算する必要のない、それ自体が価値のあることです。

4|赤ちゃんには、「歌」がいちばん

ここからは、習い事ではなく、家庭の中の音楽の話です。研究の中で、いちばん温かい結果が出ている分野です。

カナダの研究(Corbeil ら、2016年)では、7〜10か月の赤ちゃんに、歌、または語りかけの録音を聞かせて、ぐずり出すまでの時間を比べました。歌を聞いていた赤ちゃんは、語りかけを聞いていた赤ちゃんの約2倍、長く機嫌を保っていました。

同じ研究グループの別の研究(Cirelli・Trehub、2020年)では、親が歌うことで、赤ちゃんの不機嫌が落ち着くこと、そして、初めて聞く歌よりも、いつも歌ってもらっているなじみの歌が、もっとも効果的であることが示されています。

歌は、赤ちゃんの気持ちを整える、古くからの道具です。上手である必要はありません。音程が外れていても、歌詞があいまいでも、同じ歌を、同じ人が、くり返し歌うこと。それが、赤ちゃんにとっての「いつもの安心」になります。

おむつ替えの歌、お風呂の歌、寝る前の歌。決まった場面で決まった歌を歌うと、赤ちゃんは次に起こることを予測しやすくなります。イヤイヤ期のお子さんにも、「おかたづけの歌」「歯みがきの歌」は、言葉で指示するより、すっと入ることがあります。

音楽に合わせて遊ぶ親子のイラスト

5|歌うことは、お母さんにも効く

歌の効果は、こどもだけのものではありません。

英国で、産後うつの症状がある母親134人を対象に行われた比較試験(Fancourt・Perkins、2018年)があります。赤ちゃんと一緒に歌うグループ活動、赤ちゃんと一緒に遊ぶグループ活動、ふだんどおりのケアの3つに分けて、10週間比べました。

全体では、3つのグループに大きな差はありませんでした。けれども、症状が中等度以上だった母親に限ると、歌のグループで、症状の回復がより速くなっていました。

ひとつの試験の、一部の人についての結果ですから、「歌えば産後うつが治る」と言えるものではありません。それでも、赤ちゃんと声を合わせる時間が、お母さん自身の気持ちにもはたらきかけるというのは、うなずける話です。

産後、気持ちが沈む、涙が出る、何も楽しめない状態が2週間以上続くときは、歌に頼るのではなく、産院や自治体の保健師、産後ケア事業に相談してください。

6|習い事は、多いほどよいのか

文部科学省の「子供の学習費調査」(令和5年度)によると、公立小学校に通うこどもの学校外活動費は、年間約25万6千円。学習費全体の7割を占めます。ベネッセ教育総合研究所の調査(2017年)では、「音楽や芸術の活動より、勉強を」と考える母親が44.4%と、以前より増えていました。

習い事が増えると、減るものがあります。何も決まっていない、自由な時間です。

米国の研究(Barker ら、2014年)は、6〜7歳のこどもの1週間の過ごし方を調べ、自分で目標を立てて行動する力(自己主導的な実行機能)との関係を見ました。自由遊びや、自分で決めて過ごす時間が多い子ほど、この力が高く、大人が決めた活動(習い事、宿題、お手伝いなど)の時間が多い子ほど、低い傾向がありました。

これは、ある時点での関連を見た研究です。「習い事を減らせば、自分で考える力が伸びる」と証明されたわけではありません。もともと自分で動ける子が、自由な時間を多く与えられているのかもしれません。

それでも、ひとつの問いを投げかけてくれます。「何をしようかな」と自分で考え、退屈し、思いつき、やってみて、うまくいかず、やり直す。その経験は、スケジュールが埋まっていると、起こりにくいのです。

スポーツの分野では、米国小児科学会が、早い時期からひとつの競技だけに絞りこむことは、体と心に悪い影響を及ぼすことがあり、燃え尽きは競技をやめてしまう主な原因のひとつだ、としています。習い事全般にも、通じるところがあるでしょう。

  • 週のうちに、何も予定のない日があるか
  • こども本人が、「行きたい」と言っているか
  • 寝る時間が、遅くなっていないか
  • 家族でゆっくり食卓を囲む日があるか

習い事を選ぶとき、やめるかどうか迷うときに、この4つを確かめてみてください。

7|「絶対音感」と、始める時期

「音楽は、小さいうちに始めないと間に合わない」と聞いて、焦る方もいます。

たしかに、絶対音感(基準の音なしに、音の高さを言い当てる力)については、始める時期が関係します。日本とポーランドの音楽専攻の学生を比べた研究(Miyazaki ら、2012年)では、絶対音感を持つ学生は日本で30%、ポーランドで7%。持っている学生は、6歳より前に音楽の訓練を始めていました。

けれども、絶対音感は、音楽を楽しむためにも、演奏するためにも、必須のものではありません。「絶対音感のために、早く始めなければ」と考える必要はありません。

楽器を始めるのに、遅すぎるということはありません。こども本人が「やりたい」と言ったときが、いちばんよい始めどきです。

こどもが描いた絵

8|体験の格差

最後に、もうひとつ大切な事実をお伝えします。

公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの調査(2022年、小学生の保護者約2,100人)では、学校の外での体験(習い事、スポーツ、音楽、旅行、自然体験など)が、この1年間で何ひとつなかったこどもは、世帯年収300万円未満の家庭で29.9%、600万円以上の家庭で11.3%でした。約2.6倍の開きがあります。ベネッセの調査でも、学校外の教育にかける費用は、世帯年収によって約3倍の差がありました。

習い事に通わせられないことを、後ろめたく思う方がいます。けれども、今日お伝えしてきたとおり、音楽の力のいちばん確かな部分は、家庭の中の「歌」にあります。お金はかかりません。

図書館のCD、地域の音楽会、児童館のリズム遊び、学校や園の合唱と合奏。こどもが音楽に出会う場所は、教室だけではありません。

9|保健室でお手伝いできること

女性とこどもの保健室は、音楽教室ではありませんが、体と音楽は、深くつながっています。

  • 赤ちゃんとのふれあい遊び、歌に合わせた体の動かし方のご紹介
  • リズムに合わせて動くのが苦手な子、不器用さが気になる子の、体の使い方の確認
  • 楽器の練習や、長時間の座った姿勢で、肩・首・腰・手がつらくなるお子さんのご相談
  • 習い事の送り迎えで疲れた、保護者の方の体のケア

ピアノやバイオリン、吹奏楽などで痛みが出ているお子さんは、「練習不足」でも「根性不足」でもなく、姿勢や体の使い方に原因があることがあります。早めにご相談ください。

10|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと

  1. 音楽を聞かせても、習わせても、学力や知能への効果はほぼ確認されていません。「頭がよくなるから」は、理由にしなくて大丈夫です。
  2. 音楽の力は、音を聞く力、人と息を合わせる力、そして音楽そのものの喜びにあります。
  3. 赤ちゃんは、歌を聞くと、語りかけの約2倍、機嫌よくいられました。なじみの歌が、いちばん効きます。
  4. 習い事を増やすと、自由な時間が減ります。何も予定のない日が、週にありますか。
  5. 絶対音感のために、急ぐ必要はありません。本人が「やりたい」と言ったときが、始めどきです。

文化の日の夜、お子さんと一緒に、1曲歌ってみませんか。上手でなくて、かまいません。


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千葉県流山市(流山セントラルパーク駅 徒歩1分)の「女性とこどもの保健室」は、理学療法士が担当する、託児つきの女性専門治療院です。このコラムの内容に関連するメニューをご紹介します。

  • me TIME:スタッフがお子さまをお預かりし、保護者の方が個室でひとりの時間を過ごせるプラン。

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本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。


参考文献・出典

  1. Pietschnig J, Voracek M, Formann AK. Mozart effect–Shmozart effect: a meta-analysis. Intelligence. 2010;38(3):314-323.
  2. Sala G, Gobet F. Cognitive and academic benefits of music training with children: a multilevel meta-analysis. Mem Cognit. 2020;48(8):1429-1441.
  3. Sala G, Gobet F. When the music’s over. Does music skill transfer to children’s and young adolescents’ cognitive and academic skills? A meta-analysis. Educ Res Rev. 2017;20:55-67.
  4. Schellenberg EG. Music lessons enhance IQ. Psychol Sci. 2004;15(8):511-514.
  5. Kraus N, et al. Music enrichment programs improve the neural encoding of speech in at-risk children. J Neurosci. 2014;34(36):11913-11918.
  6. Kirschner S, Tomasello M. Joint music making promotes prosocial behavior in 4-year-old children. Evol Hum Behav. 2010;31(5):354-364.
  7. Corbeil M, Trehub SE, Peretz I. Singing delays the onset of infant distress. Infancy. 2016;21(3):373-391.
  8. Cirelli LK, Trehub SE. Familiar songs reduce infant distress. Dev Psychol. 2020;56(5):861-868.
  9. Fancourt D, Perkins R. Effect of singing interventions on symptoms of postnatal depression: three-arm randomised controlled trial. Br J Psychiatry. 2018;212(2):119-121.
  10. 文部科学省「令和5年度 子供の学習費調査」.
  11. ベネッセ教育総合研究所「学校外教育活動に関する調査2017」.
  12. Barker JE, et al. Less-structured time in children’s daily lives predicts self-directed executive functioning. Front Psychol. 2014;5:593.
  13. Brenner JS; American Academy of Pediatrics. Sports specialization and intensive training in young athletes. Pediatrics. 2016;138(3):e20162148.
  14. Brenner JS, Watson A; American Academy of Pediatrics. Overuse injuries, overtraining, and burnout in young athletes. Pediatrics. 2024;153(2):e2023065129.
  15. Miyazaki K, et al. Prevalence of absolute pitch: a comparison between Japanese and Polish music students. J Acoust Soc Am. 2012;132(5):3484-3493.
  16. 公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン「子どもの『体験格差』実態調査 最終報告書」2023年.

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