健康な体作り

【毎日コラム】AMHは、何を教えてくれる検査か —— 妊活の数字を正しく受け取るために

妊活を始めると、急に数字が増えます。AMH、AMHの基準値、年齢別の妊娠率、採卵数、受精率。ひとつひとつが重く感じられて、検査結果の紙を何度も見返してしまう——そういう時期があります。

この記事は、その数字たちを正しい大きさで受け取るために書きました。とくにAMHについては、多くの方が実際より重く受け取っておられます。そこを研究で確かめていきます。

(代表の粕谷自身のAMH検査の記録も、こちらの記事で公開しています。)


1|まず、ひとりではありません

国立社会保障・人口問題研究所の「第16回出生動向基本調査」(2021年、妻55歳未満の夫婦6,834組)によると——

  • 不妊を心配したことがある(または現在心配している)夫婦:39.2%(前回35.0%から増加)
  • 実際に検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦:22.7%(前回18.2%)

前回調査の「5.5組に1組」から、今回は4.4組に1組になりました。(国立社会保障・人口問題研究所, 2021

日本産科婦人科学会の集計では、2023年の生殖補助医療(ART)の治療周期は561,664周期、出生児は82,250人。2021年の498,140周期から2年で6万周期以上増えています(2022年4月の保険適用開始をはさんだ期間です)。(日本産科婦人科学会「2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績」

厚生労働省の資料では、令和3年度のART出生児69,797人が総出生811,622人の8.6%にあたると示されています。(厚生労働省 中央社会保険医療協議会 資料, 令和5年11月17日クラスに1〜2人という規模です。

2|AMHは「何の検査」なのか

ここが本題です。

AMH(抗ミュラー管ホルモン)は「卵巣年齢」と呼ばれることがあり、低い数値を見て「自分はもう妊娠しにくいのか」と受け取ってしまう方が本当に多いのですが——研究が支持しているAMHの用途は、そこではありません

AMHが予測できること(採卵数、刺激への反応性、薬の量の調整)と、予測しないこと(卵子の質、自然妊娠できるか、閉経の時期)の対比。
米国生殖医学会と日本生殖医学会のガイドラインは、いずれもAMHの用途を「卵巣刺激への反応性の予測」に限定しています。

米国生殖医学会(ASRM)の委員会意見は、こう明記しています。

  • 「卵巣予備能の指標は、妊孕性が未検証の女性における現在の生殖能力を予測しない
  • 「卵巣予備能検査の結果は、不妊女性が自然に妊娠する可能性の予測には有用でない
  • 「卵巣予備能の指標は、不妊でない女性や妊孕性が未検証の女性に対する妊娠しやすさの検査として使うべきではない
  • 卵子の質について:「AMHを卵子の質や臨床妊娠率・生児獲得率の予後指標として検討した研究は一致していない

ASRM Practice Committee, Fertility and Sterility, 2020;114:1151-1157

日本生殖医学会の『生殖医療ガイドライン』も同じ枠組みです。CQ6で「卵巣刺激時の卵巣の高反応または低反応の予測には胞状卵胞数とAMH測定が有効である」(推奨レベルA)とされており、卵子の質や自然妊娠の可能性を予測するという記載はありません。(日本生殖医学会

実際のデータ:AMHが低い人の自然妊娠率

30〜44歳で妊娠を試みている女性750人を追跡した研究があります。AMH低値(0.7 ng/mL未満)群と正常群を比べた結果は——

  • 6周期までの累積妊娠確率:AMH低値65% vs 正常62%
  • 12周期までの累積妊娠確率:AMH低値84% vs 正常75%
  • 調整後の妊娠しやすさ(fecundability ratio):1.19(95%信頼区間0.88〜1.61)=有意差なし

著者らの結論は明快です。「卵巣予備能の低下を示す指標は、妊孕性の低下と関連していなかった。これらの知見は、女性の自然な妊孕性を評価するためにAMHやFSHの検査を用いることを支持しない」。(Steiner AZ ら, JAMA, 2017;318(14):1367-1376

さらに11研究・4,388人をまとめたメタ分析では、AMHによる自然妊娠の予測能はAUC 0.59——ほぼ偶然に近い水準でした。(Lin C ら, Frontiers in Endocrinology, 2021;12:695157

AMHが低いと分かったことで落ち込む必要は、少なくとも「自然に妊娠できるか」という問いについては、ありません。AMHは、治療に入るときに薬の量を決めるための、とても有用な検査です。そこに使ってください。

3|年齢の数字は、分母に注意して読む

年齢のデータはしばしば混同されて伝わります。同じ「40歳」でも、分母が違えば数字が2倍以上変わるからです。2023年のARTデータブックから、代表的な年齢を並べます。

妻の年齢 妊娠率(胚移植あたり) 生産率(治療周期あたり) 流産率(妊娠あたり)
30歳 51.1% 23.2% 18.1%
35歳 46.1% 20.5% 22.0%
40歳 33.3% 10.6% 35.6%
43歳 20.0% 4.4% 48.5%

日本産科婦人科学会「2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績」

厚生労働省の資料は、これを平易にこう言い換えています。「40歳では3回に1回以上、43歳では2回に1回以上が流産となる」「39歳には10回に1回、43歳には50回に1回の生産分娩率」。(厚生労働省 中医協 資料, 2023

厳しい数字です。ただここで大事なのは、年齢は変えられないということ。変えられないものに時間を使うより、変えられるものに手をかけたほうが合理的です。次の章がそこです。

4|生活習慣で、変えられること

体重——「やせ」も同じくらいリスクです

両親のBMIを同時に追跡した大規模コホート研究の結果です。

  • 女性・過体重:1か月あたりの妊娠しやすさ 0.88倍/女性・肥満:0.72倍
  • 女性・低体重:低妊孕(12か月超かかる/ART使用)のオッズ比1.88(95%信頼区間1.22〜2.88)
  • 女性・肥満:低妊孕のオッズ比1.67/男性・肥満:1.69

Boxem AJ ら, JAMA Network Open, 2024;7(9):e2436157

やせているほうが妊娠しやすい、ということはありません。低体重のオッズ比1.88は、肥満の1.67より大きい数字です。

一方で、正直にお伝えしておきたいことがあります。減量介入の効果を調べた研究では、排卵率や妊娠率は改善するものの、生児獲得率については有意差が出ていません(相対リスク1.54、95%信頼区間0.93〜2.56)。ランダム化比較試験8件のメタ分析では、生児獲得に影響せず、流産リスクはむしろ上昇する可能性が示されました。(ASRM Practice Committee, 2021

「痩せれば妊娠する」とは言えない。極端な減量に走る必要はありません。

喫煙——ここは効果がはっきりしています

  • 女性の不妊:オッズ比1.60(95%信頼区間1.34〜1.91)
  • 体外受精1周期あたりの生児獲得:オッズ比0.59。喫煙者は非喫煙者のほぼ2倍の周期数を要する
  • 排卵誘発の研究では、夫婦ともに喫煙で生児獲得オッズが80%低下
  • 男性:精子濃度が平均22%低下(用量依存)
  • 閉経が1〜4年早まる。現在喫煙者のAMHは非喫煙者より44%低く、年間の低下速度が21%速い
  • 受動喫煙でも臨床妊娠率は能動喫煙者と同程度に低下

ASRM Practice Committee, 2024

やめることの効果が、これだけ数字で出ている習慣は他にありません。パートナーと一緒に、が鍵です。

お酒・コーヒー——「妊娠前」と「妊娠後」で話が違います

飲酒について、ASRMは女性の1日2杯で不妊リスクが相対リスク1.59に上がるとし、「1日2杯を超える飲酒は避けるのが最善」としています。1日1杯未満ではリスク低下でした。男性では40研究・23,258人のメタ分析で、週7単位未満なら精液所見に変化なし、週7単位を超えると有害という結果です。(ASRM, 2022Nguyen-Thanh T ら, Heliyon, 2023

カフェインは、区別が重要です。47研究の用量反応メタ分析によると、妊娠しやすさとは関連しませんでした(1日400mgでオッズ比1.09、有意差なし)。一方で妊娠後の自然流産とは用量依存的に関連していました(1日300mgで相対リスク1.37、600mgで2.32)。(Clinical Epidemiology, 2017;9:699-719

つまり妊活中のコーヒーを我慢する強い根拠はなく、妊娠がわかったら控える意味がある——という順番です。

運動——「中強度まで」がポイント

ここは意外に思われるかもしれません。前向きコホート研究のメタ分析では、高強度の身体活動は妊孕性と負の関連(オッズ比0.84)、中強度では有意な関連なし(1.09)でした。(Wang B ら, Frontiers in Public Health, 2022

45歳未満の女性3,887人を追跡したノルウェーの研究(HUNT)では、ほぼ毎日運動する群は運動しない群に対して不妊のオッズが3.2倍「疲労困憊まで運動する」群は低強度群に対して2.3倍でした。ただし著者は「リスク上昇が認められたのは、強度と頻度が最も高い少数の群のみ」と注記しています。(Gudmundsdottir SL ら, Human Reproduction, 2009;24(12):3196-3204

妊活のために運動を始めるなら、追い込まないこと。これが研究の示す線です。

5|男性側のことも、半分の話です

WHOの標準マニュアルに収載された多施設調査(不妊カップル7,273組)の内訳は次の通りです。

  • 女性因子のみ:41%
  • 男性因子のみ:24%
  • 男女双方:24%

つまり男性因子が関わっているのは約48%——ほぼ半分です。(日本泌尿器科学会『男性不妊症診療ガイドライン 2024年版』

それにもかかわらず、日本で男性不妊治療を実施している施設は調査対象の35.7%にとどまります。(厚生労働省「不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書」2021年3月

検査が女性の側から始まることが多いために、「自分の問題」として抱えてしまう女性がとても多い。この数字は、その荷物を半分に戻すためのものだと思っています。

6|つらさは、データに表れています

40研究・16,042人をまとめた解析によると、生殖補助医療を受けている人の心理状態は——

  • 女性:不安48.0%、抑うつ35.6%
  • 男性:不安28.4%、抑うつ18.6%

Gu X ら, Journal of Assisted Reproduction and Genetics, 2025;42:2805-2816

女性のおよそ半数が不安を、3人に1人が抑うつを抱えている。これは弱さではなく、この治療の性質です。

そして治療の中断理由を22研究・21,453人で調べた研究では、心理的負担が14%、身体的負担を合わせると約19%を占めていました。(Gameiro S ら, Human Reproduction Update, 2012;18(6):652-669

日本のデータでは、不妊治療経験者265人のうち「両立できず仕事を辞めた」16%、「両立できず不妊治療をやめた」11%。女性に限ると離職は23%でした。(厚生労働省「不妊治療と仕事の両立について」

希望のある知見もあります。58件のランダム化比較試験のメタ分析では、心理的介入によって心理状態が改善し(Hedges’ g = 0.82)、妊娠率も上がっていました(相対リスク1.25、95%信頼区間1.07〜1.47)。(Dube L ら, Human Reproduction Update, 2023;29(1):71-94

気持ちのケアは、気持ちのためだけではないということです。

7|今日から持ち帰っていただきたい5つ

  1. AMHの数値で落ち込まない。AMHは採卵数を予測する検査で、自然妊娠の可能性を予測する検査ではありません
  2. 年齢の数字は分母を確認する。「妊娠率」と「生産率」は別物です
  3. やせも肥満もリスク。ただし極端な減量に走らない
  4. 禁煙は、夫婦そろって。効果が最もはっきりしている介入です
  5. 運動は中強度まで。追い込むと逆方向に働きます

8|保健室でしていること

妊活の期間は、体が「検査の対象」になり続ける時間でもあります。数値を見て、結果を待って、また次の周期。そのなかで自分の体の感覚が置き去りになっていく——その状態を、私たちはよく目にします。

保健室でできるのは、医療の代わりではありません。体を整えて、動ける状態にしておくことです。骨盤まわりの血流、股関節の可動性、骨盤底筋の使い方、そして睡眠と自律神経のこと。横浜のみなみレディースクリニックでは産婦人科医と連携し、妊娠中から80代まで幅広い世代の女性特有の悩みに対応しています。

そして何より——話せる場所があることに意味があります。不安48%、抑うつ35.6%という数字は、多くの人が誰にも言えないまま抱えていることの裏返しです。「治療の話を、治療以外の人に聞いてもらう」時間を、必要なときに使ってください。


ご相談・ご予約

女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

女性とこどもの保健室の3つの拠点。流山本院(託児付き)、勝どき出張院(完全予約制プライベートサロン)、横浜みなみレディースクリニック(産婦人科医連携)

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。


 

 


本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。

 


参考文献・出典

  1. 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査 結果の概要」2021. PDF
  2. 日本産科婦人科学会「2023年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績」PDF
  3. 厚生労働省 中央社会保険医療協議会「個別事項(その4)不妊治療」令和5年11月17日. PDF
  4. ASRM Practice Committee「Testing and interpreting measures of ovarian reserve: a committee opinion」Fertility and Sterility. 2020;114:1151-1157. 全文
  5. 日本生殖医学会『生殖医療ガイドライン』CQ6. 学会ページ
  6. Steiner AZ ら「Association Between Biomarkers of Ovarian Reserve and Infertility Among Older Women of Reproductive Age」JAMA. 2017;318(14):1367-1376. PubMed
  7. Lin C ら「The Value of Anti-Müllerian Hormone in the Prediction of Spontaneous Pregnancy」Frontiers in Endocrinology. 2021;12:695157. 論文
  8. Boxem AJ ら「Preconception and Early-Pregnancy Body Mass Index in Women and Men, Time to Pregnancy, and Risk of Miscarriage」JAMA Network Open. 2024;7(9):e2436157. 論文
  9. ASRM Practice Committee「Obesity and reproduction: a committee opinion」2021. 全文
  10. ASRM Practice Committee「Tobacco or marijuana use and infertility: a committee opinion」2024. 全文
  11. ASRM Practice Committee「Optimizing natural fertility: a committee opinion」Fertility and Sterility. 2022;117:53-63. 全文
  12. Nguyen-Thanh T ら「Investigating the association between alcohol intake and male reproductive function」Heliyon. 2023;9(5):e15723. 論文
  13. 「Association between coffee or caffeine consumption and fecundity and fertility outcomes」Clinical Epidemiology. 2017;9:699-719. 論文
  14. Wang B ら「Effects of physical activity and sleep duration on fertility」Frontiers in Public Health. 2022;10:1029469. 論文
  15. Gudmundsdottir SL ら「Physical activity and fertility in women: the North-Trøndelag Health Study」Human Reproduction. 2009;24(12):3196-3204. 論文
  16. 日本泌尿器科学会『男性不妊症診療ガイドライン 2024年版』PDF
  17. 厚生労働省「不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書」2021年3月. PDF
  18. Gu X ら「Prevalence of psychological problems among individuals and couples during ART treatment」Journal of Assisted Reproduction and Genetics. 2025;42:2805-2816. 論文
  19. Gameiro S ら「Why do patients discontinue fertility treatment?」Human Reproduction Update. 2012;18(6):652-669. 論文
  20. Dube L ら「Efficacy of psychological interventions for mental health and pregnancy rates among individuals with infertility」Human Reproduction Update. 2023;29(1):71-94. 論文
  21. 厚生労働省「不妊治療と仕事の両立について」PDF

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