【毎日コラム】不妊の原因の約半分に、男性が関わる。検査のこと、生活でできること

「妊活」という言葉から、多くの人が思い浮かべるのは、女性の姿ではないでしょうか。基礎体温をつけ、病院に通い、検査を受け、薬を使う。そのあいだ、パートナーの検査は後回しになっている。そんなお話を、保健室でもよく伺います。
けれども、不妊の原因のおよそ半分には、男性側の要因が関わっています。今日は、男性不妊について、検査、生活習慣、治療の現在地を整理します。男性の方にも、ぜひ読んでいただきたい内容です。
1|不妊は、ふたりのこと
国立社会保障・人口問題研究所の調査(2021年)によると、不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は22.7%、およそ4.4組に1組です。不妊を心配したことがある夫婦は39.2%にのぼります。

こども家庭庁は、世界保健機関(WHO)の調査として、不妊の原因が男性のみにある場合が24%、男女ともにある場合が24%と紹介しています。合わせて48%。約半数で、男性側にも原因があることになります。
それにもかかわらず、検査や通院の負担は、女性に偏りがちです。厚生労働省の補助事業で行われた当事者調査(2020年)では、パートナーが精液検査などを「進んで受けていた」と答えた人は49.0%でした。裏を返せば、半数は「進んで」ではなかった、ということです。
女性の検査には、月経周期に合わせた何度もの通院や、痛みをともなうものがあります。それに比べて、男性の基本的な検査である精液検査は、体への負担がほとんどありません。原因の半分に関わる検査を、最初に、ふたり同時に受ける。それが、遠回りをしないための出発点です。
2|男性不妊の中身
日本で、男性不妊を専門とする泌尿器科医が診た約7,300人の患者さんを調べた全国調査があります。
- 精子をつくるはたらきに問題がある(造精機能障害):約8割。そのうち原因の分からないものが42.1%、精索静脈瘤によるものが30.2%
- 性機能の問題(勃起や射精の障害):13.5%
- 精子の通り道がふさがっている:3.9%
精索静脈瘤は、精巣のまわりの静脈がこぶのようにふくらむ状態で、精巣の温度が上がるなどして、精子をつくるはたらきに影響します。治療できる原因として、重要なものです。
3|精液検査で分かること、分からないこと
精液検査では、精液の量、精子の濃度、動いている精子の割合、形などを調べます。WHOのマニュアル(第6版、2021年)が示す下限の基準値は、次のとおりです。
- 精液量:1.4mL
- 精子濃度:1mLあたり1,600万
- 動いている精子の割合(総運動率):42%
- 前に進んでいる精子の割合(前進運動率):30%
- 正常な形の精子の割合:4%
ここで、2つの大事なことをお伝えします。
基準値は、境界線ではありません。この数字は、「パートナーが1年以内に妊娠した男性のうち、下から5%にあたる値」です。基準値を下回っていても自然に妊娠することはありますし、上回っていても妊娠しにくいことはあります。「これ以下なら不妊」「これ以上なら安心」という線ではありません。
結果は、日によって大きく変わります。同じ人の精子の数を何度も測った研究では、ばらつきが非常に大きく、信頼できる評価には少なくとも3回の検査が必要とされました。体調、発熱、睡眠、禁欲期間などで変動します。こども家庭庁も、複数回の検査を勧めています。1回の結果で、落ち込みすぎることも、安心しすぎることもありません。
日本の若い男性1,559人を調べた研究では、精子濃度の中央値は1mLあたり5,900万で、1,500万未満の人は9%でした。
4|「精子は減っている」という話について
「男性の精子の数は、この50年で半分になった」というニュースを見たことがある方もいるでしょう。
これは、過去の研究を集めて分析した論文(Levine ら、2017年・2023年)にもとづいています。1973年から2018年のあいだに、精子濃度が51.6%低下した、という推計です。
ただし、この分析には学術的な批判もあります。精子の数は、病気ではない範囲でも大きく変動するものであり、平均値の低下が、そのまま妊娠する力の低下を意味するとは限らない、という指摘です。日本人の精子が年々減っていることを示すデータも、確認できていません。
不安をあおる情報に振り回されるより、ご自分の状態を、検査で確かめることのほうが確実です。

5|生活習慣:何に、どのくらい根拠があるか
男性の妊活については、たくさんの情報が出回っています。根拠の強さで分けてみます。
根拠が比較的しっかりしているもの
- たばこ:20の研究・約5,900人をまとめた分析で、喫煙者は精子の濃度、運動率、正常な形の割合がいずれも低くなっていました。吸う本数が多いほど、影響は大きくなります
- 肥満:精子が少ない、またはいない状態は、肥満で1.28倍、高度の肥満で2.04倍多くなっていました
日本泌尿器科学会の男性不妊症診療ガイドライン(2024年版)も、喫煙と肥満は不妊のリスク因子であり、改善が勧められる、としています。
関連は報告されているが、根拠は限られるもの
- お酒:毎日飲む人では精液の量や形の正常な精子の割合が低下していましたが、適度な飲酒では悪影響は示されていません
- 精巣を温めること:サウナに週2回・3か月入った男性10人で、精子の数と運動率が下がり、やめて6か月後に回復した、という研究があります。ひざの上でノートパソコンを1時間使うと、陰嚢の温度が約2.7度上がったという実験もあります(精液は調べていません)
- 下着:不妊外来を受診した男性656人の調査で、主にトランクス型をはく人は、精子濃度が25%高い結果でした
- 自転車:週5時間以上乗る人は、精子濃度が低い割合が約2倍でした
- 睡眠:睡眠の乱れが強い人で精子濃度が低い、7〜7.5時間でもっとも良い、という報告があります
- 運動:適度な運動は精液の状態に良い可能性があり、競技レベルの激しい運動は逆の可能性がある、とされています
これらは、少人数の研究や、ある時点での比較が中心です。「ノートパソコンをひざに置くと不妊になる」「ボクサーパンツはだめ」と言い切れるものではありません。「長時間のサウナや長風呂など、精巣を温めすぎることは避けておく」くらいの受けとめ方が妥当です。
禁欲期間:「ためたほうがよい」と思われがちですが、禁欲期間が長いほど精液の量と精子の数は増える一方で、精子の運動率やDNAの状態は、短いほうが良い傾向があります。系統的レビューは、理想の日数は結論できない、としています。長く空けすぎないほうがよさそうだ、とは言えます。
6|サプリメントは効くのか
男性向けの妊活サプリメントは、数多く売られています。亜鉛、葉酸、コエンザイムQ10、ビタミンCやEなどの抗酸化成分をふくむものが中心です。
研究の結論は、期待どおりではありません。
- コクランレビュー(2022年、90研究):抗酸化剤で出産に至る割合が上がる可能性は示されたものの、根拠の確かさは「非常に低い」。質の低い研究を除くと、差はなくなりました
- 米国の大規模試験(FAZST、2,370人):葉酸と亜鉛を飲んだ群と偽薬の群で、出産に至った割合は34%と35%。精液の状態も改善しませんでした
- 米国の別の試験(MOXI):抗酸化剤を飲んでも、精液の状態は改善しませんでした
日本のガイドラインも、抗酸化剤については「十分な根拠はない」としています。サプリメントに月々お金をかける前に、禁煙と検査を。そのほうが、確かな一歩です。
7|年齢のこと
妊娠と年齢の話は、女性についてばかり語られますが、男性の年齢も関係します。
- 男性が45歳を超えると、妊娠までに1年以上かかる可能性が、25歳未満の4.6倍
- 流産は、男性が25〜29歳の場合に比べて、40〜44歳で1.23倍、45歳以上で1.43倍
- 精子に生じる新しい遺伝子の変化は、父親の年齢が1歳上がるごとに約2個増える
女性の年齢の影響に比べれば小さく、また「何倍」という数字は、もとの確率が低ければ、実際の増加もわずかです。過度に心配する必要はありません。ただ、「男性はいくつになっても大丈夫」というわけではない、ということは知っておいてよいと思います。

8|治療と、保険のこと
男性不妊には、治療の選択肢があります。
- 精索静脈瘤の手術:コクランレビュー(2021年)では、治療によって妊娠率が上がる可能性が示されています(根拠の確かさは低い)。日本のガイドラインは、触って分かる程度の精索静脈瘤があり、精液の状態が良くない場合に、手術を勧めています
- 精巣から精子を採取する手術:精液の中に精子が見つからない無精子症でも、顕微鏡を使って精巣の中から精子を探す方法(micro-TESE)があります。精子が見つかる割合は、研究によって34〜47%と幅があります
- 性機能の問題への治療:勃起や射精の問題に対する薬物療法など
2022年4月から、不妊治療への保険適用が広がりました。人工授精、体外受精、顕微授精に加えて、精巣から精子を採取する手術なども保険の対象になっています。体外受精などは、治療を始める時点で女性が43歳未満であることなどの条件があります。
受診先は、男性不妊を扱う泌尿器科、または不妊治療のクリニックです。男性不妊を専門とする泌尿器科医は、全国でも数が限られています(2014〜15年の調査時点で47人)。日本生殖医学会のウェブサイトなどで、専門医を探すことができます。
9|こころのこと
「原因は自分にあるかもしれない」と知ることは、男性にとっても、つらいことです。日本で不妊治療中の男性321人を調べた研究では、男性側に原因があると診断された人は、生活の質が低くなっていました。支えになっていたのは、パートナーからのサポートでした。
男性不妊は、男らしさとも、性的な能力とも、関係のない医学的な状態です。けれども、そう頭で分かっていても、気持ちがついていかないことがあります。検査を先延ばしにしてしまう背景に、その怖さがあることも少なくありません。
パートナーの方へ。「どうして受けてくれないの」と責めたくなる気持ちは、当然です。一方で、「一緒に受けよう」「結果がどうでも、ふたりで考えよう」という言葉のほうが、扉を開けやすいかもしれません。
10|保健室でお手伝いできること
女性とこどもの保健室は、不妊の検査や治療を行う施設ではありません。また、理学療法や運動で精子の状態が良くなる、という確かな根拠もありません。そこは、はっきりお伝えしておきます。
そのうえで、私たちがお手伝いできるのは、次のようなことです。
- 妊活中の女性の、体と気持ちのご相談。通院の疲れ、体のこわばり、冷え、眠りのこと
- 「パートナーにどう切り出せばいいか」というお話を伺うこと
- 男性もふくめた、体重管理や運動習慣づくりのご相談
- 受診先の探し方のご案内
以前のコラムで、女性側の検査であるAMHについてお伝えしました。今日の内容とあわせて、ふたりで読んでいただけたら幸いです。
11|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 不妊の原因の約半数に、男性側の要因が関わっています。検査は、ふたり同時に。
- 精液検査の基準値は、妊娠できる・できないの境界線ではありません。結果は日によって変わるため、複数回調べます。
- 生活習慣で根拠がしっかりしているのは、禁煙と、肥満の改善です。
- サプリメントは、大規模な試験で効果が確かめられていません。
- 精索静脈瘤の手術など、男性側にも治療があります。受診先は、泌尿器科の男性不妊外来や不妊治療クリニックです。
妊活は、ひとりでするものではありません。最初の検査を、ふたりで。
関連するメニューとコラム
千葉県流山市(流山セントラルパーク駅 徒歩1分)の「女性とこどもの保健室」は、理学療法士が担当する、託児つきの女性専門治療院です。このコラムの内容に関連するメニューをご紹介します。
- 日曜限定 男性理学療法士による整体:男性の方もご利用いただける、国家資格をもつ男性理学療法士による整体。
- パーソナルトレーニング:理学療法士が、姿勢の改善・運動不足の解消・筋力づくりを、目的に合わせてサポートします。
メニュー・クーポンの一覧を見る(ホットペッパービューティー)
あわせて読みたいコラム
- AMHは、何を教えてくれる検査か —— 妊活の数字を正しく受け取るために
- 健診で「異常なし」の人が4割 —— 働く男性の体に、いま起きていること
- 父親が関われないのは、時間の話 —— データで見る父親とこどもの関わり
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査 結果の概要」2021年調査.
- こども家庭庁「不妊症・不育症」ウェブサイト(男性不妊について/保険適用について).
- 令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業「不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書」2021年3月.
- Yumura Y, et al. Nationwide survey of urological specialists regarding male infertility: results from a 2015 questionnaire in Japan. Reprod Med Biol. 2018;17(1):44-51.
- 日本泌尿器科学会 編『男性不妊症診療ガイドライン 2024年版』.
- Campbell MJ, et al. Distribution of semen examination results 2020 – a follow up of data collated for the WHO semen analysis manual 2010. Andrology. 2021;9(3):817-822.
- Keel BA. Within- and between-subject variation in semen parameters in infertile men and normal semen donors. Fertil Steril. 2006;85(1):128-134.
- Iwamoto T, et al. Semen quality of 1559 young men from four cities in Japan: a cross-sectional population-based study. BMJ Open. 2013;3(4):e002222.
- Levine H, et al. Hum Reprod Update. 2017;23(6):646-659/2023;29(2):157-176.
- Boulicault M, et al. The future of sperm: a biovariability framework for understanding global sperm count trends. Hum Fertil. 2022;25(5):888-902.
- Sharma R, et al. Cigarette smoking and semen quality: a new meta-analysis examining the effect of the 2010 World Health Organization laboratory methods for the examination of human semen. Eur Urol. 2016;70(4):635-645.
- Sermondade N, et al. BMI in relation to sperm count: an updated systematic review and collaborative meta-analysis. Hum Reprod Update. 2013;19(3):221-231.
- Ricci E, et al. Reprod Biomed Online. 2017;34(1):38-47/Garolla A, et al. Hum Reprod. 2013;28(4):877-885/Sheynkin Y, et al. Hum Reprod. 2005;20(2):452-455.
- Mínguez-Alarcón L, et al. Hum Reprod. 2018;33(9):1749-1756/Wise LA, et al. Fertil Steril. 2011;95(3):1025-1030/Ibañez-Perez J, et al. Arch Gynecol Obstet. 2019;299(4):901-921.
- Jensen TK, et al. Am J Epidemiol. 2013;177(10):1027-1037/Chen Q, et al. Sleep. 2016;39(1):79-86/Hanson BM, et al. J Assist Reprod Genet. 2018;35(2):213-220.
- de Ligny W, et al. Antioxidants for male subfertility. Cochrane Database Syst Rev. 2022;5:CD007411.
- Schisterman EF, et al. Effect of folic acid and zinc supplementation in men on semen quality and live birth among couples undergoing infertility treatment: a randomized clinical trial. JAMA. 2020;323(1):35-48.
- Steiner AZ, et al. The effect of antioxidants on male factor infertility: the Males, Antioxidants, and Infertility (MOXI) randomized clinical trial. Fertil Steril. 2020;113(3):552-560.
- Hassan MA, Killick SR. Fertil Steril. 2003;79 Suppl 3:1520-1527/du Fossé NA, et al. Hum Reprod Update. 2020;26(5):650-669/Kong A, et al. Nature. 2012;488(7412):471-475.
- Persad E, et al. Surgical or radiological treatment for varicoceles in subfertile men. Cochrane Database Syst Rev. 2021;4:CD000479.
- Corona G, et al. Hum Reprod Update. 2019;25(6):733-757.
- Asazawa K, et al. Jpn J Nurs Sci. 2019;16(3):329-341.

