子育て

【毎日コラム】「卵は遅らせる」は、もう古い。離乳食と食物アレルギー、この10年で変わった常識

「卵は1歳を過ぎてから」「アレルギーが心配だから、はじめは遅めに」。お母さん、お父さんの世代が赤ちゃんだったころは、そう教わるのが普通でした。祖父母の方から、いまもそう勧められることがあるかもしれません。

ところがこの10年ほどで、食物アレルギーの予防についての考え方は、大きく変わりました。いまの指針は、「遅らせても予防にはならない」です。

今日は、離乳食と食物アレルギーについて、何がどう変わったのか、そして家庭で気をつけたいことを整理します。先にお伝えしておくと、「早く食べさせれば防げる」という単純な話でもありません。

1|こどもの食物アレルギーは、どのくらい多いか

食物アレルギーがあるこどもの割合は、乳児で7.6〜10%、2歳で6.7%、3歳で約5%とされています(食物アレルギーの診療の手引き2023)。年齢とともに、食べられるようになる子が多いことが分かります。

即時型食物アレルギーの原因食物。鶏卵26.7%、木の実類24.6%、牛乳13.4%、小麦8.1%。0歳では鶏卵60.6%、牛乳21.4%、小麦13.6%

消費者庁の全国調査(2023年調査、6,033例)では、原因となった食べものは、鶏卵26.7%、木の実類24.6%、牛乳13.4%、小麦8.1%の順でした。木の実類が牛乳を抜いて2位になり、なかでもくるみは15.2%と、前回調査(7.6%)の約2倍に増えています。

ただし、0歳に限れば、鶏卵60.6%、牛乳21.4%、小麦13.6%。この3つで95.6%を占めます。離乳食の時期に気をつけたいのは、やはり卵・牛乳・小麦です。

2|「遅らせる」から「遅らせない」へ

考え方を変えたのは、いくつかの比較試験でした。

ピーナッツの試験(LEAP、英国、2015年):アレルギーになるリスクが高い乳児640人を、ピーナッツを食べさせる群と避ける群に分けて、5歳まで追跡しました。皮膚テストが陰性だった子では、ピーナッツアレルギーになったのは、避けた群で13.7%、食べた群で1.9%。陽性だった子でも、35.3%に対して10.6%でした。「避けたほうが、かえってアレルギーが多かった」のです。

卵の試験(PETIT、日本、2017年):国立成育医療研究センターで行われた試験です。湿疹(アトピー性皮膚炎)のある乳児に、湿疹をしっかり治療しながら、生後6か月から加熱した卵の粉末をごく少量ずつ食べさせました。1歳の時点で卵アレルギーだった子は、卵を食べた群で8%、食べなかった群で38%でした。

これらを受けて、日本の指針も変わりました。

  • 厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」(2019年改定):離乳食の開始は生後5〜6か月ごろが適当。開始を遅らせたり、特定の食べものを避けたりしても、アレルギーを予防できるという科学的根拠はない
  • 日本小児アレルギー学会の提言(2017年)と診療ガイドライン:離乳食の開始を遅らせることは勧められない

卵は、固ゆでの卵黄から少量ずつ始めて、慣れてきたら全卵へ進めます。

3|ただし、「早ければ早いほどよい」ではない

ここで、誤解のないようにお伝えしたいことがあります。

英国で、一般の母乳栄養の乳児1,303人に、生後3か月から6種類の食べものを食べさせた試験(EAT)があります。結果は、全体で見ると、早く始めた群とふつうに始めた群で、食物アレルギーの頻度に統計的な差はありませんでした(5.6%と7.1%)。きちんと食べ続けられた子だけを比べると差が出ましたが、研究者自身が、早期に食べさせることは「簡単ではなかった」と書いています。

日本のPETIT試験も、湿疹の治療と組み合わせて、医師の管理のもと、ごく少量の加熱卵を使ったものです。「生卵を早くから」「たくさん」という話ではありません。

日本小児アレルギー学会の提言は、次の点をはっきり述べています。

  • すでに卵アレルギーが疑われる子に、家庭で安易に食べさせるのは、きわめて危険
  • 湿疹のある赤ちゃんは、まず皮膚を治療し、医師の管理のもとで進める
  • 湿疹のない赤ちゃんは、ふつうどおり離乳食を進めればよい

まとめると、いまの考え方は「早めよう」ではなく、「わざわざ遅らせない」です。生後5〜6か月ごろに離乳食を始め、卵も小麦も乳製品も、時期が来たら避けずに進めていく。それが基本です。

4|皮膚から始まるアレルギー

なぜ、食べることが予防につながるのでしょうか。

現在有力な考え方は、こうです。湿疹などで荒れた皮膚から食べものの成分が入ると、体はそれを「敵」として覚えてしまう。一方、口から食べて腸を通ると、体はそれを「受け入れてよいもの」として覚える。皮膚と口という、2つの入り口の違いに注目した考え方です。アトピー性皮膚炎のある子は、食べものへの感作(体が反応する準備ができた状態)が約6倍多いことも分かっています。

ですから、赤ちゃんの湿疹を放っておかないことが大切です。乳児湿疹が長引く、かゆがる、じくじくする場合は、小児科や皮膚科で治療を受けてください。

では、生まれたときから保湿剤を塗っておけば、アレルギーを予防できるのでしょうか。残念ながら、ここは期待どおりの結果が出ていません。英国の試験(BEEP、約1,400人)でも、北欧の試験(PreventADALL)でも、保湿剤を毎日塗った群で、湿疹も食物アレルギーも減りませんでした。コクランレビュー(2022年)も、スキンケアによる予防は「おそらく効果がない」と結論しています。

保湿は、乾燥した肌を守るために大切なケアです。けれども、「保湿をさぼったからアレルギーになった」と、ご自分を責める必要はありません。

卵

5|お母さんの食事制限は、いらない

「妊娠中や授乳中に、卵や牛乳を控えたほうがいい?」というご質問もよくいただきます。

日本のガイドラインは、妊娠中・授乳中のお母さんが予防のために特定の食べものを除去することは、効果が否定されているうえに、お母さんの栄養にとって有害であり、勧められない、としています。厚生労働省の支援ガイドも同じ立場です。

バランスよく、ふつうに食べてください。

6|牛乳アレルギーとミルク

沖縄で行われた試験(SPADE、2021年)では、生後1〜2か月のあいだ、普通のミルクを毎日10mL以上飲み続けた赤ちゃんは、6か月時点の牛乳アレルギーが0.8%、ミルクを避けた赤ちゃんは6.8%でした。どちらの群も、約7割が母乳を続けていました。

ただしこれは、ひとつの地域で行われたひとつの試験で、ガイドラインも「こうした報告がある」という紹介にとどめています。「母乳だけではいけない」という意味ではありません。混合栄養で育てている方が、「ミルクを足すとアレルギーになるのでは」と心配する必要はない、と受け取っていただくのがよいと思います。

7|初めての食べものを試すとき

食物アレルギーの栄養食事指導の手引きは、初めての食べものを与えるときの目安として、次のことを挙げています。

  • 赤ちゃんの体調がよいときに
  • 新鮮な食材を、十分に加熱して
  • 少量から
  • 平日の昼間に(何かあったとき、受診しやすいため)

これらは比較試験で確かめられたものではなく、実務上の助言です。それでも、理にかなっています。新しい食べものは1日1種類にしておくと、症状が出たときに原因が分かりやすくなります。

赤ちゃんに離乳食を食べさせるイラスト

8|ナッツ類は、アレルギーより先に「窒息」に注意

木の実類のアレルギーが増えていることから、「ナッツも早めに食べさせたほうがいいの?」と思われるかもしれません。

ここで優先すべきは、窒息と誤嚥の予防です。消費者庁は、硬い豆やナッツ類は5歳以下のこどもには食べさせないよう呼びかけています。小さく砕いたものでも、気管に入ると肺炎などを起こす危険があります。6年間に食品による窒息で亡くなった14歳以下のこどもは80人、うち73人が5歳以下でした。

ピーナッツやナッツを乳幼児期にどう食べさせるかについて、日本の公的な指針に具体的な推奨はありません。ご心配な方、ご家族にナッツアレルギーのある方は、小児科・アレルギー科でご相談ください。

9|症状が出たとき

食べたあと(多くは2時間以内)に、口のまわりや体にじんましん、赤み、かゆみが出たら、食べるのをやめて、様子を見ながら小児科を受診してください。写真を撮っておくと、診察の助けになります。

次の症状がひとつでもあれば、迷わず救急車を呼んでください。

  • くり返し吐く、がまんできない腹痛
  • のどや胸がしめつけられる、声がかすれる、犬が吠えるような咳
  • 強い咳き込み、ゼーゼーする、息がしにくい
  • 唇や爪が青白い、脈が触れにくい
  • ぐったりしている、意識がもうろうとしている、尿や便をもらす

そして、症状が出たあとに大切なのは、自己判断で除去を続けないことです。支援ガイドによると、食べものが原因と思われる症状があったこどものうち、11.2%が医療機関を受診していませんでした。自己流の除去は、必要のない食べものまで避けることになり、栄養の偏りにつながります。牛乳を除去している子では、カルシウム不足が多いことも分かっています。「必要最小限の除去」が、いまの原則です。

10|保健室でお手伝いできること

女性とこどもの保健室は、アレルギーの診断や治療を行う施設ではありません。食べさせてよいかどうかの判断は、小児科・アレルギー科で行われるものです。

私たちがお手伝いできるのは、離乳食を「食べる動き」の面から見ることです。

  • おすわりの安定、食べるときの姿勢、椅子と足の位置
  • 口の動き、飲みこみ方、手づかみ食べの発達
  • 「食べない」「丸のみする」「むせる」といったご相談
  • 離乳食づくりや授乳で疲れた、お母さんの体のケア

お子さんの発達と、保護者の方の体の両方を、理学療法士が拝見します。

11|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと

  1. 離乳食の開始は、生後5〜6か月ごろ。遅らせても、アレルギーの予防にはなりません。
  2. 卵も、避けずに進めます。固ゆでの卵黄を少量から。
  3. 湿疹のある赤ちゃんは、まず皮膚の治療を。食べさせ方は医師と相談して進めます。
  4. お母さんの食事制限は、妊娠中も授乳中も必要ありません。
  5. 硬い豆・ナッツ類は、窒息の危険があるため5歳以下には与えません。症状が出たら、自己判断で除去せず受診を。

常識は変わります。祖父母の方とも、ぜひ新しい情報を共有してみてください。


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本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。


参考文献・出典

  1. 厚生労働科学研究班「食物アレルギーの診療の手引き2023」.
  2. 消費者庁「令和6年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書」2024年.
  3. Du Toit G, et al. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med. 2015;372(9):803-813.
  4. Natsume O, et al. Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2017;389(10066):276-286.
  5. Perkin MR, et al. Randomized trial of introduction of allergenic foods in breast-fed infants. N Engl J Med. 2016;374(18):1733-1743.
  6. 厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」(2019年改定版).
  7. 日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」2017年.
  8. 日本小児アレルギー学会『食物アレルギー診療ガイドライン2021』.
  9. Lack G. Epidemiologic risks for food allergy. J Allergy Clin Immunol. 2008;121(6):1331-1336/Tsakok T, et al. J Allergy Clin Immunol. 2016;137(4):1071-1078.
  10. Chalmers JR, et al. Daily emollient during infancy for prevention of eczema: the BEEP randomised controlled trial. Lancet. 2020;395:962-972.
  11. Skjerven HO, et al. Lancet. 2020;395:951-961/Lancet. 2022;399:2398-2411(PreventADALL試験).
  12. Kelleher MM, et al. Skin care interventions in infants for preventing eczema and food allergy. Cochrane Database Syst Rev. 2022;11:CD013534.
  13. Sakihara T, et al. Randomized trial of early infant formula introduction to prevent cow’s milk allergy. J Allergy Clin Immunol. 2021;147(1):224-232.
  14. 厚生労働科学研究班「食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2022」.
  15. 消費者庁「食品による子どもの窒息・誤嚥事故に注意!」2021年1月20日.

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