【毎日コラム】秋分の日に —— 女性の体は、一生のあいだに何度も変わる

今日は秋分の日。昼と夜の長さがほぼ等しくなり、ここから夜のほうが長くなっていきます。季節が切り替わる日です。
女性の体にも、似たような切り替わりの時期がいくつかあります。今回は、これまでのコラムで扱ってきたテーマを、一本の線としてつなぎ直してみたいと思います。
1|年間3.4兆円という数字
経済産業省が2024年2月に公表した試算があります。女性特有の健康課題によって、日本で失われている経済的な価値は、年間およそ3.4兆円。内訳は、更年期症状が1.9兆円、月経随伴症状が0.6兆円、婦人科がんが0.6兆円、不妊治療が0.3兆円です。
この数字を、私は「だから対策しましょう」という文脈ではなく、別の意味で受け取っています。これまで個人の我慢として処理されてきたものが、集計されると3.4兆円になった、ということです。
「みんな我慢していることだから」と言われてきたことの総量が、初めて可視化された。国も2024年10月に国立成育医療研究センター内に「女性の健康総合センター」を開設しました。ようやく、制度の側が動き始めたところです。
2|4つの時期で見ると、つながりが見えます
厚生労働省は、女性の健康をエストロゲンの変動にもとづく4つのライフステージで整理しています。

この図で伝えたいのは、それぞれの時期の課題ではなく、時期をまたいで続いているもののほうです。
3|一本の線でつながっているのは「骨」です
最大骨量(ピークボーンマス)は、20歳前後で決まります。その後の人生で、これを大きく超えることはありません。
思春期にやせや無月経があると、この上限が低いところで固定されます。エストロゲンが出ていない期間は、骨に貯金ができない期間だからです。
そして閉経前後の約3年間に、骨は生涯で最も速く減ります。出発点が低く、減り方が速ければ、行き着く先は決まっています。40歳以上の日本人女性のうち、26.5%が骨粗鬆症に該当します(大腿骨頸部で診断した場合)。
その先にあるのが、前々回のコラムで扱った転倒と骨折です。女性が介護を必要とする原因の約3割が、骨折・転倒と関節疾患でした。
10代の食事と月経が、80代の歩行につながっている。極端に聞こえるかもしれませんが、骨という一つの組織を追いかけると、そういう線が引けてしまいます。
4|「みんなあること」で片づけられてきたもの
月経痛は、約75%の女性が経験します。そして、症状がある人のうち66.7%が医療機関を受診していません。
受診しない理由の多くは「みんなあることだから」「病気ではないと思うから」です。けれど、月経困難症の背景に子宮内膜症がある場合、早く見つかることには意味があります。将来の妊娠のしやすさに関わるからです。
PMS(月経前症候群)は5.3%、より重いPMDD(月経前不快気分障害)は1.2%という日本の調査があります(Takeda ら, 2006)。100人に1人強という数字は、決して珍しい病気ではありません。
更年期についても同じことが起きています。厚生労働省の2022年の意識調査では、50代女性の38.3%が「自分は更年期障害かもしれない」と考えていました。医療につながっている人は、その一部です。
5|仕事と、体の周期
第1子の出産前後で仕事を続けた女性の割合は69.5%まで上がりました(2015-2019年の出生)。かつての4割前後からは大きな変化です。
ただ、続けられるようになったぶん、体の変化を抱えたまま働く期間が長くなりました。月経随伴症状の0.6兆円も、更年期症状の1.9兆円も、その多くは仕事の場で発生しています。
「休むほどではないが、本調子ではない日」が、月に数日ある。それが数十年続く。この構造自体は、制度では解決しきれません。だからこそ、自分の周期を知っておくことの価値が上がっています。
6|検診という「線を切る」手段
日本のがん検診受診率は、子宮頸がんが43.6%、乳がんが47.4%。どちらも半数に届いていません。
ここまで「つながっている」という話をしてきましたが、検診は、その線を意図的に切ることができる数少ない手段です。見つかる前に見つける。それ以上でもそれ以下でもない、はっきりした介入です。
7|どの時期にも、間に合う入り口があります
ここまでの話は、少し重く聞こえるかもしれません。でも、どの時期からでも始められることがあるのも事実です。
- 思春期・20代:骨の上限を上げられる、人生で一度きりの時期。食べることと、月経が来ていること。
- 性成熟期:月経の状態を記録しておく。妊娠を考えるなら、その前から(プレコンセプションケア)。
- 更年期:不調を年齢のせいにしない。治療の選択肢があります。骨の減り方が最も速い時期でもあります。
- 老年期:バランス系の運動で、転倒は24〜34%減らせます。フレイルは手前の段階なら戻れます。
どの時期も、「何もできない時期」ではありません。
8|もう一本、縦に通っている線があります
骨の話をしましたが、実はもう一つ、4つの時期をまたいで続いているものがあります。骨盤底筋です。
骨盤の底で、内臓を下から支え、排尿と排便をコントロールしている筋肉の集まりです。この筋肉には、女性の一生でいくつもの負荷がかかります。妊娠中の体重、出産時の伸張、産後の回復、そして更年期にエストロゲンが減ることによる組織の変化。さらに、加齢による筋力低下。
尿もれが「産後に少し」で済む人と、更年期に本格化する人がいるのは、負荷が積み重なる場所だからです。そして高齢期になると、トイレが間に合わないことが外出を減らし、外出が減ることが筋力を落とし、転倒につながる——ここでも、線はつながります。
骨盤底筋トレーニングは、尿失禁に対して国際的なガイドラインで第一選択とされている介入です。ただし、正しく収縮できているかどうかで結果が大きく変わります。自己流でお腹や内ももに力が入っていると、効果が出ないどころか逆効果になることもあります。この話は、シリーズ1本目のコラムで詳しく書きました。
9|「何科に行けばいいのか分からない」という問題
保健室に来られる方から、いちばんよく聞く言葉がこれです。
尿もれは泌尿器科か婦人科か。腰痛は整形外科。気分の落ち込みは心療内科。子どもの発達は小児科か発達外来。でも、本人の中では、それらは全部つながっている。産後から腰が痛くて、尿もれもあって、眠れなくて、子どもが食べなくて、自分の体は後回し——これを診療科ごとに切り分けて説明し直すのは、かなりの労力です。
しかも、どの科でも「様子を見ましょう」と言われることが多い。それは間違いではありません。多くの場合、緊急性はないからです。ただ、「様子を見る」と言われた人が、その間に何をすればいいのかを教えてくれる場所は、あまりありません。
私たちが埋めようとしているのは、そこです。
10|実際に、どんな相談が来ているか
イメージが湧きにくいと思うので、実際に多いご相談を、時期ごとに挙げてみます。
- 妊活中——検査の数字をどう受け取ればいいか。体重や運動をどうするか。パートナーとどう話すか。
- 妊娠中——腰や恥骨の痛み。どこまで動いていいのか。出産に向けた体の準備。
- 産後——尿もれ、腹直筋離開、体型が戻らない、抱っこで手首や肩を痛めた。赤ちゃんを見ていてもらえる場所がない。
- 子育て期——子どもの発達の「幅」が気になる。食べない。寝ない。自分の時間がない。
- 更年期——不調が年齢のせいなのか病気なのか分からない。尿もれ。関節の痛み。体型の変化。
- その先——親の介護で腰を痛めた。自分の骨が心配。転ばない体を作りたい。
並べてみると分かりますが、これらは別々の悩みではありません。同じ人の、違う時期の悩みです。だから、同じ場所で聞けたほうがいい。
11|母と娘が、一緒に来られることがあります
最近少しずつ増えているのが、二世代でのご相談です。
更年期の相談に来られたお母さまが、次は娘さんの月経の相談で来られる。あるいは産後のケアに来られた方が、ご自身のお母さまの転倒が心配だと話される。
女性の健康の話には、世代を越えて引き継がれてしまうものがあります。「私もそうだったから」「みんな我慢していたから」という言葉が、そのまま次の世代に渡っていく。それ自体は愛情から出た言葉なのですが、結果として受診が遅れることがあります。
3.4兆円という数字は、そうやって積み上がってきたものでもあります。逆に言えば、どこかの世代で「これは相談していいことだ」と切り替われば、その先は変わります。
12|女性とこどもの保健室という場所について
私たちがこの施設を「保健室」と呼んでいるのには、理由があります。
学校の保健室は、病気の人だけが行く場所ではありませんでした。ちょっと具合が悪い、なんとなく教室に戻りたくない、誰かに話したい——そういう段階で行ける場所でした。
大人になると、その段階の行き先がなくなります。病院は「病気」になってから。エステやジムは「きれいになる」「鍛える」ため。その間が、空いている。
女性とこどもの保健室には、理学療法士・助産師・看護師・保育士がいます。骨盤底筋のことも、月経のことも、産後の体のことも、更年期のことも、お子さんの発達や食べないことも、同じ場所で相談していただけます。診療科をまたぐ必要がないのが、この形の一番の利点です。
流山本院は託児付きで、生後1か月からお預かりしています。勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜では産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。
「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階のご相談を、いちばん歓迎しています。
13|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 女性の健康課題は、年間3.4兆円ぶん存在している。我慢が前提の話ではなくなりました。
- 骨は、10代から80代までを一本でつないでいる。20歳前後が上限を決める時期です。
- 月経痛のある人の3人に2人が受診していない。「みんなあること」と「治療の対象」は両立します。
- 検診は、線を切れる数少ない手段。子宮頸がん・乳がんとも受診率は半数以下です。
- どの時期にも、間に合う入り口がある。始めるのに遅すぎる時期は、ほとんどありません。
今日を境に、夜が長くなっていきます。季節の変わり目は、体の変化にも気づきやすい時期です。何か気になることがあれば、その「なんとなく」の段階で、お話を聞かせてください。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算」2024年2月
- 国立成育医療研究センター「女性の健康総合センター」(2024年10月1日開設)
- 厚生労働省健康・生活衛生局健康課「健康日本21(第三次)と女性の健康」
- 厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」2022年
- 甲賀かをり ほか「令和5年度厚生労働科学研究費補助金 分担研究報告書」(月経随伴症状と受診行動)
- Takeda T, et al. Prevalence of premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder in Japanese women. Arch Womens Ment Health. 2006;9(4):209-212.
- 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版』(40歳以上女性の有病率)
- 厚生労働省「令和4年 簡易生命表」「健康寿命の令和4年値について」
- 厚生労働省「令和4年 国民生活基礎調査」がん検診受診率
- 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」(第1子出産前後の就業継続率)
- こども家庭庁「プレコンセプションケア推進5か年計画」

