【毎日コラム】敬老の日に、見ておきたい5つのこと —— 女性の介護は「転倒」から始まる

今日は敬老の日です。離れて暮らす親に電話をかけたり、久しぶりに顔を見たりする方も多いと思います。そのときに、ひとつだけ見ておいていただきたいことがあります。歩く速さと、靴下を立ったまま履けるかどうかです。
1|介護される人の7割近くは、女性です
要介護(要支援を含む)の認定を受けている方は、全国でおよそ736万人。そのうち約68%が女性です。
理由の一つは単純で、女性のほうが長く生きるからです。しかしもう一つ、もっと直接的な理由があります。介護が必要になった原因が、男女で違うのです。
令和4年の国民生活基礎調査から計算すると、女性では「骨折・転倒」が17.8%、「関節疾患」が12.7%——合わせて30.5%が、運動器の問題から介護に入っています。男性では同じ2つを足しても12.0%程度です。女性の場合、脳卒中や認知症と並んで、転んで骨を折ったことが介護の入り口になっている。
そして骨折・転倒は、脳卒中とは違って、準備のしようがある出来事です。
2|健康寿命と平均寿命の差は、女性のほうが3年長い
日本人女性の平均寿命は87.09年、健康寿命(日常生活に制限のない期間)は75.45年。差は11.63年です。男性は8.49年ですから、女性のほうが3年以上長く「制限のある期間」を過ごしていることになります。
この11年余りは、多くの場合、誰かに支えられる期間です。同時に女性は、その前の時期に介護する側にもなります。自分の親、配偶者の親、そして配偶者。介護する側として体を酷使した結果、自分が介護される側に回る——保健室でも、この流れを何度も見てきました。
3|転倒を減らすのは「歩くこと」ではありませんでした
ここからが、理学療法士として一番お伝えしたいところです。
地域で暮らす高齢者の転倒予防について、コクラン共同計画が2019年に発表した系統的レビューがあります。25か国・108の臨床試験・23,407人を統合した、この分野で最も信頼度の高い分析の一つです。参加者の平均年齢は76歳、77%が女性でした。

結果は、はっきりしています。
- バランス・機能的運動:転倒率24%減少(エビデンスの確実性「高」)
- バランス+筋力トレーニングの組み合わせ:34%減少
- 太極拳:19%減少
- ウォーキングのみ:効果は不確か
- 筋力トレーニングのみ:効果は不確か
「毎日1万歩歩いています」という方はとても多いのですが、歩くことだけでは、転倒予防の効果が確認されていないのです。筋トレだけでも同じでした。
効いているのは、「バランスを崩しかける動き」を含む運動です。片足立ち、方向転換、またぎ動作、立ち座り、つま先立ち——日常に近い不安定さを、安全な環境であえて練習する。これが、転倒を24〜34%減らします。
逆に言えば、平らな道をまっすぐ歩き続けることは、心肺機能には良くても、「つまずいたときに踏みとどまる力」は鍛えていない、ということです。
4|大腿骨の骨折は、家の中で起きています
足の付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)は、日本で年間19万3,400件。そのうち77%が女性です。この骨折は、手術をしても以前と同じようには歩けなくなることが多く、介護が必要になる代表的なきっかけです。
そして、発生場所の77.2%が屋内でした。段差のある玄関でも、雪道でもありません。廊下、居間、寝室、トイレ——毎日通っている場所です。
「うちは平屋だから大丈夫」「あまり外に出ないから安全」という言葉をよく聞きます。データはむしろ逆を示しています。
5|フレイルは、戻れる段階があります
加齢で心身が弱っていく状態をフレイルといいます。ここで大事なのは、戻れる段階と、戻りにくい段階があるということです。
日本の追跡研究では、フレイルの手前の段階(プレフレイル)から健常に戻った人が23.1%いたのに対し、すでにフレイルになってから健常まで戻った人は3.3%でした。
7倍の差です。これは「早めに」という言葉に、具体的な数字がついたものだと思ってください。
また、宮城県の大崎コホート研究では、それまで活動的でなかった人が活動的になった群で、追跡期間中の死亡リスクが31%低く(HR 0.69)、1日1時間以上体を動かしていた群は、そうでない群より約360日長く自立して生活していたと報告されています。始めるのに遅すぎるということは、あまりないようです。
6|敬老の日に、見ておいていただきたいこと
難しい検査は要りません。ご実家で、こんなところを見てみてください。
- 靴下を、立ったまま履けるか(片足立ちのバランスと股関節の動き)
- 横断歩道を、青のうちに渡りきれるか(歩行速度のおおまかな目安)
- 椅子から、手をつかずに立てるか(下肢の筋力)
- この1年で、転んだことがあるか(最も強い転倒の予測因子は、過去の転倒です)
- 家の中に、つかまるものがない区間があるか(廊下・トイレまでの動線)
一つでも気になったら、それは「そろそろ」のサインです。何も起きていないうちに手を打てる期間が、いちばん価値があります。
7|具体的に、何をすればいいのか
「バランス系の運動を」と言われても、何をどれだけやればいいのか分からないと思います。日本整形外科学会が提唱しているロコモーショントレーニング(ロコトレ)は、たった2種類です。
① 開眼片脚立ち——床につかない程度に片脚を上げ、左右それぞれ1分間。1日3回。転びそうな人は、必ず机や手すりに手をついて行います。手をついてもバランスの練習になりますので、安全を優先してください。
② スクワット——肩幅より少し広めに脚を開き、お尻を後ろに引くように、椅子に座る動作でゆっくり膝を曲げる。深く曲げる必要はありません。5〜6回を1日3セット。つらい方は、椅子に座って立ち上がる動作を繰り返すだけでも構いません。
コクランのレビューで効果が確認された運動量は、週3回程度・数か月以上の継続が中心でした。1回の量より、続く形にすることのほうが大事です。敬老の日をきっかけに、一緒に始めるのもいいかもしれません。
8|「指輪っかテスト」で、筋肉の減りを見る
筋肉が減っている状態(サルコペニア)を、道具なしで見る方法があります。東京大学高齢社会総合研究機構が普及させた「指輪っかテスト」です。
両手の親指と人差し指で輪を作り、利き足ではないほうのふくらはぎのいちばん太い部分を囲みます。
- 囲めない:今のところ問題は少ない
- ちょうど囲める:注意が必要
- 隙間ができる:サルコペニアの可能性が高い
柏市で行われた大規模調査(柏スタディ)では、隙間ができる群でサルコペニアの該当率が明らかに高いことが示されています。帰省したときに、親と一緒にその場でできる確認です。
9|介護する側の体も、消耗しています
ここは、あまり語られない部分です。
介護を担う方——多くは女性です——の腰痛は、非常に多く見られます。厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」で、福祉・医療分野の移乗介助を腰痛のリスク作業として明示しており、人力のみで持ち上げないことを原則としています。
けれど家庭では、その原則を守るのが難しい。ベッドから車椅子へ、床から立ち上がらせる、お風呂へ——毎日のことです。
保健室には、「親の介護で腰を痛めた」というご相談で来られる方が少なくありません。介護する側の体が壊れると、介護そのものが続かなくなります。自分のことは後回しになりがちですが、優先順位としては後回しにできない部分です。
10|家の中を、見直す
大腿骨骨折の77.2%が屋内で起きているという事実に対して、できることは意外と具体的です。
- 夜間のトイレまでの動線——足元灯をつける。暗さと、寝起きのふらつきが重なる時間帯です。
- つかまるものがない区間をなくす——手すりでなくても、しっかりした家具でも構いません。
- 滑るもの・めくれるものを減らす——マットの端、コード、新聞や雑誌の山。
- スリッパを見直す——かかとのないタイプは、つまずきの原因になります。
- よく使うものを、腰から目の高さに——踏み台に乗る回数を減らします。
介護保険では、住宅改修費の支給や福祉用具のレンタルが利用できます。要支援の段階でも対象になるものがありますので、地域包括支援センターに一度相談しておくと、いざというときに動きが速くなります。
11|保健室でお手伝いできること
女性とこどもの保健室は、妊活から更年期までを見る施設ですが、その先も地続きです。骨盤底筋のケアも、姿勢の調整も、バランス練習も、根っこは同じ「動ける体を保つ」という話です。
理学療法士がいるので、どの動きが苦手になっているのかを分けて見ることができます。筋力なのか、バランスなのか、関節の硬さなのか、怖さなのか。そこが分かると、やるべき運動が絞れます。「とりあえず散歩」から一歩進めるのは、そこからです。
ご本人がまだ乗り気でない場合は、まずご家族だけでご相談いただいても構いません。どう声をかけるかも、けっこう大きな問題ですから。
12|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 女性の介護の入り口は、3割が骨折・転倒と関節の問題。準備のしようがある領域です。
- 歩くだけでは転倒は減らない。効くのはバランス系。片足立ち、方向転換、立ち座り。
- 転ぶのは外ではなく、家の中。大腿骨骨折の77%は屋内で起きています。
- プレフレイルなら23%が戻れる。フレイルだと3%。早い段階ほど選択肢があります。
- 敬老の日に、靴下と椅子を見る。立ったまま靴下、手をつかずに立ち上がり。
長生きすることと、動けることは、別の目標です。後者は、今日から手をつけられます。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 厚生労働省「令和5年度 介護保険事業状況報告(年報)」
- 厚生労働省「令和4年 国民生活基礎調査」介護の状況(介護が必要となった主な原因)
- 厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」(健康寿命の推移と平均寿命との差)
- Sherrington C, et al. Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2019;1:CD012424.
- 日本整形外科学会/日本骨折治療学会『大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)』および全国大腿骨頚部骨折全国調査
- Shimada H, et al. Incidence of disability in frail older persons with or without slow walking speed. J Am Med Dir Assoc.(フレイルの可逆性に関する日本人コホート研究)
- Tsuji I, et al. 大崎国民健康保険コホート研究(身体活動量と自立期間・死亡リスクに関する報告)
- 厚生労働省「健康日本21(第三次)」


