子育て

【毎日コラム】「うちの子は大丈夫」より強い備えを —— 研究が教える、家庭でできるいじめの予防

「うちの子は大丈夫」より強い備えを。加害・被害・観衆・傍観の四層構造を示したコラムのアイキャッチ画像

夏休みが明け、新学期が始まりましたね。長期休みが明けて日常に変化があると、こどもたちのメンタルヘルスが気になります。

特にいじめの話題になると、多くの保護者がまず思うのは「うちの子は大丈夫だろうか」ということだと思います。

けれど、研究や統計が示しているのは、もう少し落ち着かない事実です。いじめは「特別な子」に起こる特別な出来事ではなく、ほとんどの子どもが、6年間のどこかで、被害の側にも加害の側にも立ち会うということ。そして——ここが今日いちばんお伝えしたいところですが——保護者の関わり方は、実際に結果を変えるだけの効果を持っているということです。

この記事では、国内外の研究をもとに、「気づく」「防ぐ」「関わる」の3つを、家庭の目線で整理します。


1|まず数字を見る:これは「よその家の話」ではない

文部科学省の令和6年度調査では、全国のいじめの認知件数は 769,022件(前年度732,568件)。前年度から36,454件増え、過去最多です。うち小学校が 610,612件 と全体の約8割を占め、しかも小1から高3まですべての学年で前年度より増加しました。心身に重大な被害が生じたり長期欠席に至ったりした「重大事態」も 1,400件を超え、こちらも過去最多です。(文部科学省・令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等調査

さらに示唆的なのが、国立教育政策研究所の「いじめ追跡調査」です。「仲間はずれ・無視・陰口」といった行為について追跡したところ、3年間で8割以上、6年間では9割以上の児童生徒が、被害の経験も加害の経験も持っていたと報告されています。しかも同じ年度のなかでさえ、異なる子どもが入れ替わり立ち替わり巻き込まれていく。(国立教育政策研究所・生徒指導リーフ

つまり、いじめは「加害者という人」と「被害者という人」がいる固定的な構図ではなく、立場が入れ替わりながら進行する現象です。だからこそ、「うちの子は優しいから大丈夫」という安心は、残念ながら根拠になりません。備えるべきは、被害・加害・そして「見ていた側」のすべてです。

ものさしは、大人の常識ではなく子どもの苦痛

いじめ防止対策推進法第2条は、いじめを「一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義しています。(文部科学省

判断の基準は、行為の派手さでも、加害側の意図でもなく、その子が苦しいと感じているかどうか。「そのくらい、よくあること」と大人が引いてしまう線は、法律上の線ではないのです。


2|わが子は「4つの立場」を行き来している

社会学者・森田洋司氏が示した「いじめの四層構造」は、いじめの場面に4つの役割があると整理します。加害者・被害者・観衆(おもしろがって見ている人)・傍観者(関与しないが見ている人)。(森田洋司『いじめとは何か』中公新書、2010/大阪商業大学リポジトリ

文部科学省の『生徒指導提要』(2022)も、「傍観者のなかから、いじめを抑止する仲裁者や、いじめを告発する相談者があらわれるかがポイント」だと明記しています。ある調査では、いじめ場面で傍観的な立場にいた人が58%にのぼり、注意・仲裁・報告といった積極的な対応をした人は21.6%にとどまりました。

多くの子は、被害者でも加害者でもなく、「見ていた側」としていじめに出会います。そして、その子が動くかどうかが、いじめが続くか止まるかを左右する。家庭の会話が最も届きやすいのも、実はこの立場です。


3|加害を止めるのは「説教」ではなく「空気」だった

小学4〜6年生646名を1か月間追跡した研究(外山美樹・湯立、教育心理学研究 68巻3号、2020)は、いじめの加害行動を何が抑えるのかを検証しました。(J-STAGE

結果は、保護者にとってかなり実用的です。

  • いじめを根本的に否定する考え方(いじめ観)を持っている子は、加害行動が抑制されやすい
  • 一方で、「こんなことをしたら罪悪感を覚えるだろう」という罪悪感の予期には、抑制効果が確認されなかった
  • そして最も効いていたのは、学級集団の質——友達関係の雰囲気、承認の雰囲気、いじめを否定する雰囲気

「かわいそうだと思わないの?」と気持ちに訴えるより、「どんな理由があっても、人を傷つけることはしない」という価値観を、平時から言葉にしておくこと。そして、否定されず認められる場の空気があること。この2つが加害を抑えていました。

家庭は、子どもが最初に所属する「学級」です。家のなかの承認の雰囲気と、いじめに対する一貫したメッセージは、そのまま予防因子になります。

今日からできること:事件が起きてからではなく、ニュースやマンガをきっかけに「これはどう思う?」と平時に話しておく。答えを教えるより、家の価値観を先に共有しておく。


4|「見て見ぬふり」を分けるのは、勇気ではなく“空気の圧”

では、傍観者と仲裁者を分けるものは何か。梅津直子氏の研究(日本心理学会第84回大会、2020)は、大学生211名への回顧的調査から、仲裁を経験した人は、傍観者に比べて「ピアプレッシャー(仲間からの同調圧力)の認知が低かった」ことを見出しました。教師への認知や学級内での地位、いじめの深刻さなどには有意差がありませんでした。(J-STAGE

動けなかった子は、勇気がなかったのではありません。「みんながやっていること」に逆らう圧を、強く感じていたのです。

ここに、家庭が効く余地があります。

  • 「みんなが言ってるから」に一度立ち止まる習慣を、日常の小さな場面でつくっておく
  • 「大人に言うのは告げ口ではない。人を助けるための相談だ」と、繰り返し伝えておく
  • 止められなかったわが子を責めない。「言えなかったんだね」から始める

止めることだけが正解ではありません。その場を離れる・後で被害の子に声をかける・大人に伝える——選べる行動を複数持たせておくことが、現実的な備えになります。


5|保護者の「知識」と「自信」は、統計的に効果がある

「結局、学校の問題では?」と思われるかもしれません。ここが今回いちばんお伝えしたい研究です。

杉本希映氏(目白大学)、飯田順子氏(筑波大学)、遠藤寛子氏(埼玉学園大学)、青山郁子氏(都留文科大学)らは、保護者に焦点を当てたいじめ防止プログラムを開発し、その効果を検証しました(心理学研究 第95巻6号、2025)。研究1では保護者724名を対象に「親のいじめ知識尺度」と「親のいじめ自己効力感尺度」を開発し、研究2では小学生の保護者47名にプログラムを実施。結果、プログラムは保護者の自己効力感を高めるうえで効果があったことが示されています。(J-STAGE/プログラム紹介:SEHS

ここでいう「自己効力感」とは、「いじめに気づき、対応できる」という保護者自身の手応えのこと。知識を得ることで、この手応えが上がる。手応えが上がれば、動けるようになる、という筋道です。

そしてこれは日本だけの話ではありません。53件の厳密な評価研究を統合した国際的なメタ分析(Ttofi & Farrington)では、いじめ防止プログラムによって加害が約23%、被害が約20%減少すること、そして効果を高める要素として「保護者向けの研修・保護者会・情報提供」が上位に挙がることが報告されています。(米国科学アカデミー報告書

保護者は、学校の外にいる観客ではなく、効果が実証されている構成要素の一つです。知ることそのものが、すでに予防になります。


6|早く気づくために——「保護者からの訴え」は実際に機能している

令和6年度の調査によれば、いじめが発見されたきっかけの内訳は次の通りです。(文部科学省

いじめが発見されたきっかけの内訳。アンケート等48.0%、本人からの訴え19.6%、保護者からの訴え13.9%、学級担任が発見9.3%。
保護者からの訴え(13.9%)は、学級担任による発見(9.3%)を上回っています。出典:文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」
発見のきっかけ 割合
アンケート調査など学校の取組 48.0%
本人からの訴え 19.6%
保護者からの訴え 13.9%
学級担任が発見 9.3%

注目したいのは、保護者からの訴え(13.9%)が、学級担任による発見(9.3%)を上回っていることです。家庭のアンテナは、統計に表れるレベルで機能しています。あなたの「なんとなく気になる」は、データ上、担任の目より高い確率でいじめを見つけています。

さて、次回からは我が子が「した側」と言われたときについて、まとめていきます。

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そして何より——保護者が知っていること自体が、効果のある予防策です。研究がそう示しています。


相談できる場所

  • 24時間子供SOSダイヤル(文部科学省) 0120-0-78310 24時間・年中無休
  • 子どもの人権110番(法務省) 0120-007-110
  • お住まいの自治体の教育委員会・スクールカウンセラー

そして、女性とこどもの保健室でも、お子さんの体調のこと、育ちのこと、家庭での関わり方について、ご相談をお受けしています。「いじめかどうか分からないけれど、なんとなく気になる」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。


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「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。


本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。


参考文献・出典

  1. 文部科学省(2025)「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」 概要調査結果
  2. 国立教育政策研究所「生徒指導リーフ(いじめ追跡調査)」 https://www.nier.go.jp/shido/leaf/leaf04.pdf
  3. 外山美樹・湯立(2020)「小学生のいじめ加害行動を低減する要因の検討」教育心理学研究 68(3), 295. J-STAGE
  4. 梅津直子(2020)「いじめ仲裁者と傍観者の差異に関する検討——ピアプレッシャーと教師への信頼感に注目して」日本心理学会第84回大会. J-STAGE
  5. 杉本希映・飯田順子・遠藤寛子・青山郁子(2025)「子どものいじめ防止に向けた保護者の自己効力感向上のためのプログラムの検討」心理学研究 95(6). J-STAGE
  6. 佐野(2024)「いじめの四層構造におけるいじめ傍観者の活用——生徒指導提要における傍観者指導を参考に」大阪商業大学. リポジトリ
  7. 森田洋司(2010)『いじめとは何か——教室の問題、社会の問題』中公新書
  8. Takizawa, R., Maughan, B., & Arseneault, L. (2014). Adult Health Outcomes of Childhood Bullying Victimization. American Journal of Psychiatry, 171(7), 777-784. AJP
  9. Ttofi, M. M., & Farrington, D. P. — メタ分析の要約は National Academies「Building Capacity to Reduce Bullying」より. NCBI
  10. いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)第2条・第9条. 文部科学省
  11. SEHSプロジェクト「保護者向けいじめ予防プログラム」 https://sehs.jp/295/

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