【毎日コラム】月経前の不調は、ホルモンの量の問題ではありません —— PMSとPMDD、いま分かっていること

月経の前になると、いらいらする。涙が出る。子どもに強く当たってしまって、あとで落ち込む。月経が始まると、嘘のように楽になる。
「性格の問題」「我慢が足りない」と、ご自分を責めてきた方が多い不調です。今日は、月経前症候群(PMS)と月経前不快気分障害(PMDD)について、研究で分かっていることを整理します。
1|どのくらいの人に起きているか
日本の20〜49歳の女性1,187人を調べた研究では、95%に何らかの月経前の症状がありました。そのうち、生活に支障が出る中等症以上のPMSは5.3%、PMDDは1.2%です。
そして、該当する人のうち治療を受けていたのは5.3%でした。ほとんどの人が、何もせずにやり過ごしています。
高校生901人の調査では、中等症以上のPMSが9.9%、PMDDが3.1%。月経前の症状で月に1日以上学校を休む生徒が11.9%いました。
世界の研究をまとめると、PMDDは、毎日の記録で確かめた場合で3.2%、思い出して答える方法では7.7%です。記憶に頼ると、実際より多く見積もられることが分かっています。
※日本の数字は、いずれも思い出して答える質問票によるもので、対象も検診の受診者や1つの市の高校生です。全国を代表する値ではありません。
2|PMSとPMDDの違い
日本産科婦人科学会は、PMSを「月経前3〜10日のあいだ続く精神的あるいは身体的症状で、月経が始まるとともに軽くなる、または消えるもの」としています。
そのうち、こころの症状が中心で、強いものがPMDDです。米国精神医学会の診断基準では、気分が不安定になる・いらいらや怒り・気分の落ち込み・不安や緊張のうち少なくとも1つを含む、5つ以上の症状が、ほとんどの周期で月経前の1週間に現れ、月経が始まって数日で軽くなる、とされています。
大切なのは、この診断基準が「少なくとも2周期にわたる、毎日の記録で確かめること」を求めている点です。
3|ホルモンの「量」が原因ではありません
「ホルモンバランスが乱れているから」と説明されることが多いのですが、研究が示しているのは少し違うことです。
1998年に医学誌に載った有名な実験があります。薬で卵巣の働きを一時的に止めると、PMSの女性の症状は軽くなりました。そこに、ふつうの量の女性ホルモンを戻すと——PMSの女性では症状が戻り、PMSのない女性では何も起きませんでした。
同じ量のホルモンで、反応が違う。著者の結論は「正常なホルモン変化に対する、異常な反応」でした。
つまり、ホルモンの量がおかしいのではなく、ふつうの変動に対する感じやすさが人によって違う、という理解です。血液検査でホルモンを測っても「異常なし」と言われるのは、このためです。
しくみとしては、脳内のセロトニンの働きや、黄体ホルモンから作られる物質への反応が関わっていると考えられていますが、まだ解明の途中です。
気の持ちようでも、甘えでもありません。体質としての反応の違いです。
4|治療の選択肢

SSRI(抗うつ薬の一種)——コクランレビュー(34試験)で、症状を軽くする効果が、中等度の確実性で示されています。うつ病の治療と違い、月経前の時期だけ飲む方法でも効果があるのが特徴です。吐き気や眠気などの副作用があります。なお、対象となった試験の多くは製薬企業の資金によるものでした。
ドロスピレノンを含む低用量ピル——コクランレビュー(5試験・858人、大半がPMDD)で効果が示されましたが、確実性は低いとされています。偽薬でも約36%の人が良くなっており、偽薬の効果が大きいことも分かっています。
認知行動療法——米国の産婦人科学会が強く推奨しています。インターネットを使ったプログラムでも、効果が半年続いたという試験があります。
日本産科婦人科学会のガイドラインも、生活指導・運動、ドロスピレノン配合薬、こころの症状が中心の場合のSSRIを勧めています。ただし同学会は、ほとんどの薬がPMS・PMDDという病名では保険適用外であること、24歳以下ではSSRIの使い始めに注意が必要なことも記しています。
日本の産婦人科医1,312人への調査では、最初に選ぶ治療は低用量ピルが76.8%、漢方が19.5%、SSRIが2.6%でした。
5|運動・カルシウム・サプリ・漢方
運動——複数の試験をまとめると症状が軽くなる傾向がありますが、試験ごとのばらつきが大きく、質の低い研究がほとんどでした。米国の学会は「条件付きで推奨」としています。効くかもしれないし、ほかにも良いことがあるので、試す価値はある、という位置づけです。
カルシウム——1日1,200mgを飲んだ試験(466人)で、3周期目の症状が48%減りました(偽薬では30%減)。米国の学会は条件付きで推奨しています。以前のコラムで書いたとおり、日本の女性はそもそもカルシウムが足りていません。
ビタミンB6——効果を示す分析はありますが、著者自身が「大半の試験の質が低く、結論は限定的」としています。
チェストベリー(西洋ハーブ)——効果は大きく出ていますが、研究の偏りが強く「確定的な結論は出せない。過大評価の可能性がある」とされています。
漢方——日本では広く使われていますが、日本産科婦人科学会の指針は「臨床効果の検証は十分に実施されていない」と明記しています。今回、偽薬と比べた試験は見つけられませんでした。
「効かない」と分かっているわけではありません。確かめた研究が足りない、という状態です。
6|まず、2か月だけ記録してみてください
治療の前に、必ず勧められることがあります。毎日の記録です。
理由は3つあります。
1つめ。記憶は当てになりません。調子の悪い日を「月経前だったから」と後から結びつけてしまうことが、研究で確かめられています。
2つめ。PMSだと思っていたら、別のものだったということがあります。うつ病や不安症、片頭痛、喘息などがもともとあって、月経前に悪化しているだけの場合です(月経前増悪)。日本産科婦人科学会の指針は「PMSを疑って受診する人には、これが多い」としています。この場合、PMDDに効く治療はあまり効きません。もとの病気の治療が先になります。
見分け方は、月経が終わったあとの1週間に、症状がほぼ消えているか。消えていればPMS・PMDD、残っていれば別のものを考えます。記録がないと、これが分かりません。
3つめ。記録の指導は、それ自体が治療の第一歩に位置づけられています。パターンが見えると、予定の組み方を変えられるからです。
専用の用紙でなくて構いません。アプリでも、手帳のメモでも。「いらいら」「落ち込み」「体のつらさ」を、毎晩3段階でつけるだけで十分です。
7|一人で抱えないでほしいこと
PMDDのある方で、月経前に「消えてしまいたい」という気持ちが強くなることがある、と複数の研究が報告しています。米国と日本の学会は、そうした気持ちがあるときは精神科・心療内科につなぐよう勧めています。
もしいま、そういう気持ちがあるなら、月経が来れば楽になると分かっていても、一人で待たないでください。
- よりそいホットライン:0120-279-338(24時間)
- #いのちSOS:0120-061-338(24時間)
受付時間は変わることがあります。かける前に各窓口の公式サイトでご確認ください。
8|保健室でお手伝いできること
薬の処方は、婦人科・精神科の仕事です。保健室でできるのは、その手前と、そのまわりです。
- 記録のつけ方を一緒に決める——続く形にします
- 2か月ぶんの記録を一緒に読む——月経後に消えているか。受診のときに持っていける形に整えます
- 受診先の相談——婦人科か、心療内科か。どちらから行くかで迷う方が多いです
- 体を動かす習慣づくり——理学療法士が、月経前でも続けられる強さで一緒に考えます
- お子さんを預かる——月経前のつらい日に、数時間でも一人になれる時間を。流山本院は保育士・看護師による託児付きです
「子どもに当たってしまう」というご相談は、とても多いです。話すだけでも、来てください。
9|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 中等症以上のPMSは5.3%、PMDDは1.2%。そのうち治療を受けている人は、ごくわずかです。
- ホルモンの量ではなく、変動への感じやすさの違いです。検査で「異常なし」でも、症状は本物です。
- 効果が示されているのは、SSRI、ドロスピレノン配合薬、認知行動療法。サプリや漢方は、まだ検証が足りません。
- まず2か月、毎日記録を。月経後に症状が消えているかどうかで、次の一手が変わります。
- 「消えたい」気持ちが出るときは、月経を待たずに相談を。
月に数日、自分が自分でなくなるように感じる。それは、あなたの人柄とは関係がありません。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 日本産科婦人科学会「PMS・PMDDに対する診断・治療指針」2025年3月
- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会『産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023』CQ405
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- 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口


