健康な体作り

【毎日コラム】抱っこで痛める場所は、だいたい決まっている —— 産後・育児期の体の痛み

「抱っこのしすぎで腰をやりました」「手首が痛くて、もう抱き上げられません」——保健室で、毎週のように聞く言葉です。

痛める場所は、だいたい決まっています。そして、どこまでが研究で分かっていて、どこからが分かっていないのかも、はっきりしています。今日はそこを整理します。

1|女性の不調の第1位は、ずっと腰痛です

厚生労働省の令和4年 国民生活基礎調査によると、女性が自覚している症状の第1位は腰痛(人口千対111.9)、第2位が肩こり(105.4)でした。男性は腰痛91.6、肩こり53.3ですから、肩こりは女性が男性のほぼ2倍です。

これは全年代を合わせた数字ですが、育児期に限れば体感としてもっと高いはずです。

2|産後、痛むのはここでした

経腟分娩をした初産婦288人を、産後6〜10週まで追いかけた研究があります。

産後6〜10週の初産婦における部位別の痛みの割合。腰部52%、上背部43%、骨盤帯41%

妊娠中に体幹のどこかが痛かった人は94%。そして産後6〜10週の時点でも75%に、まだ痛みがありました。部位別では腰部52%、上背部(肩甲骨まわり)43%、骨盤帯41%です。

この研究で示唆的だったのは、痛む場所が多い人ほど、重症で、治りにくいということでした。妊娠中に3か所すべてが痛かった人(全体の27%)のうち、産後も3か所すべて痛みが残ったのは34%、痛みが消えたのは13%だけでした。

3|日本のデータで分かっていること

長崎医療センターで、妊娠35週の時点で腰痛・骨盤痛がある妊婦209人を追跡した研究(2026年)があります。

産後4か月の時点で、48%に痛みが続いていました。

※この48%は「妊娠中に痛みがあった人のうち」の割合です。産後女性全体の半分が腰痛、という意味ではありません。

痛みが続きやすかった要因として挙げられたのは、年齢が高いこと、初産であること、帝王切開であること、そして妊娠前に運動習慣がなかったことでした。

そしてこの研究には、理学療法士として見逃せない結果があります。産後4週に測定した体幹の筋肉量は、その後の痛みの持続と関連していませんでした。著者の結論は「筋量だけでは出産後の痛みの持続は説明できない。焦点を筋量から、変えられる臨床的・行動的な要因へ移すべき」。

「筋肉が足りないから痛い」という説明は、少なくともこのデータでは支持されません。

4|手首——いわゆる「腱鞘炎」について

親指の付け根から手首にかけて痛むド・ケルバン腱鞘炎は、育児期に多いとされ、英語圏では「mother’s wrist」とも呼ばれます。ただしこれは通称で、診断名でも疫学用語でもありません。

韓国の健康保険データで、出産した女性160万人を調べた研究があります。妊娠期から産後12か月の間に、約2.1%がこの診断を受けていました。年齢が上がるほど増え、15〜19歳で1.6%、45〜49歳で3.9%。イスラエルの研究では、妊娠期間が40週を超えたこと(オッズ比5.81)、初産であること(2.23)、BMI 25超(2.08)がリスクとして挙がっています。

ただし、ここは正直に書きます。「授乳や抱っこが原因」であることを直接示した研究は、見つけられませんでした。韓国の大規模研究も、授乳期間と発症の関係は解析していません。リスク因子として挙がっているのは初産・高BMI・過期産で、これは抱っこ動作の影響とも、ホルモンやむくみの影響とも解釈できます。機序はまだ確定していません。

5|手のしびれ——妊娠中に3人に1人

手根管症候群(手のしびれ)も、妊娠中によく起こります。オランダで妊婦639人を追跡した研究では、34%が妊娠中に症状を報告していました。32週以降に悪化する傾向があります。

関連していたのはむくみ(オッズ比1.8)でした。年齢・BMI・経産・抑うつを調整しても残っています。そして、睡眠障害とも独立して関連していました。夜に手がしびれて目が覚める、という訴えはよく聞きますが、データにも表れています。

フランスの研究では、妊娠に関連した手根管症候群の神経の異常が時間とともに減っていくことが示されています。多くは自然によくなる経過をたどる、ということです。ただし「何%が何か月で治るか」という数字は、確認できませんでした。

6|首・肩と授乳姿勢——ここは、慎重に

「授乳姿勢が悪いから肩が凝る」という説明は、よく聞きます。私たちも使ってきました。でも調べ直すと、話はそう単純ではありませんでした。

ヨルダンで授乳中の女性493人に聞いた研究では、多くの人が腰・首・肩・手の痛みを授乳のせいだと考えており、気分や睡眠、仕事に影響していました。そして大多数が、医療者から授乳姿勢の指導を受けていませんでした。

一方、パキスタンで授乳中の女性400人を調べた研究では、首の痛み36.8%、腰の痛み22.0%が確認されましたが、授乳姿勢の種類と痛みの間に、有意な関連は認められませんでした。

つまり、「産後に首や肩が痛む人は多い」のは確かですが、「姿勢を直せば治る」は、いまのところ研究で確かめられていません。私たちが姿勢を見るのは、それが間違いだからではなく、他に試せることが少ないからです。ここは正直に申し上げておきます。

7|抱っこひもについて、言えること・言えないこと

抱っこひもと痛みの関係は、よく質問をいただきます。結論から言うと、科学的におすすめできる根拠は、現時点でありません。

実験室での研究はあります。抱っこひもや腕抱きで歩くと、何も抱いていないときより体幹が反り、床を踏む力が増えることが確認されています。また、床の物を拾うとき、抱っこひもを使っているほうが腕抱きより自然な動きに近い、という結果もありました。

ただしこれらの研究は、いずれも痛みを測っていません。10〜20人の実験室研究で、関節にかかる負荷の変化を見ただけです。どの製品が良いかを比べた試験も見つかりませんでした。

「この抱っこひもなら腰を痛めません」という説明を見かけたら、その根拠を聞いてみてください。少なくとも査読論文には、まだありません。

8|腰痛について、これだけは自信を持って言えます

ここまで「分かっていない」ことを並べてきましたが、はっきりしていることもあります。

日本整形外科学会・日本腰痛学会の『腰痛診療ガイドライン2019』は、慢性腰痛に対する運動療法を「推奨度1(強い推奨)」としています。コクランレビュー(249試験)でも、100点満点で約15点の痛みの改善——臨床的に意味のある差が、中等度の確実性で示されています。

同じガイドラインは、急性腰痛について「安静よりも活動性を維持するほうが有用」とも述べています。コクランレビューでも同じ方向の結果です。「痛いから寝ておく」は、少なくとも腰痛全般については推奨されません。

ただし正確に書くと、急性・亜急性の腰痛に対する運動療法は「エビデンス不明・推奨度なし」です。産後すぐの時期にそのまま当てはめることはできません。

また、「どの運動がいちばん良いか」も決着していません。太極拳・ヨガ・ピラティスなどを比べた分析はありますが、ガイドライン自身が「どの運動療法がよいかは明確でない」と述べています。

妊娠中の運動については、32研究・52,297人をまとめた分析で、妊娠中と産後早期の痛みの強さを下げることが報告されています。

9|保健室でお手伝いできること

ここまで読んで「結局よく分かっていないのか」と思われたかもしれません。でも、分かっていないことを知っているほうが、やれることは絞れます。

女性とこどもの保健室では、理学療法士が次のことをお手伝いできます。

  • どこが、いつ、どんな動きで痛むのかを分ける——「腰が痛い」は、腰椎なのか骨盤帯なのか股関節なのかで、やることが変わります
  • 痛みが出ない抱き方・持ち上げ方を、実際にやってみる——姿勢を直せば治ると保証はできませんが、その場で楽になる持ち方は、たいてい見つかります
  • 運動を、続く形にする——慢性化した腰痛については、運動が最も確かな手段です
  • 受診が必要なものを見分ける——しびれが強い、力が入らない、夜間に痛みで目が覚める、といった場合は整形外科をご案内します

そして、託児です。流山本院は保育士・看護師が生後1か月からお預かりします。腰を痛めている人が、子どもを抱えたまま施術を受けるのは無理があります。預けて、まず自分の体だけに集中する時間を作ってください。

10|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと

  1. 産後6〜10週でも、75%に体幹の痛みが残っています。治りが遅いのは、あなただけではありません。
  2. 体幹の筋肉量と、産後の痛みの持続は関連しませんでした。「筋肉が足りないから」ではありません。
  3. 腰痛は、安静より動くほうが良い。ガイドラインもコクランも、同じ方向を向いています。
  4. 抱っこひもと痛みの関係は、まだ研究がありません。「これなら痛めない」という説明には、根拠を聞いてください。
  5. 手のしびれは、多くが自然によくなります。むくみと関連し、妊娠後期に悪化しやすい。夜に目が覚めるなら、相談してください。

痛みを抱えながらの育児は、それだけで消耗します。「このくらいで」と思わずに、早めに声をかけてください。


ご相談・ご予約

女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

女性とこどもの保健室の3つの拠点。流山本院(託児付き)、勝どき出張院(完全予約制プライベートサロン)、横浜みなみレディースクリニック(産婦人科医連携)

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。


本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。


参考文献・出典

  1. 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」第9表 有訴者率
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