【毎日コラム】「太りすぎないで」は、もう古い指導かもしれません —— 妊娠中の体重増加、2021年に変わった目安

「体重、増えすぎですね」。妊婦健診でそう言われて、帰り道にお昼を抜いた——そんな経験を話してくださる方が、いまも少なくありません。
けれど、妊娠中の体重についての考え方は、2021年に大きく変わっています。今日は、何がどう変わったのか、なぜ変わったのかを見ていきます。
1|目安は、引き上げられました

日本産科婦人科学会が2021年3月に示した「妊娠中の体重増加指導の目安」です。厚生労働省の「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」(2021年改定)も、同じ数字を採用しています。
- 妊娠前にやせ(BMI 18.5未満):12〜15kg
- ふつう(BMI 18.5以上25未満):10〜13kg
- 肥満1度(BMI 25以上30未満):7〜10kg
- 肥満2度以上(BMI 30以上):個別対応(上限5kgまでが目安)
それまで厚生労働省の指針(2006年)は、やせで9〜12kg、ふつうで7〜12kg。さらにさかのぼると、学会の1997年の指針は「ふつうの体格で7〜10kg」でした。
ふつう体格の方で見ると、下限が7kgから10kgへ、3kg上がったことになります。お母さん世代が「8kgまでと言われた」と話すのは、当時としては標準的な指導だったのです。
2|学会は、以前の基準を取り下げています
ここは、あまり知られていません。
日本産科婦人科学会は2019年、1997年に定めた体重増加の推奨値を取り下げました。理由として挙げられたのは、「推奨値が生理的な体重増加を下回っている可能性」と、「妊娠高血圧症候群の予防効果を支持する新たなエビデンスが乏しい」ことです。
もともと厳しい体重管理は、妊娠高血圧症候群(当時の妊娠中毒症)を防ぐ目的で行われていました。その根拠が、十分ではなかった。学会自身がそう判断したということです。
新しい目安は、2015〜2017年の周産期登録約41万9千例のデータを解析して作られました。そして学会は、この目安にこう添えています。
増加量を厳格に指導する根拠は必ずしも十分ではないと認識し、個人差を考慮したゆるやかな指導を心がける。
目安は、守らなければ叱られる線ではありません。
3|背景にあるのは、小さく生まれる赤ちゃんの多さです
人口動態統計によると、2,500g未満で生まれる赤ちゃん(低出生体重児)の割合は、1975年に5.1%でした。それが2005年以降は9.5%前後で推移し、2025年は9.8%。およそ10人に1人です。OECD加盟国の平均は6.5%で、日本は高い側にあります。
早産(37週未満)の割合はこの間ほぼ横ばい(2005年5.7%、2025年5.8%)ですから、早く生まれる子が増えたわけではありません。平均出生体重の低下は、妊娠期間や多胎、出生順位などを考慮しても残る、という解析があります。
日本の97,157例を調べた研究では、体重増加が足りない場合、赤ちゃんが小さく生まれることや早産が多くなる関連が示されています。妊娠前にやせている方で、その傾向がよりはっきりしていました。
ただし、正確に書いておきます。「体重制限の指導が低出生体重児を増やした」という因果は、証明されていません。研究者も「関連する可能性」と述べるにとどめています。高齢出産や不妊治療の増加、喫煙、もともとのやせなど、ほかの要因も重なっています。
4|足りなくても、多すぎても
約131万人のデータをまとめた分析(JAMA, 2017)は、体重増加が基準より少ない場合と多い場合を、それぞれ基準内の人と比べています。
基準より少ない場合
- 赤ちゃんが在胎週数に比べて小さい:オッズ比1.53(絶対差で約5ポイント増)
- 早産:オッズ比1.70(約5ポイント増)
基準より多い場合
- 赤ちゃんが大きい:オッズ比1.85(約4ポイント増)
- 帝王切開:オッズ比1.30(約4ポイント増)
どちらにもリスクがあります。「増えなければ増えないほどいい」わけではなく、「いくら増えてもいい」わけでもありません。
なお、この分析は米国の基準を使った欧米中心のデータです。別の大規模研究は、こうした「至適範囲」で個人の経過を予測する力は低〜中程度にとどまる、とも結論しています。集団としての傾向であって、一人ひとりの結果を決めるものではありません。
5|そもそも、足りていない人が多いのです
以前のコラムで書いたとおり、20〜30代女性のやせ(BMI 18.5未満)は、令和6年の国民健康・栄養調査で16.6%でした。
妊娠中の食事はどうでしょうか。約9万人を対象にしたエコチル調査では、妊婦のエネルギー摂取量は平均1,682kcalと推定されています(質問票による推定で、実際より少なく出ている可能性があります)。
一方、妊娠中に上乗せが必要とされるエネルギーは、初期+50kcal、中期+250kcal、後期+450kcalです。もともとの必要量(20〜40代の女性で、ふつうの活動量なら約2,000kcal)にこれを足すことになります。
妊娠前からやせていて、妊娠中も食べる量が増えていない。これが、日本で珍しくないパターンです。
6|「将来の病気」の話は、どこまで本当か
「小さく生まれると、将来、生活習慣病になりやすい」。DOHaD(ドーハッド)という考え方として、耳にしたことがあるかもしれません。
確かめられていること:出生体重が低いほど、大人になってからの2型糖尿病や心血管疾患が多い、という関連。海外の大規模なメタ分析でも、日本の研究でも、同じ方向の結果が出ています。大きすぎる場合にもリスクが上がる、J字型の関係です。
言い過ぎになること:「妊娠中に体重を増やさないと、この子は生活習慣病になる」という、一人ひとりへの予言。関連は集団で見たときの傾向で、個人の将来を決めるものではありません。関連の一部は遺伝で説明できるという解析もあります。そして、妊娠中の体重増加を増やすことで子どもの将来の病気が減ることを示した試験は、確認できませんでした。
すでに小さく産んだお母さんが、この話で自分を責める必要はありません。そこは強くお伝えしておきます。
7|産後の体重について
「増やしていいと言われても、戻らなかったら」という不安は当然です。
海外の分析では、基準を超えて増えた人は、基準内の人に比べて産後3年で約3kg多く残っていました。妊娠中に1kg多く増えるごとに、産後半年〜9か月で0.6kgほど多く残る、という計算です。
日本のエコチル調査(約6.4万人)では、産後6か月時点で残っている体重は平均0.2〜0.8kgでした。多くの人は、半年でほぼ戻っています。
目安の範囲で増えた分は、ほとんどが戻る。これが、いまあるデータから言えることです。
8|保健室でお手伝いできること
- 「増えすぎ」と言われて食べられなくなった方の相談——助産師が、いまの目安と照らして一緒に確認します。健診で言われたことを否定するのではなく、何を心配されての言葉だったのかを整理します
- 何を足せばいいかを具体的に——+250kcalは、おにぎり1個と牛乳1杯くらいです
- つわりで食べられない時期の相談
- 動いていいのか、の相談——体重を気にして動きすぎる方も、怖くて動けない方もいます。理学療法士が一緒に考えます
- 産後の体の戻り——体重だけでなく、お腹や骨盤底のことも含めて
妊婦健診は時間が限られています。体重の数字だけを告げられて、理由を聞けないまま帰ってくることも多いと思います。その続きを話す場所として、使ってください。
9|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- ふつう体格の目安は10〜13kg、やせの方は12〜15kg。2021年に引き上げられました。
- 学会は以前の厳しい基準を取り下げています。「ゆるやかな指導を」と明記されています。
- 日本では、約10人に1人が2,500g未満で生まれています。1975年の約2倍です。
- 足りなくても、多すぎてもリスクがあります。ただし集団の傾向で、個人の結果を決めるものではありません。
- 産後6か月で、平均では1kg未満まで戻っています。目安の範囲で増えることを、怖がらなくて大丈夫です。
食欲の秋です。妊娠中の方は、どうぞ遠慮なく。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 日本産科婦人科学会 周産期委員会「妊娠中の体重増加指導の目安について」2021年3月
- 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会『産婦人科診療ガイドライン 産科編2023』CQ010
- 厚生労働省「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」および解説要領. 2021年3月
- Takeda J, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2024.(周産期登録データベース単胎419,114例の解析)
- 厚生労働省「人口動態統計」(確定数)出生時の体重別にみた出生数・割合
- Enomoto K, et al. Pregnancy Outcomes Based on Pre-Pregnancy Body Mass Index in Japanese Women. PLoS One. 2016;11(6):e0157081.
- Kato N, et al. Paediatr Perinat Epidemiol. 2021.(日本の平均出生体重の低下要因の分析)
- Goldstein RF, et al. Association of Gestational Weight Gain With Maternal and Infant Outcomes: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2017;317(21):2207-2225.
- LifeCycle Project-Maternal Obesity and Childhood Outcomes Study Group. JAMA. 2019;321(17):1702-1715.
- 厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査」
- Minami M, et al. 2022.(エコチル調査・妊婦のエネルギー摂取量)
- Whincup PH, et al. Birth weight and risk of type 2 diabetes: a systematic review. JAMA. 2008;300(24):2886-2897.
- Belbasis L, et al. Birth weight in relation to health and disease in later life: an umbrella review of systematic reviews and meta-analyses. BMC Med. 2016;14:147.
- Nehring I, et al. Gestational weight gain and long-term postpartum weight retention: a meta-analysis. Am J Clin Nutr. 2011;94(5):1225-1231.
- Yamamoto M, et al. 2022.(エコチル調査・産後6か月の体重貯留)

