【毎日コラム】「そのうち出る」で待たないほうがいい理由 —— こどもの便秘と、悪循環のしくみ

「3日出ていないけれど、機嫌はいいし、そのうち出るだろう」。こどもの便秘は、様子見になりやすい不調です。
ところが、診療ガイドラインが強調しているのは逆のことでした。待っているあいだに、出にくさが自分で育っていく。今日はそのしくみと、家庭でできること・できないことを整理します。
1|めずらしい不調ではありません
世界の35研究をまとめた分析では、こども(0〜18歳)の機能性便秘は9.5%。男の子と女の子で差はありませんでした。
日本では、エコチル調査の71,878組の親子のデータで、3歳児の12.3%が機能性便秘にあたると報告されています。横浜市の3〜8歳3,595人の調査では20.0%、山口県周南市の小5・中2では3.7〜8.3%でした。
年齢や地域、基準によって数字に幅があり、全国を代表する値はまだありません。それでも、クラスに数人はいるという規模感です。
横浜市の調査には、気になる結果がもう一つあります。便秘にあたる子のうち、排便の回数が少なかったのは15.9%だけでした。つまり「毎日出ているから便秘ではない」とは言えません。硬くて痛い、少しずつしか出ない、出すのを嫌がる——回数ではなく、出るときの様子を見る必要があります。
2|便秘は、自分で悪くなっていきます
日本小児栄養消化器肝臓学会などのガイドラインは、便秘の悪循環を二重の輪で説明しています。
- 内側の輪:硬い便で痛い思いをする → 出すのを我慢する → 便が腸にとどまって水分を吸われ、さらに硬くなる → もっと痛い
- 外側の輪:便が直腸にたまり続ける → 直腸の壁が伸びる → 便が来ても感じにくくなる(便意が鈍る) → さらにたまる
足を交差させて立つ、部屋の隅で固まる、顔を赤くしてこらえる。これは「出そうとしている」のではなく、出さないようにがんばっている姿であることが多いのです。
パンツに少量の便がつくのも、だらしなさではありません。たまった硬い便の横を、やわらかい便がすり抜けて漏れている状態です。ガイドラインは、こうしたサインを見逃さないよう挙げています。
3|治療には、順番があります

ガイドラインが示す手順は、はっきりしています。
- まず、たまっている便を出しきる(便塊除去)
- そのうえで、薬で「たまらない状態」を続ける(維持治療)
先に出しきらないまま薬を始めても、効果が出にくいとされています。伸びてしまった直腸が元の大きさに戻り、便意がふつうに感じられるようになるまで、空の状態を保つことが治療の中身です。
だから、維持治療は長くかかります。ガイドラインは「通常6〜24か月必要」とし、早すぎる減量や中止は再発しやすい、と書いています。数日出たからやめる、を繰り返すと、輪はまた回り始めます。
4|「下剤は癖になる」について
保護者の方がいちばん心配されるのが、ここだと思います。
ガイドラインの記載は「薬剤の耐性や習慣性に関する十分なエビデンスはない」。長く使うことで効かなくなる・やめられなくなることを示す根拠は、示されていません。本文はむしろ、治療が足りないまま悪循環が続き、結果的に薬を増やさざるを得なくなることのほうが問題だと述べています。
薬の効果については、コクランレビュー(25試験・2,310人)があります。ポリエチレングリコール(PEG)という浸透圧性下剤は、偽薬と比べて1週間の排便回数を約2.6回増やし、重い副作用の報告はありませんでした。ただし根拠の確実性は「低い〜非常に低い」と評価され、追跡期間も短めです。
日本でよく使われる酸化マグネシウムについては、ガイドラインが「腎機能が正常な小児の通常量では、血液中のマグネシウムの上昇は軽度」としつつ、腎機能が低下している子と、乳児の長期投与には注意が必要としています。
どの薬をどれだけ使うかは、小児科で決めることです。お伝えしたいのは、「薬に頼りたくないから様子を見る」が、いちばん長引かせる選択になりうるということです。
5|水分・食物繊維・ヨーグルト・運動
家庭でできることとして、よく挙がる4つです。研究の結論は、思ったより控えめでした。
- 水分:脱水がなければ、水分を増やすことの有効性は明らかではありません
- 食物繊維:偽薬より有効とする根拠はありますが、限定的です。ガイドラインは「増やすことを試みる」よう勧めています
- 乳酸菌・ヨーグルト:コクランレビュー(14試験・1,127人)の結論は「有効と結論する根拠は不十分」
- 運動:こどもの便秘に対する比較試験は、存在しませんでした。ガイドラインは「関係は明らかでないが、適度な運動を勧めてよい」としています
どれも、やって悪いことではありません。ただ、「水を飲ませていれば治る」「ヨーグルトで治る」とは言えない、というのが現時点の正確な書き方です。すでに悪循環に入っている子には、生活の工夫だけでは届かないことが多いのです。
6|トイレで、できること
ガイドラインが勧めている生活上の工夫は、次のようなものです。
- 食後にトイレに座る習慣をつける。食事のあとは腸が動きやすい時間です
- 便意を我慢させない。「あとでね」を減らす
- 出なくても叱らない。出たらほめる。ごほうびは有用とされています
トイレトレーニングについても記載があります。トイレトレーニングは便秘のきっかけや悪化の原因になりうること、そして便秘のある子は、治療で排便のリズムが整ってから始めること。先に便秘を治すほうが、結局は近道です。
足台についても触れておきます。大人の研究では、足を台にのせて膝を上げた姿勢のほうが、いきみが減り、出しきった感じが得られやすいと報告されています。ただ、こどもで確かめた比較試験は見つかりませんでした。大人用の便座で足がぶらぶらしているなら、台を置くのは理にかなった工夫ですが、「足台で便秘が治る」とまでは言えません。
7|受診を急いだほうがいいサイン
ガイドラインが「別の病気が隠れていないか確認が必要」としているものです。
- 生まれて最初の便(胎便)が出るのが遅かった
- 体重が増えない、減っている
- 繰り返し吐く
- 血が混じる
- お腹が強く張っている
- 肛門の位置や形が気になる、腰やお尻の皮膚にくぼみ・毛・あざがある
そこまでではなくても、パンツに便がつく、我慢するしぐさがある、出すときに痛がる・切れる、週に2回以下、長く続いている——このあたりは、様子見をやめて小児科に相談する目安です。
8|保健室でお手伝いできること
便秘の診断と薬の処方は、小児科の仕事です。そのうえで、女性とこどもの保健室でできることがあります。
- 「受診するほどなのか」を一緒に見る——回数ではなく、出るときの様子から看護師がうかがいます
- トイレの環境と姿勢を整える——足がつくか、座っていられるか。理学療法士が見ます
- トイレトレーニングの進め方——焦って始めて悪循環に入るケースを、保育士はよく見ています
- 薬を続けることへの不安を聞く——「いつまで飲むの」という気持ちは、もっともです。ガイドラインに何が書いてあるかを、一緒に確認できます
- お母さん自身の便秘——妊娠中・産後は、ご本人も出にくくなりやすい時期です。骨盤底の話とつながります
9|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 日本の3歳児の12.3%が便秘にあたります。毎日出ていても、硬い・痛い・嫌がるなら便秘かもしれません。
- 便秘は、待つほど進みます。痛いから我慢する、たまるから感じなくなる、の二重の輪です。
- 治療は「出しきる→空を保つ」の順。維持には6〜24か月かかるのがふつうです。
- 「下剤は癖になる」ことを示す根拠はありません。治療が足りないことのほうが問題です。
- 水・ヨーグルト・運動だけで治るとは言えません。我慢するしぐさ、パンツの汚れ、痛みがあれば小児科へ。
「そのうち出る」は、たいてい本当です。ただ、そのあいだに次の便がまた硬くなっています。早めに、輪を止めてあげてください。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 日本小児栄養消化器肝臓学会・日本小児消化管機能研究会編『小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン』2013年(2025年に改訂版が刊行されています。本記事の記載は公開されている2013年版にもとづきます)
- Koppen IJN, et al. Prevalence of Functional Defecation Disorders in Children: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Pediatr. 2018;198:121-130.e6.
- Nakamura M, et al. BMC Pediatr. 2021;21:419.(エコチル調査・71,878組)
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- Wegh CAM, et al. Nonpharmacologic Treatment for Children with Functional Constipation: A Systematic Review and Meta-analysis. J Pediatr. 2022;240:136-149.
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