【毎日コラム】「冷え」について、正直に言えるところまで —— 分かっていることと、いないこと

朝晩が冷えるようになり、「そろそろ冷えがつらい季節です」というお声を聞くようになりました。
冷えは、女性の健康の話題でいちばんよく登場するテーマかもしれません。そして同時に、研究で確かめられていることが最も少ないテーマの一つでもあります。今回は、そこを正直に書きます。
1|まず、「冷え症」は診断名ではありません
意外に思われるかもしれませんが、冷え症には統一された診断基準がありません。査読論文の中でも「hieshoの正確な症状は明確に定義されておらず、冷え症かどうかの判定は自覚に基づく主観的なものである」と明記されています。
そのため、有病率の数字も測り方でまったく変わります。
- 厚生労働省の国民生活基礎調査(2022年)で「手足が冷える」と答えた人:女性32.6・男性15.1(人口千対)。つまり女性の約3.3%
- 学生1,146人への質問紙調査で「自分は冷え症」と答えた人:女性55.6%・男性23.2%
- 女子大学生215人で診断基準に該当した人:42%
- 全国14病院の女性看護師1,138人:日常的な冷えの自覚44.3%
3%と55%。10倍以上違いますが、どちらも正しい数字です。公的統計は「ここ数日の自覚症状」を聞いており、質問紙研究は「日頃の冷え症の自覚」を聞いている——聞き方が違うだけです。
確かなのは、どの調査でも女性が男性より多いこと。公的統計では約2.2倍でした。
2|「筋肉をつければ冷えは治る」は、支持されていません

確認できること——筋肉量が多いほど、安静時に体が作る熱の総量は多い。これは強い相関(r = 0.84)で確認されています。
確認できないこと——同じ研究で、骨格筋量は「寒いときに熱産生を増やす能力」とは相関しませんでした。むしろ関係していたのは褐色脂肪組織の量でした。そして皮膚の血流も、手足の皮膚温も、筋肉量とは関連していませんでした。
もう一つ。安静時、骨格筋は単位重量あたりでは低代謝の組織です。1kgあたりの熱産生は、内臓や脳の約4分の1しかありません。
そして前回のコラムで触れた研究では、産後4週の体幹筋肉量は、産後4か月の痛みの持続と関連しませんでした。
手足の冷えは、熱をどれだけ作れるかより、末梢の血管がどれだけ開くかの問題です。そして、そこと筋肉量の関連は示されていません。
誤解のないように書きますが、筋トレが無意味という話ではありません。骨のため、転倒予防のため、腰痛のために運動は強く推奨されます。ただ「筋肉をつければ冷えは治る」という説明には、いまのところ裏づけがない、ということです。
3|「冷えは不妊の原因」「冷えが月経痛を招く」について
この2つは、非常によく目にします。今回、査読付きの文献をあたりました。
冷え症と不妊の関連を示した査読論文は、見つかりませんでした。
冷え症と月経困難症の関連を検証した査読論文も、見つかりませんでした。
近いものとして、若年女性432人の研究で「重度の月経痛がある人は、冷たさに対する痛みの感じやすさが高い」という報告はあります。ただしこれは「冷え症」ではなく「冷刺激への痛覚感受性」の話で、別の概念です。
「関連がない」と証明されたわけではありません。「調べた研究が見当たらない」という状態です。ただ、根拠があるかのように語られてきたことは確かで、そこは訂正しておきたいと思いました。
4|では、何か確認されていることはあるのか
あります。数は少ないですが。
妊娠と分娩について、日本の産後女性2,810人を対象にした研究で、35〜39歳で冷え症がある場合、早産(オッズ比3.51)、微弱陣痛(2.94)、遷延分娩(2.56)との関連が報告されています。
ただしこれは後ろ向きの調査で、喫煙・BMI・基礎疾患などの調整が限られており、信頼区間も非常に広いものでした。因果とは言えません。
睡眠・生活習慣との関連では、女性看護師1,138人の調査で、冷えを自覚している群は運動・食事の規則性・休養・睡眠の規則性・睡眠の充足感のスコアが有意に低いことが示されています。ただし横断研究なので、冷えが原因なのか結果なのかは分かりません。
5|対策について、確認できたもの
漢方(当帰四逆加呉茱萸生姜湯)——末梢の冷えを訴える女性58人のランダム化比較試験で、冷水負荷のあとの末梢血流量の回復が有意に良好でした。ただし皮膚温の回復には差がありませんでした。対照群は無治療で、盲検化もされていません。
複合セルフケア(妊婦)——冷えのある妊婦140人のランダム化比較試験で、レッグウォーマー+運動+ツボ押しを4週間行ったところ、サーモグラフィで上肢+3.0℃、下肢+1.93℃の改善がありました。ただし3つを組み合わせた介入なので、運動だけの効果は分けられません。また評価項目が皮膚温で、自覚症状ではありません。
運動単独——冷え症を対象に運動だけを介入としたランダム化比較試験は、見つかりませんでした。
入浴・足浴——冷え症を対象とした試験は見つかりませんでした。
正直に言えば、冷え症の介入研究は数が非常に少なく、規模が小さく、対照が無治療で、評価項目も皮膚温や血流量という代理指標に偏っています。「本人がラクになったか」を主要な評価項目にした試験は、確認できませんでした。
6|受診したほうがいい「冷え」があります
ここは、今日いちばん実用的な部分かもしれません。
レイノー現象という状態があります。寒さやストレスで指先の血管が発作的に縮み、指が白くなり、次に紫、そして赤くなるといった色の変化を起こすものです。一般人口の約4.85%に見られ、女性に多く、家族歴があると大きく増えます。
レイノー現象には、基礎疾患のない一次性と、膠原病などに伴う二次性があります。二次性、特に全身性強皮症に伴うものでは、指の血流障害が進むことがあります。 一次性か二次性かで、やるべきことがまったく違います。
ほかにも、甲状腺機能低下症、貧血、末梢動脈疾患、糖尿病による神経障害など、「冷え」として感じられる病気があります。
次のような場合は、冷え対策ではなく受診をおすすめします。
- 指の色が、はっきり変わる(白→紫→赤など)
- 片側だけ冷たい
- しびれや痛みを伴う
- 指先に傷ができて治りにくい
- 急に始まった、または急に悪化した
- 関節の痛みや腫れ、皮膚の硬さを伴う
「体質だから」で済ませないでいただきたいのは、この部分です。
7|それでも、冷えは「気のせい」ではありません
ここまで「根拠がない」を並べてきました。でも、誤解しないでいただきたいことがあります。
つらいという事実は、研究の有無とは関係なく存在します。
公的統計でも、女性の32.6(人口千対)が「手足が冷える」と答えています。自覚ベースの調査では4〜5割です。これだけの人が困っている。研究が追いついていないだけです。
研究が少ない理由も、おそらく単純です。定義が定まっていないので、何を測ればいいか決まらない。診断名がないので、研究費もつきにくい。そして、命に関わらないと見なされてきた。
月経痛が「我慢するもの」とされてきたのと、同じ構造だと思っています。
8|保健室でお手伝いできること
効くと証明されたものが少ない以上、私たちができることも限られます。そのうえで、できることを正直に書きます。
- 受診が必要なものを見分ける——上記のサインがあれば、内科や膠原病内科、血管外科をご案内します。これがいちばん価値のある部分かもしれません
- やせと栄養を確認する——女子大学生の調査では、BMIが低いほど冷えを訴えやすいという関連が報告されています。以前のコラムで書いた「やせ」の問題と、ここはつながります
- 生活のリズムを一緒に見る——冷えの自覚と、睡眠・食事の規則性の低さには関連が報告されています。因果は分かりませんが、整えて損はありません
- 運動を、冷え以外の理由で続ける——骨、腰痛、転倒予防。これらには確かな根拠があります
- 高いものを勧めない——冷え対策として売られている機器やサプリに、効果が確認されたものは見当たりません
9|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 冷え症に統一された診断基準はありません。有病率が3%から55%まで振れるのは、そのためです。
- 「筋肉をつければ冷えは治る」は支持されていません。安静時の熱産生とは相関しますが、末梢の冷えとは関連が示されていません。
- 「冷えは不妊の原因」「冷えが月経痛を招く」を示した査読論文は見つかりませんでした。
- 指の色が変わる、片側だけ、しびれを伴う、急に始まった——これらは受診を。治療の必要な病気が隠れていることがあります。
- 研究が少ないことと、つらくないことは、別です。困っていれば、相談してください。
効くと証明されていないものを「効きます」と言って売らない。それが、この記事でいちばんお伝えしたかったことです。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」第9表 有訴者率
- Sakaguchi S, et al. Extraction of items identifying hiesho (cold disorder) and their utility in young males and females. J Integr Med. 2016;14(1):36-43.
- Kimura T, Asami T. J Integr Med. 2016;14(6):436-446.
- 三の丸ゆかり ほか「女子大学生における冷えの実態と生活習慣」日本食生活学会誌. 2016;26(4):197-204.
- Suzuki M, Tsuchida T, Ibe A. Int J Nurs Stud Adv. 2024;6:100208.(全国10県14病院の女性看護師1,138名)
- Wakabayashi H, et al. Eur J Appl Physiol. 2020;120(12):2737-2747.(骨格筋量・褐色脂肪と寒冷時の熱産生)
- Heymsfield SB, et al. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2002;282(1):E132-8.(組織別の安静時熱産生係数)
- Nakamura S, Horiuchi S. Open Nurs J. 2013;7:142-148.(日本の産後女性2,810名・冷えと分娩転帰)
- Nishida S, et al. BMC Complement Altern Med. 2015;15:105.(漢方のランダム化比較試験・58名)
- Nakamura S, Horiuchi S. J Altern Complement Med. 2017;23(1):53-59.(妊婦140名の複合セルフケアRCT)
- Garner R, et al. Prevalence, risk factors and associations of primary Raynaud’s phenomenon: systematic review and meta-analysis of observational studies. BMJ Open. 2015;5(3):e006389.
- Pauling JD, Hughes M, Pope JE. Raynaud’s phenomenon—an update on diagnosis, classification and management. Clin Rheumatol. 2019;38(12):3317-3330.
- Slater H, et al. Pain. 2015;156(12):2468-2478.(月経痛と冷刺激への疼痛感受性)
※本記事の作成にあたり、冷え症と不妊・月経困難症の関連については査読付き文献を検索しましたが、該当する研究を確認できませんでした。「関連がない」ことが証明されたわけではなく、検証した研究が見当たらないという状態です。


