【毎日コラム】「上の子がいると言葉が育つ」は本当か —— きょうだいと、こどもの言葉の研究

読書の秋です。図書館の掲示が変わり、学校でも読書週間の案内が配られはじめる時期になりました。
この季節によく聞くのが、こんな言葉です。「下の子のほうが、口が達者で」「上の子は言葉がゆっくりだった気がする」。きょうだいの並びと、ことばの育ち。今回は、ここに研究が何を言っているのかを見ていきます。
先に申し上げておくと、結論は「どちらとも言える」です。そして、その理由がいちばん面白いところでした。
1|小学1年生の作文で、こんな結果が出ました
大阪大学の研究者が2019年に発表した調査があります。大阪府北部の小学校3校で、1年生92人に自由作文を書いてもらい、保護者87人に家庭の状況をたずねたものです。
この研究で「文章力」として測られたのは、作文で書いた文字数でした。構成の巧みさや誤字脱字は問いません。著者は「文字を習いたての小1の段階では、多くの文字を書く行為そのものを力として把握できる」と説明しています。

年上のきょうだいがいる子(末子)が最も長く書き、年下のきょうだいしかいない子(長子)がいちばん短い。見出しだけ読むと「やはり上の子の影響はある」と言いたくなる結果です。
2|ただし、この研究の中身は慎重に読む必要があります
ここは正確にお伝えします。
まず、この4グループの差に、有意差の検定は行われていません。76.4字と67.6字の差は、記述統計の数字です。標準偏差は24〜40字と大きく、ばらつきのほうが群間の差よりずっと大きい。
統計的に分析した部分でも、「年上のきょうだいがいる」の効果は10%水準にとどまりました。研究の世界で一般的に「差がある」とされる5%水準には届いていません。著者自身も本文で「10%水準であるとは言え」と断っています。
さらに、きょうだいの人数・出生間隔・性別の組み合わせは把握されておらず、著者は「きょうだい関係の把握は精緻さに欠ける」と明記しています。2007年の調査で、対象は3校70〜92人。全国を代表するものではありません。
3|本当に面白いのは、その先でした
この論文の核心は、実は別のところにあります。
著者が「保護者の職業」と「年上きょうだいの有無」を掛け合わせて分析し直したところ、それぞれ単独では効果が消え、組み合わさったときだけ効果が残りました。
著者の結論を引用します——「年上のきょうだいがいることは単独で『文章力』を高める要因とはなりえず、双方がそろうことで高めるようになる」。そして、この関係はホワイトカラー職の家庭で限定的に確認され、ブルーカラー職の家庭では確認されなかった。
これは、何を意味しているでしょうか。
私はこう読みました。「上の子がいること」そのものが子どもの言葉を育てているのではない。上の子がいると、その家庭にもともとある「書く習慣」が、下の子まで届きやすくなる——届く習慣がある家庭では。
つまり、効いているのはきょうだいの並びではなく、家庭の中で言葉がどう使われているかのほうです。そして後者は、変えられます。
4|逆向きの結果も、出ています
混乱させるようで恐縮ですが、同じ「きょうだいと言葉」について、反対方向の知見もあります。しかもこちらのほうが、データの規模は大きいのです。
2025年、浜松の出生コホート研究から発表された論文です。4〜5歳の子ども755人(第一子437人、年上きょうだいが1人いる第二子318人)の言語性IQを比較したところ、第二子のほうが有意に低いという結果でした。
一方、動作性IQ——言葉を使わない課題——には差がありませんでした。つまり、言葉に限った差だということです。
フランスの1万2,296人を対象にした研究でも、同じ方向の結果が出ています。年上のきょうだいが1人増えるごとに、2歳時点の表出語彙がわずかに少なくなる。そしてこの効果は、親との関わりの量に部分的に説明されることも示されました。
説明として有力なのは「資源の希釈」——きょうだいが増えると、一人あたりが親と一対一で話す時間が減る、という考え方です。
5|矛盾ではありません。測っているものが違います
4〜5歳の言語性IQと、小学1年生が書いた作文の文字数。年齢も、測っているものも別です。だから両方が成り立ちます。
そしてもう一つ、どちらも共通していることがあります。効果が、とても小さいということです。
浜松の研究で、年上きょうだいの有無が説明できたのは、子どもの言語スキルのばらつきのうちおよそ0.6%でした。残りの99%以上は、別の要因です。
ここは、強調させてください。「第二子だから言葉が遅い」という読み方は、このデータからはできません。きょうだい構成は、わが子の言葉を左右する要因のうち、ごく小さな一つです。そして、変えられない一つでもあります。
なお同じ研究では、きょうだいの性別(兄か姉か)は関係がなかったこと、年齢差が小さいほど第二子の言語スキルは高かったことも報告されています。「年子は大変」とよく言われますが、言葉に関しては、近いほうがむしろ有利だったということになります。
6|「3000万語の差」という話は、いま揺れています
子どもの言葉の話でよく引用されるのが、「3歳までに聞く言葉の数に、家庭によって3000万語の差がある」という研究です(Hart & Risley, 1995)。
この数字は、いま研究者のあいだで議論になっています。
2019年、別のグループが5つのコミュニティで同様の家庭観察を行い、この主張を支持しない結果を報告しました。理由の一つは、元の研究が複数の養育者の発話や、子どものまわりで交わされる会話を数えていなかったこと。それらを含めると、低所得家庭の子が耳にする語数は大きく過小評価されていた、という指摘です。
もう一つ重要なのは、同じ社会経済階層の中でも、家庭による差が非常に大きかったこと。「この層の家庭の子は語彙が少ない」という決めつけは、データが支持していません。
一方、元の研究を擁護する側は「重要なのは周囲で交わされる会話ではなく、子どもに向けられた質の高い発話だ」と反論しています。議論はまだ続いています。
現時点で言えるのは、「3000万語」という数字を確定した事実として扱うべきではないこと。ただし「家庭の言語環境が語彙に関係する」こと自体は、誰も否定していません。
7|量より、往復でした
では、何が効いているのか。この問いに、かなり明確な答えを出した研究があります。
4歳半から6歳の子ども36人の家庭に録音機を置き、16時間×2日ぶんの会話を記録。同時に言語テストとMRIを行ったものです。

子どもの言語得点を最もよく予測したのは、大人が話した語数でも、子どもが話した語数でもなく、会話のターン数——やりとりが何往復したかでした。
さらに、家庭の社会経済的な背景をそろえて比べ直すと、独自の説明力が残ったのはターン数だけ。大人の語数は、説明力を失いました。
そしてターン数が多い子ほど、言語に関わる脳の領域(左下前頭回)の活動が大きくなっていました。この脳活動が、ターン数と言語得点の関係のおよそ半分を説明していたといいます。
ただし36人の小規模な研究で、示されたのは関連であって因果ではありません。「往復を増やせば脳が育つ」と証明されたわけではない、という点は押さえておいてください。
それでも、実践としては十分に示唆的です。たくさん話しかけることより、子どもの言葉を受けて返すこと。「電車だね」で終わらせず、「どこまで行くんだろうね」と返す。返ってきたら、また返す。
そしてこれは、上の子がいてもいなくても、ひとりでもできます。
8|読み聞かせは、家庭の条件によらず効いていました
もう一つ、はっきりした根拠があるものを挙げます。読み聞かせです。
複数の研究をまとめたメタ分析が2つあり、どちらも効果量 d ≒ 0.59——中程度の効果を報告しています。これは、子どもの発達に関わる介入としては、かなりしっかりした数字です。
保健室として大事だと思うのは、次の3点です。
- 効果は、家庭の社会経済的な背景に左右されませんでした。どの家庭でも同じように効いていた、ということです。
- いちばん恩恵が大きいのは2〜3歳ごろ。4〜5歳になると効果は小さくなり、自分で読めるようになるとさらに小さくなります。
- ただ読むより、問いかけながら読む(対話型)ほうが上乗せがありました。「このあとどうなると思う?」「これ、なんだろうね?」——ここでも、往復です。
9|日本の子どもの、いまの状況
令和7年度の全国学力・学習状況調査によると、小学6年生のうち平日に読書を「全くしない」と答えた子は29.0%、中学3年生では41.6%でした。どちらも前回より増えています。
一方で、PISA2022の読解力で日本は516点・OECD加盟国中2位。国際的に見れば、日本の子どもの読解力は高い水準にあります。
同じ調査では、家にある本の冊数が多い子ほど平均正答率が高いという傾向も報告されています。ただし報告書自身が「相関関係をみたものであり、因果関係を示したものではない」と明記しています。本を買い足せば成績が上がる、という話ではありません。
10|保健室でお手伝いできること
女性とこどもの保健室には、理学療法士・助産師・看護師・保育士がいます。ことばの発達についても、よくご相談をいただきます。
多いのは、上の子と比べてしまうというお悩みです。「上の子はこの時期もう喋っていたのに」。逆に「下の子ばかり早くて、上の子が気の毒で」という方もいらっしゃいます。
以前のコラムでも書きましたが、発達には「幅」があります。そして今回の研究が示しているのは、きょうだいの並びで説明できる部分は、思っているよりずっと小さいということでした。
流山本院は保育士・看護師による託児付きです(生後1か月からお預かりしています)。上の子を連れてきていただいても構いませんし、預けてゆっくりお話しいただくこともできます。「下の子を見ながらでは、上の子とじっくり話せない」——その困りごと自体が、今日の話のど真ん中にあります。
ことばの発達で気になる点がある場合は、必要に応じて専門機関をご案内します。そこまでではない段階のご相談が、いちばん多くいただいている内容です。
11|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 「上の子がいると言葉が育つ」は、条件つきでした。効いていたのは、きょうだいの並びより家庭の中の言葉の使われ方です。
- 4〜5歳の語彙では、第二子のほうがやや低い傾向。ただし説明できるのは全体の0.6%程度です。
- 「3000万語の差」は、確定した事実ではありません。同じ階層の中の家庭差のほうが、ずっと大きいと指摘されています。
- 効いていたのは、話しかけの量ではなく往復の回数。「電車だね」で終わらせず、返ってきた言葉に返す。
- 読み聞かせは、どの家庭でも同じように効いていました。2〜3歳が最も恩恵が大きく、問いかけながら読むと上乗せがあります。
きょうだいの並びは、選べません。選べるのは、今日の夜、何往復するかのほうです。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 前馬優策「小学1年生の『文章力』に与える年上きょうだいの影響」大阪大学大学院人間科学研究科紀要. 2019;45:147-161. DOI: 10.18910/71838
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- 文部科学省・国立教育政策研究所「令和7年度 全国学力・学習状況調査 報告書 質問調査」2025年8月
- 国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント」


