【毎日コラム】その子のペースは、ちゃんと範囲内 —— 発達を「幅」で見るということ

健診の前になると、母子手帳を開いて何度も確認してしまう。同じ月齢の子がもうハイハイしているのを見て、胸がざわつく。SNSで「◯か月で歩きました」という投稿を見て、また不安になる。
この記事でお伝えしたいことは、ひとつです。発達の正常範囲は、多くの方が思っているよりずっと広い。そして、その「広さ」は世界的な研究によってきちんと数字で示されています。
1|WHOがつくった「達成の窓」
WHOは、ガーナ・インド・ノルウェー・オマーン・米国の5か国で健康な子ども816人を、1年目は毎月、2年目は隔月で追跡し、6つの運動発達の「達成の窓(windows of achievement)」を定めました。
この窓の設計には、はっきりしたメッセージが込められています。両端は1パーセンタイルと99パーセンタイルで、窓の内側には区分線を設けていない——つまり「この幅の中ならどこでも正常」ということです。

数字で並べると、こうなります。
| できるようになること | 1パーセンタイル | 中央値 | 99パーセンタイル |
|---|---|---|---|
| 支えなしで座る | 3.8か月 | 5.9か月 | 9.2か月 |
| 支えられて立つ | 4.8か月 | 7.4か月 | 11.4か月 |
| はいはい(四つばい) | 5.2か月 | 8.3か月 | 13.5か月 |
| 支えられて歩く | 5.9か月 | 9.0か月 | 13.7か月 |
| つかまらず立つ | 6.9か月 | 10.8か月 | 16.9か月 |
| ひとり歩き | 8.2か月 | 12.0か月 | 17.6か月 |
(WHO Multicentre Growth Reference Study Group, Acta Paediatrica Supplement, 2006;450:86-95)
ひとり歩きの窓は9.4か月分の幅があります。8か月で歩き出す子と、1歳半近くで歩き出す子が、どちらも同じ「正常」の中にいる。中央値12.0か月の前後に、これだけの余白があります。
そして、はいはいをしない子は4.3%
同じ研究で、816人のうち4.3%は四つばいの「はいはい」をしませんでした。そして共通の順序で5つのマイルストーンを達成したのは約90%——つまり10人に1人は順序が違います。
「うちの子はハイハイをしないまま立った」——それはWHOが世界の標準をつくったその集団の中に、はじめから含まれているパターンです。
2|日本のデータでも、確かめてみる
こども家庭庁の「令和5年乳幼児身体発育調査」(一般調査6,892人)による通過率です。
- 首のすわり:生後4〜5か月未満で93.5%
- ねがえり:6〜7か月未満で97.6%
- ひとりすわり:9〜10か月未満で91.7%
- はいはい:10〜11か月未満で91.0%
- つかまり立ち:11〜12か月未満で96.3%
- ひとり歩き:1年4〜5か月未満で96.9%
ここで大事な注意点があります。この「通過率90%以上になる月齢」は、「その月齢までにできないと異常」という意味ではありません。WHOの窓のような信頼区間つきの正常範囲ではなく、保護者の回答を集計した割合です。
むしろ興味深いのは、2010年の調査との比較です。ひとり歩きが90%を超える月齢は、2010年の「1年3〜4か月」から2023年には「1年4〜5か月」へと、1か月分うしろにずれています。集団全体がゆっくりになっているということで、個々の子の問題ではありません。
3|歩き始めが遅いと、その後どうなるのか
ここは、研究結果が一致していない領域です。だから正直に書きます。
スイスの健康な就学前児555人を調べた研究のタイトルは、そのまま結論になっています——「Walking onset: a poor predictor(歩行開始は、予測因子として不十分)」。歩行開始の遅さと、就学前期後半の運動スキル・認知スキルの低さに関連は認められましたが、著者らの結論は「歩行開始が遅い児については、通常の小児科健診で発達を注意深くモニターすることが妥当かもしれない」という穏やかな表現にとどまっています。(Messerli-Bürgy N ら, BMC Pediatrics, 2021;21:367)
米国の599人のコホート(4歳時に発達検査)では、もっと明確です。6つのマイルストーンのうち、後の発達得点を予測したのは「支えられて立つ」だけで、ひとり歩きの月齢は予測しませんでした。そして双子に限った解析では、在胎週数と出生体重を調整すると、マイルストーンと発達得点の関連は消えました。(Ghassabian A ら, Pediatrics, 2016;138(1):e20154372)
これが示しているのは、マイルストーンの遅れそのものが原因ではなく、背景にある要因のマーカーである可能性です。「歩くのが遅いから、この先が心配」という直線的な読み方は、データが支持していません。
4|うつぶせ遊び(tummy time)について、正確に
16の論文・8か国・4,237人を対象にした系統的レビューの結果を、期待しすぎず整理します。
- 肯定的な関連が認められた:粗大運動発達、総合的発達、BMI-zスコアの低下、短頭症(brachycephaly)の予防、腹臥位・背臥位・はいはい・寝返りでの動きの能力
- 判定できなかった:社会性・認知の領域、位置的頭蓋変形(plagiocephaly)、歩行、立位、座位
- 関連が認められなかった:微細運動発達、コミュニケーション
著者らは「ほとんどが観察研究で、選択バイアスと実施バイアスが大きい」と限界も明記しています。(Hewitt L ら, Pediatrics, 2020;145(6):e20192168)
WHOのガイドラインは、まだ移動できない乳児に「1日を通して合計30分以上の腹臥位」を推奨しています。ただしこの推奨は「強い推奨だが、エビデンスの質は非常に低い」と自ら注記しています。(WHO, Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age, 2019)
つまり——やったほうがよさそうだが、できない日があっても問題ではない。うつぶせを嫌がって泣く子に無理をさせる根拠にはなりません。
5|頭の形が気になる方へ(ここはいちばん安心できるデータです)
向き癖による頭の形の変形(位置的頭蓋変形)は、まれではありません。カナダで2か月健診を受けた440人を調べた研究では、生後7〜12週での発生率は46.6%。ただしそのうち78.3%は軽度でした。(Mawji A ら, Pediatrics, 2013;132(2):298-304)
そして自然経過を追った研究の結果が、たいへん心強いものです。頭蓋変形と診断された129人を3〜4歳で追跡したところ——
- 61%の頭の計測値が正常範囲に戻り、重度のまま残ったのは4%
- 顔面・前頭部の左右差は「ほぼ消失」
- 保護者の心配は「かなり心配」85% → 13%に減少
- 乳児期に発達の遅れが1つ以上あった児は41% → 11%に減少
著者らはこれを「劇的な改善(dramatic improvement)」と表現しています。(Hutchison BL ら, Archives of Disease in Childhood, 2011;96(1):85-90)
介入の効果も検証されています。生後7週で向き癖のある65人を理学療法群と通常ケア群に分けたランダム化比較試験では、重度の頭蓋変形になるリスクが6か月時点で46%低下(相対リスク0.54)、12か月時点で57%低下(0.43)。治療必要数(NNT)は12か月時点で3.13——3人が理学療法を受ければ1人の重度変形が防げるという水準です。追跡時点で向き癖が残っていた子はゼロでした。(van Vlimmeren LA ら, Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine, 2008;162(8):712-718)
なお米国神経外科学会議の系統的レビューは、睡眠環境でのポジショニング枕の使用に警告が出ていることを踏まえ、ポジショニング器具よりも理学療法を推奨しています。(Klimo P Jr ら, Neurosurgery, 2016;79(5):E627-E629)
ちなみにこの理学療法のRCTでは、運動発達には介入群と通常ケア群で差がありませんでした。頭の形へのアプローチは、頭の形に効く——過大な期待をしないほうが、かえって安心して取り組めると思います。
6|スクリーンタイムは「どちら向き」の話なのか
日本には、この問いに答える大きなデータが2つあります。
エコチル調査(母子57,980組)の研究は、1歳・2歳・3歳を双方向でモデル化しました。結果は——
- スクリーンタイムの増加 → その後の発達得点の低さ(2歳 β = −0.05/3歳 β = −0.08)
- そして逆方向も有意:発達(コミュニケーション領域)の得点の低さ → その後のスクリーンタイムの増加(2歳 γ = −0.03/3歳 γ = −0.06)
(Yamamoto M ら, JAMA Pediatrics, 2023;177(11):1168-1175)
βは −0.05〜−0.08 と非常に小さく、しかも「発達がゆっくりな子ほど、その後スクリーンタイムが増える」という向きの関連も同時に存在します。つまり「見せたから遅れた」とは限らない。関わりにくい時期に頼らざるを得なかった、という順番もある、ということです。
もうひとつ、東北メディカル・メガバンクの三世代コホート(7,097組)は、リスクの「量」を見せてくれます。1歳時のスクリーンタイムを4群に分けたところ——
- 顕著にリスクが上がったのは1日4時間以上の群(全体の4.1%)で、2歳時のコミュニケーション領域の遅れがオッズ比4.78
- ただし4歳時点まで関連が残ったのは、コミュニケーションと問題解決の2領域だけ
- 粗大運動については、2歳・4歳のいずれでも有意な関連が報告されていません
(Takahashi I ら, JAMA Pediatrics, 2023;177(10):1039-1046)
WHOの推奨は、1歳児はスクリーンタイムを推奨しない、2歳児は1時間を超えない、3〜4歳も1時間を超えない。こちらも「強い推奨だが、エビデンスの質は非常に低い」という注記つきです。
30分見せてしまった日を責めるより、4時間を超える日が続いていないかを見る。データの使い方としては、そのほうが正確です。
7|WHOが示している「1日の過ごし方」の目安
年齢別に整理します(いずれも強い推奨/エビデンスの質は非常に低い)。
| 体を動かす | 座りっぱなし | 睡眠 | |
|---|---|---|---|
| 1歳未満 | 床での遊びを1日数回。移動できない子は腹臥位を合計30分以上 | 1回1時間を超えて拘束しない。スクリーンは推奨しない | 0〜3か月 14〜17時間/4〜11か月 12〜16時間 |
| 1〜2歳 | 1日合計180分以上(強度は問わない) | 1歳はスクリーン非推奨/2歳は1時間以内 | 11〜14時間 |
| 3〜4歳 | 1日合計180分以上、うち60分以上は中〜高強度 | スクリーンは1時間以内 | 10〜13時間 |
8|それでも気になるときは
ここまで「幅がある」という話をしてきましたが、気になることを相談しないほうがいい、という話ではありません。
日本の乳幼児健診の受診率は、1歳6か月児健診が96.9%、3歳児健診が96.0%(令和5年度)。(厚生労働省「令和5年度 地域保健・健康増進事業報告」)ほぼ全員が受けている、相談の場です。
そして向き癖については、早めのほうが効果が出やすいことがデータで示されています(改善不良だった児は、来院が遅かった児に多い)。「様子を見る」と「放っておく」は違います。
目安としては——
- WHOの窓の上限(99パーセンタイル)を超えているとき。ひとり歩きなら1歳6か月を過ぎたあたり
- 一度できていたことが、できなくなったとき
- 向き癖が強く、同じ方向ばかりを向いているとき(これは早めに)
- 親として、なんとなく気になり続けているとき
最後のひとつが、いちばん大事だと思っています。
9|保健室でしていること
流山本院には、理学療法士・助産師・看護師・幼稚園教諭・保育士が多職種チームでいます。お子さんの発達のご相談では、いま何ができているかを実際に見て、次に出てきそうな動きと、その手助けの仕方をお伝えしています。
向き癖や頭の形のご相談も多くいただきます。上でご紹介した研究が示すとおり、ポジショニングと理学療法には、数字で確かめられた効果があります。そして多くは時間とともに戻っていく——その両方を正確にお伝えするのが、私たちの役割だと考えています。
お子さんをお預けいただける託児(生後1か月から)もあるので、「発達のことを落ち着いて相談したいけれど、抱っこしながらでは話せない」というときにもお使いください。
そして——比べなくていい、と言われても比べてしまうのが親です。その気持ちごと、相談に来ていただければと思います。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- WHO Multicentre Growth Reference Study Group「WHO Motor Development Study: Windows of achievement for six gross motor development milestones」Acta Paediatrica Supplement. 2006;450:86-95. PDF/WHO解説
- こども家庭庁「令和5年乳幼児身体発育調査」ページ
- Messerli-Bürgy N ら「Walking onset: a poor predictor for motor and cognitive skills in healthy preschool children」BMC Pediatrics. 2021;21:367. 論文
- Ghassabian A ら「Gross Motor Milestones and Subsequent Development」Pediatrics. 2016;138(1):e20154372. PubMed
- Hewitt L ら「Tummy Time and Infant Health Outcomes: A Systematic Review」Pediatrics. 2020;145(6):e20192168. PubMed
- World Health Organization「Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age」2019. WHO/推奨全文
- Mawji A ら「The incidence of positional plagiocephaly: a cohort study」Pediatrics. 2013;132(2):298-304. PubMed
- Hutchison BL ら「Deformational plagiocephaly: a follow-up of head shape, parental concern and neurodevelopment at ages 3 and 4 years」Archives of Disease in Childhood. 2011;96(1):85-90. PubMed
- van Vlimmeren LA ら「Effect of pediatric physical therapy on deformational plagiocephaly in children with positional preference: a randomized controlled trial」Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine. 2008;162(8):712-718. PubMed
- Klimo P Jr ら「Congress of Neurological Surgeons Systematic Review and Evidence-Based Guideline on the Management of Patients With Positional Plagiocephaly: The Role of Repositioning」Neurosurgery. 2016;79(5):E627-E629. PubMed
- Yamamoto M ら「Screen Time and Developmental Performance Among Children at 1-3 Years of Age in the Japan Environment and Children’s Study」JAMA Pediatrics. 2023;177(11):1168-1175. PubMed
- Takahashi I ら「Screen Time at Age 1 Year and Communication and Problem-Solving Developmental Delay at 2 and 4 Years」JAMA Pediatrics. 2023;177(10):1039-1046. PubMed
- 厚生労働省「令和5年度 地域保健・健康増進事業報告 結果の概要」PDF

