産後ケア

【毎日コラム】骨盤は「開いたまま」にはならない —— 産後の骨盤ケアで、研究が支持していること

産後の骨盤ケアのコラム、アイキャッチ画像。骨盤帯痛は妊娠中20%から産後2年で重度1%へ。

産後、腰や骨盤のあたりが痛い。抱っこするたびに響く。「骨盤が開いたままだから」と言われて、矯正に通ってみた——という話を、保健室ではよく伺います。

この記事では、その説明が研究と合っているのかを確かめます。先に結論をお伝えすると、「骨盤が開いたままだから痛む」という説明は、データと合いません

ただし、これは「痛みは気のせい」という話ではまったくありません。痛みは本物で、対処法もある。ただしその対処法は、多くの人が思っているものとは違う——という話です。


1|産後の痛みは、めずらしくない

まず頻度から確かめます。妊娠に関連する骨盤帯痛と腰痛についての研究レビューによれば、妊婦の約45%、産後の女性の約25%が骨盤帯痛または腰痛を経験しています。軽い訴えを除くと、この値は約20%減少します。(Wu WH ら, European Spine Journal, 2004

欧州のガイドラインはさらに詳しく、時間による変化を示しています。

  • 妊娠中に骨盤帯痛をもつ人の割合は20%近く
  • 産後、有病率は最初の3か月で7%へと急速に低下
  • 産後2年の時点で重度の痛みがあるのは、当初の集団の1%

Vleeming A ら, European Spine Journal, 2008;17(6):794-819

つまり、圧倒的多数の人は、時間とともに良くなっていきます。これは安心していただいていい事実です。

ただし同じガイドラインは、妊娠中に症状が重かった人では予後が悪く、21%が産後2年でも症状を残していたとも報告しています。ここが分かれ目です。

2|「骨盤が開いたまま」説を、研究で確かめる

では、なぜ痛むのか。よく聞く説明は「出産でリラキシンというホルモンが出て靱帯がゆるみ、骨盤が開く。それが戻らないから痛い」というものです。この説明を、ひとつずつ検証してみます。

① リラキシン値と骨盤帯痛の関連は「エビデンスが低い」

731件の文献から6件を精査したシステマティックレビューでは、質の高い研究4件のうち3件が、妊娠関連骨盤帯痛とリラキシン値のあいだに関連を見出しませんでした。著者らの結論は「両者の関連についてのエビデンスレベルは低い」です。(Aldabe D ら, European Spine Journal, 2012;21(9):1769-1776

② 関節のゆるみは、ホルモン値と相関しない

妊婦35人を対象に、手関節のゆるみと血清エストラジオール・プロゲステロン・リラキシンの値を調べた研究では、いずれとも有意な相関がありませんでした。著者の結論は「妊娠中に末梢関節のゆるみは増すが、その変化は母体のホルモン値とはよく相関しない」。(Marnach ML ら, Obstetrics and Gynecology, 2003;101(2):331-335

③ 触って「歪み」を判定することは、診断法として推奨されていない

欧州ガイドラインは、可動性テストや触診テストを診断目的では推奨しない(レベルD)としています。X線は「感度が低く診断価値なし」、CTは「被曝が大きく、無症状の人にも変性変化がみられる」としてどちらもレベルCで否定されています。(Vleeming ら, 2008)

④ 「矯正」手技の効果を示すランダム化比較試験は、存在しない

同ガイドラインは、マニピュレーション/モビライゼーション(いわゆる矯正的な手技)について「RCTもCCTも存在しない」と明記し、レベルDとしています。検証されているのは症状の一時的な緩和にとどまります。マッサージについても「単独では不可。個別化された多面的プログラムの一部としてのみ」という位置づけです。(Vleeming ら, 2008)

⑤ 腹直筋離開の有無は、痛みと結びついていない

初産婦300人を追跡した前向きコホート研究では、腹直筋離開のある人の割合は妊娠21週で33.1%、産後6週で60.0%、産後6か月で45.4%、産後12か月で32.6%と、着実に減っていきました。

そして決定的なのが次の一文です。「産後12か月時点で、腹直筋離開がある女性とない女性が報告した腰部骨盤痛の程度は同じだった」。(Sperstad JB ら, British Journal of Sports Medicine, 2016;50(17):1092-1096

骨盤帯痛は妊娠中20%から産後3か月で7%、産後2年で重度1%へ。腹直筋離開は産後6週60%から12か月で33%へ減少。
骨盤帯痛も腹直筋離開も、時間とともに確実に減っていきます。そして離開の有無は、痛みの程度と結びついていませんでした。

5つ並べると、輪郭がはっきりします。「開いて、戻らないから痛む」という物語を支える研究は、見当たりません。そして、それを「矯正」で治すという手法の効果を検証した試験も、存在しません。

3|では、何が効果があるのか

希望のある話をします。効果のあると分かっているものは、ちゃんとあります。

欧州ガイドラインが推奨しているのは次の通りです。

  • 個別化された運動(局所と全体の筋системを標的にした安定化運動)——非特異的な療法より優れる(レベルC)
  • 個別化された多面的プログラム(一人ひとりの評価にもとづくもの)(レベルC)
  • 情報提供と安心づけ——恐怖を減らし、能動的な参加をうながす(レベルD)
  • 骨盤ベルト——エビデンスは限定的だが、多面的アプローチの一部として(レベルD)

妊娠中の腰痛・骨盤痛への介入をまとめたコクラン・レビュー(34試験・5,121人)も、同じ方向を示しています。陸上での運動は腰痛を有意に軽減(標準化平均差 −0.64)し、機能障害も改善しました。一方で、骨盤痛「単独」に対する集団運動+情報提供では、有意差が出ませんでした(リスク比0.97)。8〜12週の運動プログラムを行った混合型では、痛みの報告が減り(リスク比0.66)、病気休暇も減少(リスク比0.76)しています。(Liddle SD, Pennick V, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2015

ここから読み取れるのは、「誰にでも同じ体操」ではなく「その人を評価したうえでの運動」が必要だということです。集団向けの一般的なプログラムでは、骨盤痛には届かなかった。だから個別のケアが必要不可欠、という順番です。

4|いちばん根拠が堅いのは、実は「骨盤」ではなく「骨盤底筋」

産後ケアの話題は骨盤の形に集まりがちですが、エビデンスがいちばん強いのは骨盤底筋のトレーニングです。

46試験・10,832人・21か国をまとめたコクラン・レビューによれば、尿もれのない妊婦さんが妊娠早期から構造化されたトレーニングを行うと、産後3〜6か月の尿失禁リスクが約29%低下します(リスク比0.71、5試験673人、高い質のエビデンス)。妊娠後期については約62%の低下(リスク比0.38、中等度の質)。

一方で、すでに尿もれがある人への治療効果については不確実とされています。(Woodley SJ ら, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2020

産後の尿もれ自体は、まれなことではありません。35,064人をまとめたメタ分析では、産後6週〜1年の尿失禁の有病率は31.0%。しかも産後3か月でいったん21%に下がったあと、産後12か月で32%に再び上昇しています。初産婦31%、経産婦30%と、出産回数による差はほとんどありませんでした。(Moossdorff-Steinhauser HFA ら, International Urogynecology Journal, 2021

「一人目のときは大丈夫だったのに」という方も、めずらしくないということです。

5|体のことと、気持ちのことは、切り離せない

国内の123研究・108,431人をまとめた解析によると、日本の産後うつ病の有病割合は産後1か月の時点で14.3%、産後1〜3か月で11.6%、6〜12か月で11.5%でした。(徳満敬大ら「国内における男女の周産期うつ病の有病割合」精神神経学雑誌, 2023;125(7):613-622

こども家庭庁の集計では、EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)で9点以上だった産婦は約9.8%。全産婦にこの質問紙を実施している市町村は89.9%に達しています。(こども家庭庁「令和5年度母子保健事業の実施状況等について」

そして、妊娠関連骨盤帯痛のある女性における抑うつの有病率は24%(11研究3,172人、産後に限れば15%)と報告されています。(Halliday B ら, Health Science Reports, 2024

ここでも運動が助けになります。13件のランダム化比較試験(1,307人)のメタ分析では、有酸素運動が産後の抑うつ症状を有意に軽減しました(標準化平均差 −0.44、EPDS換算で−1.54点)。集団での運動も、自分で選んだ運動も、どちらも有効とされています。(Pritchett RV ら, British Journal of General Practice, 2017;67(663):e684-e691

体が動くようになることと、気持ちが軽くなることは、別々のことではないのです。

6|「待つ」ことと「放っておく」ことは違う

ここまでの内容を整理します。

  1. 産後の骨盤帯痛も腹直筋離開も、多くは時間とともに軽快する。焦らなくていい
  2. ただし一部の人は残る。妊娠中に重症だった人は特に注意が要る
  3. 「開いたまま」「歪んでいる」という説明を支える研究は見当たらず、矯正手技の効果を示す試験も存在しない
  4. 効果が示されているのは、個別に評価したうえでの運動と、骨盤底筋のトレーニング
  5. 運動は、体の痛みだけでなく気持ちにも効く

つまり、必要なのは矯正ではなく、「自分はどの段階にいるのか」を一度きちんと見てもらうことです。自然に良くなっていく途中なのか、それとも介入したほうがいい状態なのか。それを見分けるところから始まります。

なお、産後ケア事業を実施している市町村は令和5年度で1,547(平成26年度は29)まで増えています。使える制度も広がっています。(こども家庭庁「産後ケア事業について」2024年11月

7|保健室でしていること

流山本院では、理学療法士が骨盤まわりの筋肉の働き、体幹の使い方、骨盤底筋の収縮を実際に確認したうえで、その方の段階に合った運動をお伝えしています。「矯正して治す」のではなく、自分の体をもう一度うまく使えるようにする、という考え方です。

そして保育士・看護師による託児付きで、生後1か月からお預かりしています。ご自身が専門家に施術を受けている間、赤ちゃんも専門家が担当し、

お預かりの間の様子を、コメントさせていただいております。(ご希望に応じてお写真・動画付き)

理学療法士・助産師・看護師・幼稚園教諭・保育士が多職種チームで関わります。


ご相談・ご予約

女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

女性とこどもの保健室の3つの拠点。流山本院(託児付き)、勝どき出張院(完全予約制プライベートサロン)、横浜みなみレディースクリニック(産婦人科医連携)

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。


 

 

 


本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。

 


参考文献・出典

  1. Wu WH ら「Pregnancy-related pelvic girdle pain (PPP), I: Terminology, clinical presentation, and prevalence」European Spine Journal. 2004. PubMed
  2. Vleeming A, Albert HB, Östgaard HC, Sturesson B, Stuge B.「European guidelines for the diagnosis and treatment of pelvic girdle pain」European Spine Journal. 2008;17(6):794-819. 全文
  3. Aldabe D ら「Pregnancy-related pelvic girdle pain and its relationship with relaxin levels during pregnancy: a systematic review」European Spine Journal. 2012;21(9):1769-1776. 論文
  4. Marnach ML ら「Characterization of the relationship between joint laxity and maternal hormones in pregnancy」Obstetrics and Gynecology. 2003;101(2):331-335. 書誌
  5. Sperstad JB ら「Diastasis recti abdominis during pregnancy and 12 months after childbirth」British Journal of Sports Medicine. 2016;50(17):1092-1096. PubMed
  6. Liddle SD, Pennick V.「Interventions for preventing and treating low-back and pelvic pain during pregnancy」Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015;CD001139.pub4. 抄録
  7. Woodley SJ ら「Pelvic floor muscle training for preventing and treating urinary and faecal incontinence in antenatal and postnatal women」Cochrane Database of Systematic Reviews. 2020;CD007471.pub4. 全文
  8. Moossdorff-Steinhauser HFA ら「Prevalence, incidence and bothersomeness of urinary incontinence between 6 weeks and 1 year post-partum」International Urogynecology Journal. 2021;32:1675-1693. 論文
  9. 徳満敬大, 菅原典夫, 鈴木利人, 古郡規雄, 下田和孝「国内における男女の周産期うつ病の有病割合」精神神経学雑誌. 2023;125(7):613-622. PDF
  10. Halliday B ら「The prevalence of depression in women with pregnancy-related pelvic girdle pain」Health Science Reports. 2024;7(8). 論文
  11. Pritchett RV, Daley AJ, Jolly K.「Does aerobic exercise reduce postpartum depressive symptoms?」British Journal of General Practice. 2017;67(663):e684-e691. 論文
  12. こども家庭庁「令和5年度母子保健事業の実施状況等について」2025. ページ/「産後ケア事業について」2024. PDF

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