【毎日コラム】更年期は、気のせいではない —— 数字で見る不調と、今日からできること

「なんだか疲れが抜けない」「肩と腰がずっと重い」「夜中に目が覚める」。そして病院に行っても、特に異常は見つからない。
40代後半から50代にかけて、そういう時期があります。検査で異常が出ないことと、つらくないことは、別のことです。この記事では、更年期に体の中で実際に何が起きているのかを、国内外のデータで確かめていきます。
そして最後に、この時期にいちばん「効果のある」ことが、実はホットフラッシュ対策ではないという話をします。
1|更年期とは、いつのことか
日本産科婦人科学会の定義では、更年期とは閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間を指します。閉経は「月経が1年以上止まっていることを確認してから、1年前を振り返って」診断されるので、渦中にいるあいだは自分が更年期なのかどうかもはっきりしません。
閉経の時期は50歳前後とされますが、個人差が大きく、早い方で40代前半、遅い方で50代後半です。(日本産科婦人科学会「更年期障害」)
そして症状は、大きく3つに分かれます。
- 血管症状:ほてり、のぼせ、ホットフラッシュ、発汗
- 身体症状:めまい、動悸、頭痛、肩こり、腰痛、関節痛、冷え、疲労
- 心理症状:気分の落ち込み、意欲低下、イライラ、不眠、情緒不安定
ここで注目していただきたいのが、肩こり・腰痛・関節痛が、学会の定義そのものに含まれていることです。「更年期=ホットフラッシュ」というイメージが強いために、体の痛みが更年期と結びつけて考えられないまま、整形外科と婦人科のあいだで行き場をなくしてしまう方が少なくありません。
2|「かもしれない」と思っている人と、相談できている人の差
厚生労働省が2022年に行った意識調査(全国20〜64歳、女性2,975人・男性2,025人)の結果は、この問題の輪郭をはっきり見せてくれます。
更年期障害の可能性があると考えている人は、女性の40代で28.3%、50代で38.3%。50代女性のおよそ5人に2人です。
ところが、医療機関を受診して「更年期障害」と診断された人は、40代で3.6%、50代で9.1%にとどまります。受診していない人は、40代女性で81.7%、50代女性で78.9%。公式の要約でも「男女とも約8〜9割が受診していない」とまとめられています。(厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」2022年)
症状がある人のうち、日常生活への影響が「とてもある・かなりある」と答えた人は約1割、「少しある」を含めると約3割でした。(結果概要)
つまり——多くの人が気づいてはいるのに、ほとんどの人が誰にも相談していない。いじめでも尿もれでも同じ構造が現れますが、更年期でもやはりそうなのです。
3|更年期は、運動器の曲がり角でもある
国際閉経学会誌に2024年に発表された総説は、「更年期の筋骨格系症候群(musculoskeletal syndrome of menopause)」という概念を提唱しています。更年期移行期に70%を超える女性が筋骨格系の症状を経験し、25%が生活の支障(disability)を経験する、という整理です。内容は関節痛、筋量の減少、骨密度の低下、変形性関節症の進行。(Wright VJ ら, Climacteric, 2024;27(5):466-472)
日本人を対象にした研究もあります。閉経後女性172人を、閉経年齢によって3群に分けて調べた八雲スタディでは、卵巣機能の低下が早かった群で変形性膝関節症と強い膝の痛みの割合が有意に高いという結果が出ました。
興味深いのは、筋力や歩行能力といった客観的な身体機能には群間差がなかったのに、ロコモ25(運動器の状態を測る質問票)の疼痛の項目と合計点では有意な差があったことです。著者らはこれを「客観的身体機能は保たれているが、主観的なロコモティブ機能が障害されている」状態と表現しています。(Tanaka S ら, International Orthopaedics, 2026)
検査では異常が出ないのに、つらい。——それは気のせいではなく、研究でもそう観察されている現象だということです。
4|骨は、閉経をはさんだ3年間に最も速く減る
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
日系女性119人を含む862人の多民族コホート(SWAN研究)が、最終月経を基準に骨密度の変化を追跡しました。わかったのは、骨量の減少が最終月経の1年前に始まり、2年後に減速するということ。この3年間を研究者は「トランスメノポーズ」と呼んでいます。
数字で見ると——腰椎の骨密度は10年間で10.6%減少しますが、そのうち7.38%がこの3年間に集中して失われていました。大腿骨頸部でも10年で9.1%のうち5.8%がこの時期です。
そして日本人にとって見逃せないのが、日系・中国系は骨量の減少が速い傾向が示されたことです。(Greendale GA ら, Journal of Bone and Mineral Research, 2012;27(1):111-118)

だるさや関節の痛みで「動くのがおっくう」になる時期と、骨が最も速く減る時期が、ぴたりと重なっている。これが更年期の難しさです。つらいから動かない、動かないから骨と筋肉が減る、という循環が、いちばん避けたい時期に起こりやすい。
5|尿もれも、更年期のサインのひとつ
日本人女性2,503人の調査では、尿失禁の症状をもつ人は40代で28.7%、50代で34.4%。20代の14.4%から、はっきり増えます。そしてこの研究では、腰痛があることも尿失禁と有意に関連する要因として挙げられていました。(Onishi & Shibata, Women’s Health, 2023)
腰が痛いことと、尿がもれることと、体が重いこと。ばらばらの悩みのように感じられますが、骨盤まわりの筋肉という共通の土台でつながっています。
閉経後の女性に限定した5つのランダム化比較試験のメタ分析では、骨盤底筋トレーニングが尿失禁症状を有意に改善させたと報告されています(標準化平均差 −1.30、95%信頼区間 −1.97〜−0.62)。ただし研究間のばらつきが非常に大きい(I²=88.5%)ため、効果の大きさは幅をもって受け取る必要があります。(Marcellou EG ら, European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology, 2024;304:134-140)
6|運動は「何に効いて、何に効かないか」
ここは正直にお伝えします。「運動すれば更年期症状が良くなる」とひとくくりにするのは、事実と違います。症状によって、結論が逆なのです。
ホットフラッシュ:エビデンスは不十分
コクラン・レビュー(5試験・733人)は、運動と無治療を比較して差を見出せませんでした(標準化平均差 −0.10、95%信頼区間 −0.33〜0.13)。エビデンスの質は「低」で、著者結論は「運動が有効な治療であるかを示すにはエビデンスが不十分」です。(Daley A ら, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2014)
気分の落ち込み・不安:はっきり改善する
21件のランダム化比較試験・2,020人のメタ分析では、抑うつ症状が標準化平均差 −0.66(95%信頼区間 −0.99〜−0.33、P<0.001)、不安症状が−0.55と、いずれも有意に改善しました。閉経後の女性ではさらに効果が大きく(−0.94)、しかも低強度でも中強度でも効果に統計的な差はありませんでした。(Yao F ら, International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity, 2025;22:13)
汗だくになるまで頑張る必要はない、というのがこの研究の実用的なメッセージです。
睡眠:不眠の重さには効くが、「睡眠の質」全体では差が出ない
2,463人を対象としたレビューでは、不眠の重症度が有意に改善した一方(標準化平均差 −0.91、P=0.001)、睡眠の質を総合的に測るPSQIの得点では有意差が出ませんでした(P=0.31)。もともと睡眠に問題がある人ほど効果が顕著という傾向も示されています。(Xiaoyan Y ら, Frontiers in Medicine, 2023)
まとめると、運動はほてりの薬にはならないけれど、気分と眠りと、そして骨と筋肉には確実に良い影響がある。この時期に体を動かす理由としては、それで十分だと思います。
7|医療の選択肢も、知っておいてください
ホルモン補充療法(HRT)については、日本女性医学学会が一般向けのガイドブック『ホルモン補充療法の正しい理解をすすめるために』を無料で公開しています。PDFのダウンロードも印刷配布も可能で、動画も用意されています。(日本女性医学学会「HRTガイドブック」)
HRTで改善が期待できるとされるのは、ほてり・異常発汗、腟の乾燥や萎縮症状、頻尿や繰り返す膀胱炎などの泌尿器症状です。血栓症のリスクや肝胆道系の疾患がある場合には、経皮吸収のエストラジオール製剤が第一選択とされています。(日本産婦人科医会 研修ノート)
体を動かすことと、医療を受けることは、どちらか一方ではありません。両方を組み合わせられるのが、いちばん強いです。
8|保健室でしていること
更年期の相談は、行き先が決まりにくいのが難点です。婦人科は症状が典型的でないと相談しづらく、整形外科では「年齢的なもの」で終わってしまう。そのあいだで、多くの方が止まってしまいます。
保健室では、理学療法士が肩・腰・股関節の状態と、骨盤底筋の働きを実際に確認したうえで、その方の体に合った動かし方をお伝えしています。「運動したほうがいいのは分かっているけれど、何をどれくらいやればいいか分からない」——その一点を埋めるのが、私たちの役割だと考えています。
横浜のみなみレディースクリニックでは産婦人科医と連携し、更年期ケア・骨盤底筋トレーニング・ヨガ・よもぎ蒸しなどを、妊娠中から70代まで幅広い世代に提供しています。医療につなぐべき状態かどうかの見極めも含めてご相談いただけます。
骨が最も速く減る3年間は、一度きりです。その時期に、動ける体でいること。更年期の過ごし方として、これ以上に確かな投資はないと思っています。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- 日本産科婦人科学会「更年期障害」ページ
- 厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」2022年. 図表資料/結果概要
- Wright VJ, Schwartzman JD, Itinoche R, Wittstein J.「The musculoskeletal syndrome of menopause」Climacteric. 2024;27(5):466-472. DOI
- Tanaka S ら「Impact of timing of menopause on musculoskeletal disorders and associated pain in community-dwelling women: the Yakumo study」International Orthopaedics. 2026. 論文
- Greendale GA ら「Bone mineral density loss in relation to the final menstrual period in a multiethnic cohort(SWAN)」Journal of Bone and Mineral Research. 2012;27(1):111-118. DOI
- Onishi A, Shibata A.「Prevalence and sociodemographic correlates of urinary incontinence in Japanese women」Women’s Health. 2023;19. 論文
- Marcellou EG ら「Effect of pelvic floor muscle training on urinary incontinence symptoms in postmenopausal women」European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology. 2024;304:134-140. DOI
- Daley A ら「Exercise for vasomotor menopausal symptoms」Cochrane Database of Systematic Reviews. 2014. DOI
- Yao F ら「Physical activity and depressive/anxiety symptoms in menopausal women」International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity. 2025;22:13. 論文
- Xiaoyan Y ら「The effect of exercise intervention on improving sleep in menopausal women」Frontiers in Medicine. 2023;10:1092294. 論文
- 日本女性医学学会「ホルモン補充療法の正しい理解をすすめるために(HRTガイドブック)」2023. ページ


