「HMB」で筋肉を作るスイッチを入れる!
緊急事態宣言が長引いていますね。自粛生活中の皆さんの運動量は如何でしょうか?
極端な例ですが、寝たきりの患者さんの場合、筋肉量は1日に0.5%減少し(1)、さらに栄養摂取が不十分であると筋肉量の減少が加速されることが報告されています(2)。つまり、「食べない」、「動かない」ことが筋肉にとって一番の大敵となります。
筋肉の維持に欠かせない「ロイシン」
筋肉にとって最も重要な栄養素はタンパク質ですが、その中でも必須アミノ酸であるBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)というアミノ酸は筋肉のエネルギーになったり、筋肉そのものの材料になり、筋肉維持に有益であるという報告が数多く存在します。BCAAの一種であるロイシンは約5%がHMB(β -ヒドロキシ-β-メチル酪酸)に変換され、この「HMB」は筋肉量や握力、バランス能力、歩行能力の改善に有用という報告(3)があり、摂取すべき栄養素として以前より注目されています。このHMBは、バリンやイソロイシンからは合成されず、ロイシンからのみ合成されるとされています。
HMBと筋肉量
厚生労働省が平成26年3月に作成した「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討会報告書の中で、「アメリカにおける70歳の地域在住者を対象としたRCT(無作為化比較試験)において、レジスタンス運動(筋力トレーニング)中にHMBを毎日3g補給することにより、筋肉量の増加が期待できることが示された成分」として知られています。HMBタブレットのサプリメントを摂取した研究では、筋肉量の増加促進、減少の抑制が期待でき、アスリートだけではなく、患者様にも使われています。血液中のHMB濃度は加齢に伴い減少し、四肢の除脂肪量との間に正の相関が認められています(4)。
つまり、HMBが不足していると筋肉量が少ない状態と言えます。2019年に発表された、複数の研究を統合して分析 (メタアナリシスやシステマティックレビュー)した研究結果ではHMBのみ、およびHMBを含むサプリメントは、効果量は小さいものの、筋肉量と筋力を改善すると示されています(5)。さらにビタミンDを組み合わせることで筋力が増加すると報告されているので(6)、場所と時間を選んで、外へ出て、適度な日光浴も行ったり軽いランニングを行なうことはとても大切です。
HMBの元となるロイシンは赤身のお肉、マグロ、カツオ、卵などに多く含まれており、手軽に摂れるという点からは卵がお勧めです。
また、アミノ酸スコア100を示す筋肉の材料といえば、「大豆タンパク質」。筋肉の80%はタンパク質で構成されているため、効果的に筋肉を生成するためにはタンパク質の構成成分であるアミノ酸を摂取することが必要です。大豆は「畑の肉」と言われるほど豊富な栄養素が含まれていることで有名ですが、中でもアミノ酸をバランス良く豊富に含んでおり、栄養価の指標であるアミノ酸スコアが100を示す唯一の植物性タンパク質です。
当院でも大豆分離タンパクのプロテインを推奨している理由はそこにあります。
繰り返しになりますが「食べない」、「動かない」ことが筋肉の分解を進行させてしまいます。活動量が低くなりがちな自粛生活が続く中で、今回はあくまでも筋肉量を減らさない、栄養素のお話をしました。筋肉量の増加を目指す方は、筋トレ=運動が必要です。いつも「食事」と「運動」はセットでバランス良く生活しましょう。
参考文献
1)Wall BT,et al : Nutritional strategies to attenu- ate muscle disuse atrophy. Nutr Rev. 2013 Apr;71(4):195-208.
2)Biolo G,et al : Calorie restriction accelerates the catabolism of lean body mass during 2 wk of bed rest. Am J Clin Nutr. 2007 Aug;86(2):366-72.
3) Cruz-Jentoft AJ, et al : Prevalence of and interventions for sarcopenia in ageing adults: a systematic review. Report of the International Sarcopenia Initiative (EWGSOP and IWGS). Age Ageing 43: 748-759, 2014.
4)Kuriyan R, et al : The relationship of endogenous plasma concentrations of β-Hydroxy β-Methyl Butyrate (HMB) to age and total appendicular lean mass in humans. Exp Gerontol. 2016 Aug;81:13-8.
5)Bear DE et al : β-Hydroxy-β-methylbutyrate and its impact on skeletal muscle mass and physical function in clinical practice: a systematic review and meta-analysis. Am J Clin Nutr. 2019 Apr 1;109(4):1119-1132.
6) Fuller JC Jr,et al : JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2011 Nov;35(6):757-62. Vitamin D status affects strength gains in older adults supplemented with a combination of β-hydroxy-β-methylbutyrate, arginine, and lysine: a cohort study.