【毎日コラム】お腹の真ん中が開いたままでも、慌てなくていい —— 腹直筋離開について、研究が言っていること

仰向けで頭を持ち上げると、お腹の真ん中がぽこっと盛り上がる。指が縦に入る。産後、ご自分で気づいて調べ、「腹直筋離開」という言葉にたどり着いた方は多いと思います。
調べると、不安になる情報がたくさん出てきます。腰痛の原因になる、尿もれにつながる、腹筋運動は絶対にしてはいけない——。今日は、それぞれを研究に照らして確かめます。理学療法士のとしても専門の分野なので、効果が示されていないものは、そのまま書きます。
1|産後6週では、6割の人にあります

ノルウェーで初産婦300人を妊娠中から産後12か月まで追いかけた研究です。お腹の中央(白線)が2横指以上開いている状態を離開とすると——
- 妊娠21週:33.1%
- 産後6週:60.0%
- 産後6か月:45.4%
- 産後12か月:32.6%
超音波で測った別の研究では、妊娠35週の時点で全員(100%)に離開があり、産後6か月で39%でした。
妊娠後期には、ほぼ全員のお腹が開きます。赤ちゃんが育つ場所を作るための、体の正常な変化です。そして時間とともに戻っていきます。
大事なのは程度です。ノルウェーの研究では、産後12か月で残っていた人のうち、中等度の離開は全体の1.1%、重度は0%。ほとんどが軽度でした。
2|「何cmから異常か」は、決まっていません
意外かもしれませんが、腹直筋離開には統一された診断基準がありません。研究によって「2横指以上」「16mm」「22mm」「25mm以上」と、基準がばらばらです。欧州ヘルニア学会は「2cm超」を提案していますが、根拠の質は低いと自ら認めています。
出産したことのない女性でも、おへその上で2cmほどの幅はふつうにあります。初産婦の産後6か月では、おへその上2cmで17〜28mmが、真ん中あたり(20〜80パーセンタイル)の範囲でした。出産した人の「ふつう」は、出産していない人より広いのです。
測り方にも差があります。超音波やノギスは信頼性が高い一方、指で測る方法は、同じ人が測ればおおむね一致するものの、測る人が変わると一致率は6割ほどでした。「3横指開いています」と言われても、別の人が測れば2横指かもしれません。
3|腰痛や尿もれの原因になる、は示されていません
ここが、いちばんお伝えしたいところです。
12研究・2,242人をまとめた系統的レビュー(2019年)の結論は、腹直筋離開の有無と、腰・骨盤の痛みや尿もれとの間に、有意な関連はないというものでした。骨盤臓器脱とは小さな関連がありましたが、根拠は弱いとされています。
ほかの研究も同じ方向です。
- ノルウェーの300人の追跡:離開がある人とない人で、腰・骨盤の痛みに差なし
- 骨盤底に注目した研究:離開のある女性で骨盤底筋が弱い、尿もれや臓器脱が多い、という結果は示されなかった
- フィンランドの933人:3〜5cmの離開だけでは、腰痛や機能の低下を説明できない
- 腰痛との関連を調べた13研究のうち、8研究で関連なし
腹筋の力がやや弱い傾向、お腹の痛みがやや多い傾向を報告した研究はあります。離開の幅が大きいほど症状が出やすい可能性も、指摘されてはいます。ただ、「お腹が開いているから腰が痛い」「開いているから尿がもれる」という説明は、研究では支持されていません。
腰痛や尿もれがある方は、離開のせいだと決めつけず、それぞれを別のものとして見たほうが、解決に近づきます。
4|運動で、すき間は縮むのか
私たちの仕事に関わる部分です。正直に書きます。
16試験・698人をまとめた分析(2023年)では、腹部の運動によってすき間が縮んだ幅は平均0.43cmでした。著者の結論は「保存的な介入は、臨床的に意味のある縮小をもたらさない」。
別のレビュー(7試験・381人)も、深い腹筋(腹横筋)のトレーニングで0.63cm縮んだものの、根拠の質は「非常に低い」とし、「特定の運動プログラムを推奨できる根拠は非常に弱い」と結論しています。
産後の運動教室の効果を見た175人の試験でも、離開のある人の割合は減りませんでした。
つまり、「この運動をすればお腹の開きが閉じます」とは、いまの研究からは言えません。すき間の幅は、主に時間とともに変わっていきます。
では運動に意味がないかというと、そうではありません。同じ試験で、腹筋の力と厚みは増えていました。幅は変わらなくても、お腹を使える力は育ちます。目標を「すき間を閉じる」から「お腹を使えるようにする」に置き換えると、運動の意味がはっきりします。
5|「腹筋運動は絶対ダメ」に、根拠はあるか
離開がある人は、上体を起こす腹筋運動(クランチ)をしてはいけない。広く言われていることです。
これを直接確かめた試験があります。離開のある産後の女性70人が、頭を上げる・上体を起こす・ひねる運動を週5日、12週間続けました。結果、すき間の幅は改善も悪化もしませんでした(差は1mm)。腹筋の力と厚みは増え、骨盤底の症状や痛みに変化はありませんでした。
さらに、運動中の変化を超音波で見た研究では、上体を起こす動きではすき間が狭まり、お腹を引き込む動き(ドローイン)ではむしろ広がることが分かっています。「狭まるから良い」とも言い切れない、と研究者は注意していますが、少なくとも「腹筋運動で開く」という単純な話ではありません。
妊娠中についても、96人の試験で、腹筋と骨盤底筋の運動は離開を増やしませんでした。
ただし、限界も書いておきます。これらの試験の対象は産後6〜12か月の女性です。産後すぐの時期や、開きがとても大きい方に、そのまま当てはめることはできません。お腹の中央が大きく盛り上がる、痛みがある、という場合は、無理に続けず相談してください。
6|腹帯・コルセット・テーピング
産後8週の62人を対象に、筒状の包帯と硬いベルトを比べた試験では、どちらも差がなく、つけていた時間と縮み方にも関連がありませんでした。著者は「自然な回復を上回るかは疑問」と書いています。
別の小規模な試験では、腹帯は体の見え方についての気持ち(ボディイメージ)に小さな効果がありましたが、すき間そのものへの効果は確立していません。テーピングは、48時間以内の変化を見た予備的な試験があるだけです。
巻くことで、すき間が長い目で縮むことは示されていません。支えがあると楽、安心する、という理由で使うのは構いません。ただ、高価な専用ベルトを「閉じるため」に買う必要はなさそうです。
7|なりやすい人は、分かっているのか
ノルウェーの研究では、年齢、体重、妊娠中の体重増加、分娩の方法、赤ちゃんの体重、運動習慣のいずれも、離開と関連していませんでした。唯一関連があったのは、週20回以上、重いものを持ち上げることです。
総説も「リスク因子について合意はない」とまとめています。出産回数、体格、多胎などが候補に挙がっていますが、決め手はありません。
つまり、なったことに、ご本人の落ち度はありません。体重管理が悪かったからでも、運動が足りなかったからでもないのです。
8|保健室でお手伝いできること
ここまで読むと「では、何もできないのか」と思われるかもしれません。できることは、あります。
- いまの状態を確かめる——どのくらいの幅で、どの位置か。そして力を入れたときに、お腹がどう動くか。幅より、使えているかどうかを見ます
- 腰痛や尿もれは、別のものとして診る——離開のせいと決めずに、それぞれの原因を探します。尿もれには、効果のはっきりした方法があります
- 「やってはいけない」を減らす——怖くて何もできなくなっている方が多いのです。何をしてよくて、どこで止めるかを一緒に確かめます
- お腹を使う力を育てる——幅を縮めるためではなく、抱っこや立ち上がりが楽になるための運動です
- 手術が選択肢になる場合の見きわめ——開きがとても大きく、ヘルニアを伴うような場合は、形成外科や外科をご案内します
「この運動で閉じます」とは言いません。その代わり、分かっていることを全部お話しします。
9|今日から持ち帰っていただきたい5つのこと
- 産後6週で6割、12か月で3割。残っている人のほとんどは軽度です。妊娠後期には、ほぼ全員が開いています。
- 「何cmから異常」という統一基準はありません。指で測る方法は、測る人によって変わります。
- 腰痛や尿もれの原因になる、とは示されていません。別のものとして見たほうが解決に近づきます。
- 運動ですき間が意味のあるほど縮むことは、示されていません。ただし、お腹の力は育ちます。
- 腹筋運動で悪化する、という根拠も示されていません。腹帯で閉じるという根拠もありません。
開いたお腹は、赤ちゃんを育てた跡です。急いで閉じなくても、体は使えるようになります。
ご相談・ご予約
女性とこどもの保健室は、理学療法士・助産師・看護師・保育士が連携して、妊活から更年期まで女性の体をみる施設です。流山本院は保育士・看護師による託児付き(生後1か月からお預かりしています)、勝どき出張院は完全予約制のプライベートサロン、横浜は産婦人科医と連携した骨盤底筋ケアを行っています。

「病院に行くほどではないけれど、誰かに診てもらいたい」——その段階でのご相談を、いちばん歓迎しています。
本記事は公開されている研究論文および公的統計にもとづく一般的な情報提供です。症状や発達の原因は人によって異なります。個別の状況については、医療機関や専門職にご相談ください。
参考文献・出典
- Sperstad JB, et al. Diastasis recti abdominis during pregnancy and 12 months after childbirth: prevalence, risk factors and report of lumbopelvic pain. Br J Sports Med. 2016;50(17):1092-1096.
- Mota PG, et al. Prevalence and risk factors of diastasis recti abdominis from late pregnancy to 6 months postpartum, and relationship with lumbo-pelvic pain. Man Ther. 2015;20(1):200-205.
- Hernández-Granados P, et al. European Hernia Society guidelines on management of rectus diastasis. Br J Surg. 2021;108(10):1189-1191.
- Beer GM, et al. The normal width of the linea alba in nulliparous women. Clin Anat. 2009;22(6):706-711.
- Mota P, et al. Normal width of the inter-recti distance in pregnant and postpartum primiparous women. Musculoskelet Sci Pract. 2018;35:34-37.
- van de Water AT, Benjamin DR. Measurement methods to assess diastasis of the rectus abdominis muscle (DRAM): A systematic review of their measurement properties and meta-analytic reliability generalisation. Man Ther. 2016;21:41-53.
- Benjamin DR, et al. Relationship between diastasis of the rectus abdominis muscle (DRAM) and musculoskeletal dysfunctions, pain and quality of life: a systematic review. Physiotherapy. 2019;105(1):24-34.
- Bø K, et al. Pelvic floor muscle function, pelvic floor dysfunction and diastasis recti abdominis: Prospective cohort study. Neurourol Urodyn. 2017;36(3):716-721.
- Tuominen R, et al. The prevalence and consequences of abdominal rectus muscle diastasis among Finnish women: an epidemiological cohort study. Hernia. 2022;26(2):599-608.
- Benjamin DR, et al. Conservative interventions may have little effect on reducing diastasis of the rectus abdominis in postnatal women: a systematic review and meta-analysis. Physiotherapy. 2023;119:54-71.
- Gluppe S, et al. What is the evidence for abdominal and pelvic floor muscle training to treat diastasis recti abdominis postpartum? A systematic review with meta-analysis. Braz J Phys Ther. 2021;25(6):664-675.
- Gluppe SL, et al. Effect of a Postpartum Training Program on the Prevalence of Diastasis Recti Abdominis in Postpartum Primiparous Women: A Randomized Controlled Trial. Phys Ther. 2018;98(4):260-268.
- Gluppe SB, et al. Curl-up exercises improve abdominal muscle strength without worsening inter-recti distance in women with diastasis recti abdominis postpartum: a randomised controlled trial. J Physiother. 2023;69(3):160-167.
- Theodorsen NM, et al. 2024.(妊娠中の腹筋・骨盤底筋運動と腹直筋間距離のランダム化比較試験)
- Depledge J, et al. 2023.(産後女性における腹部サポートのランダム化比較試験)
- Cavalli M, et al. Prevalence and risk factors for diastasis recti abdominis: a review and proposal of a new anatomical variation. Hernia. 2021;25(4):883-890.


